第71話・魔王様と、時のイタズラ
もう2017年が終わります。
1年が経つのは、早いものですねー。
皆さんも良いお年を!
ブライトで、指名手配の極悪人の十数人が捕まってから、数日が過ぎた。
先日は、野次馬の群衆で埋め尽くされていた公園も、昼という時間もあってか、人影はまばらである。
そのせいか、公園のベンチに座る2人の女性の姿は、否が応にも目立っていた。
「やっぱりあれは、シアさんだったんですか!」
「自慢にもならんがな。」
魔王が話していたのは、セリアだ。
双方とも今日は仕事休みで、私服姿になっている。
先日の犯人逮捕劇は街中が知るところとなり、連日お祭りのような騒ぎであった。
それもこれも、まるで広告塔のように表彰されたせいである!
・・にも関わらず、表彰を受けた後に群衆に取り巻かれるようなことは、回避できた。
顔には即席で作り上げた仮面をかぶり、その顔が分からぬようにしたのが功を成した結果。
他にも軽く『認識阻害』の魔法も展開したため、少なくとも知人以外には『変わった風体の女』にしか見えなかった筈だ。
「最初は私も、分かりませんでしたよ。」
「それで良いのだ、利用されるのはゴメンだからな。」
必要以上に誇張して表彰した、あの領主の思惑など、手に取るように分かった。
表彰にかこつけて、あの領主は民衆を集め、自分の政策発表などの舞台を設けたのである。
愚か、とは思わない。
計略し陰謀し、事を運ぶのはいつの時代、どの種族でも等しく同じ事。
だが善くも悪くも真っ直ぐな現代魔王にとって、自分が客引きパンダにされたという事実は、どうして腹立たしい気持ちを抱かされた。
「もったい無いですねぇ、有名になれるチャンスだったのに。」
「私は目立ちたいワケでは無いからな。」
ソレはそうかもしれないですけど・・とセリアが口をすぼめる。
今の魔王は、あくまで『一市民』としての生活を送っている。
もし有名になるような事があれば、身分がバレてしまう事もありえた。
身バレ=死を意味する現状、絶対に避けねばならない事なのである!
この話は口を滑らせかねないので、魔王は話題を変えた。
「それより仕事は良いのか?」
「ご心配なく、私もシアさんと一緒です。」
セリアはそう言って、魔王の前で胸を張って見せた。
魔王が勤めている『はぐれ者亭』は、概ね2日おきに休みをとらされる。
商会に勤めていた頃より休日が多く、件の警備の仕事は夜間のみ。
おかげで、こうして駄弁っていても気兼ねする事がなかった。
前より一層に身を粉にして働いているはずなのに、あの頃より暇な時間が多いというのは、まったく皮肉な話だ。
「そんな事よりシアさん、聞きたい事は良いんですか?」
「ああ、そうであったな。」
今日は何も、わざわざ魔王の武勇を蒸し返す為に、貴重な休みを彼女に削ってもらったワケではない。
魔王には、最近になって、気になっていたことがあるのだ。
「セリア、心して聞いて欲しい。」
「な、何ですか改まって・・・。」
これまでの軽い空気は消え、一挙に重い空気に支配される場の空気。
双方とも真剣な面持ちで、お互いを見た。
「この間に街の詰め所で会ったろう、あの兵士は何者だ?」
「・・・・へ?」
思い掛けない質問だったのか、表情をひきしめていたセリアは素っ頓狂な返事を返す。
魔王が言っているのは、少し前に炭酸ガスを買い付けた際、スピード違反で止めた街の警備兵の話である。
あれ以降、何かと彼女はあの兵士を、気に掛けているようだった。
なぜか、は分からないが。
そんな事情など知る由も無く、少し考える素振りを見せたセリアは、話し始めた。
「あぁオルザの事ですか、彼は私の幼馴染ですよ。 前は私を苛めてばかりだったのに、それが兵士になるなんて・・・」
でるわでるわ、まるで沸かした湯が噴出すように、過去の話が彼女の口から語られる。
2人で遊んだこと、イジワルされてセリアが泣かされたこと、入ってはいけないところへ行って揃って大人に怒られたこと、一緒に出かけたこと等・・・
楽しそうに、過去を懐かしむように話して聞かせた。
それを魔王は、黙って聞いた。
「他にも・・あっ、ごめんなさい。 つまらなかったですよね!」
「いや、良い話を聞かせて貰ったよ。 セリアは、彼を好いているのだな。」
魔王がそう発した瞬間、セリアは顔をみるみる紅潮させていった。
それが恥ずかしさから来るものなのか、それ以外なのかは分からない。
「そ、そんなんじゃありませんよォ、やだなあシアさんは! 違います、違いますよぉ!!」
「・・・スマン、野暮な事を言った。」
当事者のセリアは怪しいほどに、何度も否定を繰り返した。
魔王の読みも、あながち的外れであったというわけでも、無さそうである。
これ以上は第三者の魔王は、踏み入れるつもりは無かった。
「セリアが奴を慕っているのは分かったが、私が聞きたいのは他の事だ。 オルザは人族か?」
先ほどのように、再び真剣な面持ちでモノを訊ねる魔王。
だが、そう聞いた瞬間、後悔した。
セリアは得心いかずといった風に、小首を傾げる。
「もちろんですよ、シアさんも見たでしょう?」
「そうか・・、うん、そうだったな。」
まるで自分に言い聞かせるように、何度も首を縦に振る。
それを見てセリアは更に疑問を募らせたが、それを口に出すことは無かった。
思いがけぬ人物が、そこに現れたためだ。
「やっと見つけた、ずいぶん探したぞ!」
「オルザ・・・あれ?」
彼はセリアには目もくれず、つかつかと魔王の方へ詰め寄った。
用があるのは、こっちらしい。
「店の人に聞いたら、ここに居ると聞いてね・・。 これを君に渡すようにと、領主様に言い使ってきたんだ。」
「私にか?」
兵士姿のオルザから渡されたのは、黒光りする重厚な箱。
否が応にも中身に期待が高まるが、開けてみれば、なんてことは無い。
『感謝状』とデカデカと書かれた紙が一枚だけである。
魔王はずっこけるのを、ギリギリで堪える事には、何とか成功した。
「ん・・もしかして期待させちゃったかい?」
「いや。」
本当は表彰状なんかより、パンとか生肉とかが良かったのだけれど。
などとは言えず、魔王は受け取った賞状を丸めてポケットへ突っ込んだ。
それをセリアが、興味深げに覗き込む。
「それ、この間の・・・。」
「そうらしい。」
まるで他人の事のように、魔王は素っ気無く答える。
人間の表彰なんか貰っても・・・
ここでセリアが、ちょうど良かったとばかりに、両手を打ち鳴らした。
「そうだオルザ、今あなたの話をしていたところなのよ!」
「ボクの?」
彼女が視線を向けると、つられて彼も魔王へ視線を向ける。
魔王は肩をすくめて、もう済んだと彼に伝えると、自分はベンチを立ってスカートを払った。
「では私はこれで失礼する。 今日はありがとう。」
「そうですか、こちらこそ楽しかったです。」
「今回の事は、ウチの同僚も高く評価しているよ。 今度また会ったら、奢ろう。」
手をヒラヒラさせ、背中越しに挨拶して去っていく魔王。
彼女は時おり後ろを伺いながら、小さなっていく2人の姿を視界の端に捉えた。
「時のいたずらか・・・だから神はイケ好かんのだ。」
天を仰げば、そこには大きな入道雲が空を覆いつつある。
これから嵐が来るかもしれない。
いつか見た、ひと時の『夢』
過ぎた時間は、もう戻っては来ない・・
次回
第72話「魔王様、夢を見る」をお楽しみに。
※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。
あらかじめご了承下さい。




