第7話・魔王様、通行を止められる
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「よかろう、我が名は『エティシア=ライザック』、歳は14歳じゃ。」
番兵の質問に、尊大な態度で答える魔王様。
当の兵士は気にした様子も無く、もくもくと書類になにやら書き込んでいく。
ちなみに名前で魔王とバレないよう、苗字は偽名にさせてもらった。
歳も同様、まさか『400歳越えです』とは言えないので、偽造した。
もし言ったとしても多分、『亜人か』と思われるに過ぎないとは考えられるのであるが。
そこのところは日頃、彼女の言う『乙女心』が、この年齢偽装に大きく関わっていたりする。
「14かぁ・・・・この辺りでは見かけない姿だけど、だいぶ遠くから来たのかい?」
「森の向こう側から来たのじゃ。 この街には知り合いに呼ばれて、会いに来たのじゃ。」
魔王城が貧困にあえぎ、それが元で街へ出稼ぎに来たなんて言えない。
兵士に事実関係などを詮索される恐れも少なく、『理由付け』としてはまあまあ、及第点と言えよう。
何より、訪れた時期がよかった。
特にシアは、狙ってきたわけではないが。
「そうか、お嬢ちゃん『ハローン祭り』に来たのか。 それでそんな格好をして遠路はるばる来たんだね?」
「『ハローン祭り』じゃと?」
彼女の疑問に、よっぽどの田舎から何も教えられずに、ただ指定されるまま街に住む肉親の家へ来たと錯覚した兵士は、彼女にこの祭りについての説明を始めた。
『ハローン祭り』
主に子供が仮装し、家々をめぐって『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』と言って回る一年に一度、街で催される行事である。
なんでも300年前にこの街を襲った大干ばつに、土地神の『ハローン』が現われ、土地を潤した。
その後も豊作が続いたため住民が、子供に土地で取れた作物を与えた事が起源らしい。
しかし何年かに一度、『神のイタズラ』と呼ばれる災害があり、その上『子供に与えるのならば、お菓子のほうが良いのでは?』との意見から、現在のような形となったようだ。
そう言えば300年前にエルフ達が、食べ物を急に分けてくれなくなった時期があった。
それがきっと、これだったのであろう。
ちなみに以後どうなったかは、現状のとおりだ。
「ハローン祭りは3日後に、街を挙げて開催されるからすぐに分かるよ。 楽しんで行ってね?」
「そうか、面白そうなものが催されるのだな。」
再び、なにやら書類へ書き込む兵士。
その表情は、会った当初よりもかなり柔らかいものとなっていた。
「念のため、お嬢ちゃんの持っている荷物をみんな見せてもらえるかな? ポケットや袋の中身なんかも全部。」
「それならば、これで全部じゃ。」
そう言って、兵士に腰から外した布袋と、背中から外した剣を鞘ごと見せるシア。
一転して、兵士は表情を曇らせた。
原則街の中へは許可がある者以外、『武器』は持ち込めない事になっている。
つまりもし本物であれば、この剣は没収しなければならない。
兵士は渡された布袋の中を確認し、すぐに『問題ナシ』と判断して、これをシアへと返す。
剣も同様だった。
鞘から抜くと、出てきたのは柄だけ。
中にあると思われた剣体は、影も形も無かった。
これならば、『武器』ではないので、街へ持ち込んでも何も問題は無い。
きっと、仮装の小道具なのだろうと、兵士は捉えた。
しかし兵士の曇った表情は、一層、かげりを見せる。
「これで全部か・・・う~ん、お嬢ちゃんお金は持ってないの? 実は街へ入るには、税金を納めなければいけない決まりになっているのだけど・・・」
「な、なに!?」
うっかりしていた。
そう言われてみれば400年前に訪れたときも、払った覚えがある。
当然払わなければ、街へは入れない。
先ほど同様に、頭を抱える彼女。
だが現状、もしそれを魔王城出立時点で思い出していたとしても、城から金を持ってくる事は出来なかった。
だとすれば、自分はどうしたらいいか。
頭を抱えて地面へうずくまり、思案にふける。
これはこれで結構、ヒサンな絵面だった。
兵士もどうにかできないかと、隣にいた上司へ相談する。
例えば、後で肉親の方に持って来てもらうとか。
だが、例外は認められないとの事で、上司は首を横に振った。
通行する際に、税金は納めてもらう。
それに例外を作るわけには行かなかった。
しかし遠路はるばる、ここまでやって来た女の子を追い返すのは、あまりにも忍びない。
どう説明したらよいものかと、困惑と悲愴が入り混じった表情を浮かべる兵士。
「あ、あのお嬢ちゃん、例えば今から・・・」
家へ帰って、お金を取ってくることはできないかと、彼女へ聞こうとする兵士。
無理である事は分かっていたが、どうもストレートにそれは、言えなかった。
相手はまだ、子供なのだから。
しかしここまで言ったところで、顔を上げた彼女が、何かを言おうとしていることに気がつき、話を止める。
「門番よ、金ではなく何か代わりとなるようなものであれば、それでも良いか?」
「え? まあ・・そういうのも認められていなくは無いけど・・・」
街へ訪れる者の中には、お金を見た事もない田舎からやってくる者が来ることも、ザラにある。
そういった者達には、『例外措置』として、物による納税も認められてはいた。
目の前の彼女も『田舎から来た』と言ったので、この措置は使えなくは無かった。
だが彼女の持ち物は、パンと小道具のなんちゃって剣だけ。
さすがにそれで、ここは通せない。
しかしそれを説明するより前に、彼女の手は青白く光る。
光が収束すると、彼女の手のひらには黒光りする棒が、生成されていた。
その光景を前に、兵士は、驚愕の声を上げた。
「こ、これはオリハルコン鋼!? お嬢ちゃん、魔法で生成ができるの!??」
「まあな。」
その事実に、他の兵士や並んでいた人間達からも、驚きの声が上がる。
『オリハルコン鋼』とは、この世界で一番硬いといわれる、合金だ。
その生成方法は魔力を練り固める事なのだが、それには莫大な魔力と、多くの知識や技術が必要とされ、これが作れるのは、『職人』だけであった。
それを、年端も行かない幼女がやってのけたのだ。
驚きの声が上がるのは、当然と言える。
魔王様もその辺りを理解したうえで、これを生成した。
これならば、街への入場には十分、事足りるであろうとの考えだ。
ちなみになぜ、このようなものが生成できるのにそれを、エルフとの交易品に使わなかったのかと言うと、奴らはこれを、あまり欲しがっていなかったためだ。
相手が欲しがらなければ、交易品としては使えない。
奴らには合金より、宝石や服飾などがよっぽどウケる。
そんなムダをするほど、オリハルコン鋼生成は、簡単なものではないのだ。
それに生成のあと、かなり疲れるので敬遠していたのも一端だ。
生成は、およそ300年ぶりのことである。
「うん、これなら大丈夫。 でも税金には多すぎる量だよ? もらっていいのかい?」
「うーむ、面倒だから良い。 もらっておけ。」
オリハルコンは硬いので、加工にもかなり面倒な魔力操作が必要となる。
なにより税金分だけを計って渡すなどと言う、面倒な事はしたくなかった。
それ位の量ならいつでも出来るので、一回だけならば『惜しい』と言った感情も湧いては来ない。
「最後にこの水晶に手をかざしてもらえる? 規則で君の『犯罪歴』を見なきゃいけないんだ。」
そう言って彼女に、大きくて透明な水晶球を渡してくる兵士。
触れると、淡く光った後に、水晶は再び透明に戻った。
なるほど、記憶などを読み取ってその所業などを精査し、『色』で表す仕掛けになっているようだ。
なかなかに面白い魔道具である。
「うん、君に犯罪歴は無いね? ようこそ『ブライト』へ!! もう街へ入ってもらって、一向に構わないよ?」
「そうか、それならば良かった。 ではな。」
今度こそ、街へ入れるようじゃ。
実に長かったのぅ・・・・
来たのは昼過ぎだったと言うのに、もう辺りは真っ暗。
日暮れと共に城門が閉まらずに助かったが、『門番』というのも大変な仕事のようじゃ。
兵士に別れの挨拶を交わす。
そうそう、肝心な事を聞いておらなんだ。
我はこの街を、よく知らぬからな。
危うく朝まで街中を、さまよう事になるところじゃった。
「門番よ、ひとつ聞いても良いかの?」
「ああ、なんだい??」
一ヶ月遅れのハロウィーンの回でした。
時代遅れの筆者には、丁度いいかもしれません。
(自分への皮肉)