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第8話・魔王様、ギルドに向かう

これからも、頑張って行きます。

感想などがありましたら、どんどんお寄せ下さい!!

ごーん。

時を知らせる、街にある教会の鐘が1度鳴る。

鐘が鳴るのは一日で16回。

そのうち、朝一番が2度。

昼の七回目の鐘が3度。

夜に最後の鐘が2度。

そのほかの時間に1度ずつ鳴って、1日が終わりとなる。

今鳴ったのは、1日のうちの15回目の鐘。

つまり日本で言う、だいたい午後8時くらいである。


無事街の中へ入った魔王様は、門番に教えてもらった通りに、街の広場へと歩を進めていた。

そこに、目指す『冒険者ギルド』が存在するようだ。


「しかしなんと、活気に満ちた街じゃ。 400年前はただの寂れた農村だったと言うに・・・」


関心仕切りと言った風で、視界に移る店や露店を、見て回る彼女。

日も暮れたというのに街は、ともる明かりで昼のように明るい。

人々も『これから』と言った風で、まったく店を閉めるような気配は無い。

400年前に人間の街へ行ったときには、日暮れと共に人々は大抵、寝るしかなかった。

それとは、エライ違いである。

今さらながら、彼女は浦島太郎みたいな気分になっていた。

元々知り合いなぞ居ないので、寂しい事などはないが。


「これだけ大きければ、素材の買取もレートが高いやも知れぬな。」


うんうんと、さも嬉しそうにうなづく。

冒険者は、なにも討伐だけが仕事ではない。

獲物を倒し、または採集などし、それを商店などに売るのも、稼ぎの一つである。

獲物の毛皮や肉は、高く売れる場合が多いのだ。

シアが進む先には、多くの商店が軒を連ねていた。

店が多ければ多いほど、店は『競争』をする。

素材の奪い合いなども、起こるだろう。

つまり『素材』の買取額は、より高くなりうるわけだ。

長い期間を貧乏していたので、世間から置いてけぼりを食らっていた魔王様も、それぐらいの事は理解していた。

400年でそこまで、変わるような事でもないであろう事は、おおよそ察しがつく。

より高く買い取ってもらえば、それだけ魔王城の財政も良くなるので、ここのところは非常に重要である。

上手くいけば、一ヶ月に一本ぐらい、ウインナーソーセージが食えるかもしれない。

思わず、舌なめずりをする。


「っと、いかんいかん! 感傷に浸っている場合ではないわ!」


ウインナーソーセージは、あくまで妄想。

稼ぎがなければ、それもまた夢と終わる。

そもそも前提として自分が、『冒険者』にならなければ、話にならない。

一刻も早く多くを稼いで、魔族は貧乏を抜け出さなければならないのだ。


「ここじゃな?」


考え事をしているうちに、魔王様は目指す場所へと到着した。

活気に満ちた街から少し外れた場所に、その目的の建物はあった。

掲げられた看板には、盾と剣、それに杖が図案化されたものが大きく、書かれている。

ここがシアが目指していた、『冒険者ギルド』である。


「む・・・? もしや閉まっておるのか!?」


そしてやっと着いた建物の明かりは、全く点いていなかった。

建物の中は真っ暗で、中は何も見えない。

入り口には『またのお越しを』と書いてあるプレートが下げられている。

どうやら今日の営業は、終了したようだ。


「バカな!? ギルドは一日中開いているものであろう!??」


バンバンと、扉をたたく。

『冒険者』はその仕事内容上、夜にギルドを訪れる事も珍しい事ではない。

その関係で普通、『冒険者ギルド』は24時間営業なのである。

依頼達成報告や、依頼受領など、イロイロ24時間営業でないと困る事も多いのだ。

・・・少なくとも、昔のシアの記憶では、そうなっていた。

自分に都合がいいよう、400年の間に記憶が改変されている可能性も、十分にあった。

とはいえ、彼女は今、それどころではない。


「まさか明日にならなければ開かぬのか!? それではダメなのじゃ!! せめて冒険者登録だけでも・・・!!!」


往生際悪く、入り口のドアをしきりにたたく。

扉をたたく音が、静寂に包まれた街の一角に響き渡る。

これでももちろん、手加減ぐらいはしている。

それでも十分、今にも扉が破壊されてしまいかねないが。


するとしばらくして、『ギルドの建物』の室内の明かりが灯った。

どうやらまだ中に、人が残っていたようだ。

運が良かった。

扉をたたくのは止め、ドアから一歩下がる。

ドアのカーテンに人影が映り、ガチャっとドアが開く。


「おや、お嬢ちゃんこんな時間に何か用かい?」


建物の中から出てきたのは、青いパジャマ姿のおじいさんだった。

どうやら、寝ている最中だったようす。

彼は細い目を大きく見開き、扉の前に立つ幼女姿の魔王様へ、視線を向ける。


「ああ・・・夜分におしかけてすまない。 門番に『ギルドはここ』だと聞いたもので、うかがったのじゃ。」


まさか人が住んでいるとは思わなかった。

予想外の展開に及び腰になってしまう彼女。

ちょっと、悪い事をしてしまった気分だ。

起きてきたおじいさんには、ちょっとした経緯を説明する。

と言っても『ギルドを探していた』と言う話しかしないが。

いくら取り乱しているとはいえ、その点に抜かりは無かった。

世の中どこに『落とし穴』があるかなど、分からないのだ。

仮に自分が『魔王』とバレでもしたら、確実に出稼ぎどころではなくなる。


「何!? もしやお嬢ちゃん、『ギルド』に用があって来たのかい!??」


先ほど大きく見開いていた目を、さらに大きく開くおじいさん。

ここ最近、訪れる人間もめっきり減ってしまったとの事だ。

冒険者になる者が、減っているのだろうか?

それとも、皆がもっと、大きな街へ行っているとか?

ここでも十分に、大きな街なのに・・・

人間とは、欲張りな生き物じゃ。

まあ、それはさておき。


「ご老人はギルドマスターか? せめて我の『登録』だけでも行ってほしいものなのだが・・・」


「ううぅぅう、懐かしい響きじゃ! ・・お嬢ちゃん、中に入るかい? 本当はもう、閉館しているのじゃが、特別にワシが案内しようではないか。」


「おお、そうか! ありがたい!! さすがはギルドマスターじゃ!!」


涙を流さんばかりに感動仕切りと言った様子を浮かべたおじいさんは、胸を張って高らかに、そう宣言した。

先ほどまでの眠そうな表情はどこへやら。

おじいさんの目に、炎が灯ったように映った。

一体、どうしたと言うのだろうか??


しかし、なにはともあれ良かったと言える。

最初、このパジャマ姿のご老人が姿を現したときには、正直『明日まで待て』と突き放される気しかしなかった。

こんなに話がトントン拍子にいくとは、夢にも思わなんだ。

世の中、上手くいくものであるな。

おじいさんは『少し待て』と言って家の奥へ入っていたかと思うと、転移を使ったのではないかと思われるほどの速さで、入り口にまた戻ってきた。

服装も変わり、はだけたパジャマ姿から、パリッと整ったスーツ姿に様変わりしている。

おそるべき変わり身の早さだ。

・・・文字通りの意味で。


「さあようこそ、『冒険者ギルド史料館』へ!! ワシが案内人を務めるマイロじゃ。 よろしくな?」


「ああ、よろしく頼むぞ。 ギルドマスターのマイロよ。」


おじいさんに案内されるまま、建物内へと躊躇ちゅうちょ無く入っていく魔王様。

そこには、一切の迷いは感じられない。


しかし何やら二人の間でわされる話が、地味にかみ合っていない様子だ。

よくは分からないが、不安である。



彼女の受難は、まだ始まってすら居ない・・・


魔王様は念願どおり、『冒険者』となることが出来るのか!?

次回に続く!!

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