第69話・魔王様、ちょっと名を上げる その1
冬の童話祭2018に、5作品を投稿しました。
拙作の『オタクはチートを望まない』と同じ世界観で描いております。
よろしければ、どうぞ。
警備兵は治安維持や門番などとして、国境や多くの町に置かれている、主に領主が主導する機関である。
ブライトにおいても、外に出れば見回りに出会うことが出来るぐらい、その数は多い。
かの街の治安が良いのも、その辺りが大きく関係しているのは明白だろう。
「ふあぁ・・・」
だが人通りの多いのは昼だけ、夜のとばりが降りると街は、ウソのように人通りが無くなってしまう。
こんな時間では道を聞く者の姿など無く、ただ静けさだけが街を支配していた。
夜勤の警備兵のやる事と言えば、眠さに打ち勝つため欠伸をかみ殺すことぐらいであろうか。
カランカラン!
「っ、誰か来たかな?」
丁度そのとき、詰め所には訪問客が現れた。
珍しいことではない、夜は尋ね人がない代わりに酔っ払いが増えるのだ。
おおかたケンカを起こしたか、道端で寝ていたか・・
そんな考えを、警備兵の男は巡らした。
しかし入り口の鐘が鳴ってから、いつまで経っても客は姿を現さない。
「おかしいな・・・?」
不審に思った彼が入り口まで出ると、そこには一人の男性が倒れていた。
服や髪は乱れ、ところどころ打撲痕すら見受けられ。
どう見ても酔っ払いケンカの範疇を超えている!
「た・・助けて、警備の兵士さん。」
「ど、どうされました!?」
事件かと戦慄する兵士だったが刹那、倒れている男の顔には、既視感を覚えた。
知り合いではないと言うのに、何故そんなモノを覚えるのか。
おかしい・・・・・。
不思議に思って、彼が詰め所に掲げられているボードの似顔絵へ視線を移すと・・・。
「あぁ、お前は指名手配中の強盗殺人犯!」
逃さぬとばかりに、兵士が一挙に臨戦体勢をつくる。
しかし相手の男性は、少しも逃げる素振りは見せず、むしろ兵士の腰へ、すがって来た。
「頼む、何でも吐くから、俺を保護してくれ!! あ、悪魔が来るんだよおぉおおお!!!」
「え・・・は???」
自分から逮捕されに来る指名手配犯など、見るのは初めてである。
ともかく詳しい話は中でと、兵士は彼を詰め所の中へと引き立てるのだった・・・
◇◇◇
ブライトの銀行に強盗が押し入って、しばらくが経ち。
まだ真夜中だと言うのに、路地には人だかりが出来ていた。
長い間、行方をくらまし続け『夜の制者』とまで言わしめた有名犯罪組織が、とうとう一網打尽にされたと言うのである。
中からは次々に警備兵の手によって盗品が押収され、誘拐されていた多くの者も保護されていく。
この街の大事に、おちおち寝ていられる筈が無いのは当然かもしれない。
何より驚くべきことは、これを暴いたのが単身で乗り込んだ1人の銀行警備員だったという事である。
「ご協力、感謝します!」
「いや・・、大した事はしてないのだが?」
魔王様が強盗の人間たちをこらしめて、出てくると。
先ほどまで人気が無かったのがウソのように、この一帯には多くの人々が集まり、人垣が形成されていた。
人が多いのには慣れない魔王は、顔を引きつらせて街の兵士の感謝の言葉に受け答える。
「あの女は悪魔だ、早く遠くへ護送してくれ!」
「ぎゃははっははは、世界は終わりだ! もぅみんな死んじまうんだ!!」
しかしその声を遮るように、牽き立てられて行く犯罪者たちの声が、周囲に大きく響く。
捕まる過程で、きっとアタマがおかしくなってしまったのだろう。
警備の兵を含めたブライトの住民たちは、ある者は怒りの形相だったが、大半の者はむしろ、可哀相なモノでも見るような視線を、彼らに送った。
「やり過ぎたろうか・・・」
誰にも聞こえない、自分に言い聞かせるようにボソッと言葉をもらす魔王。
その背は、ジットリと嫌な汗によって濡らされていた。
いたずら者には躾をと、城の時のように相手をしたのが悪かったらしい。
魔族の子供と、人間とでは、丈夫さなど勝手が違う。
さすがに怒りすぎたかと、ちょっぴり反省をしても、今は後の祭り。
自分が魔族なんだという事を、改めて自分に言い聞かせた。
「落ち着け私、正体はまだバレてはおらん!!」
すると事情聴取だろうか。
反省する彼女に近づく、一人の兵士の姿があった。
「なんだ、盗賊を一網打尽にするなんて言うから、どんな豪傑かと思えば。」
「へ・・・?」
背後から掛けられる、見知った声に魔王は、一挙に現実に引き戻される。
誰かと思い背後へ振り向くと、そこにはオルザと言った兵士の姿があった。
先日に商会へ備品買い付けに行った際、交通違反で魔王を取り締まった人間である。
あちらは魔王の姿を見つけると、まるで拍子抜けしたように肩をすくめた。
「なんだとは何だ、ならぬ事をならぬと教えてやっただけだ。」
いたずら者には、制裁を。
それはヒトの上に立つ者として、ごく当たり前の事だ。
むろん魔王の力は侮れるものではなく、それを向けられる方はたまったものでは無いが・・・
そこは、自業自得と言うことで。
「僕はてっきり、歴代の勇者の英霊が懲らしめてくれたものとばかり。」
「縁起でもない!」
勇者は魔族にとって、脅威でしかない言葉。
お互いに倒して、倒されてという歴史が繰り返されてきた。
今は語るべくも無いが・・・
その話は、またいずれ。
「私は仕事の途中に抜け出して来てしまっていてな、戻っても良いだろうか?」
「それは構わないが・・・。」
彼の返答を聞き終える前に、魔王は急いで銀行へと足を向けた。
魔王にとって気がかりだったのは、銀行に残してきた自分の残像である。
もし仮にオルザ並の人間が通りかかれば、見抜かれてしまう危険があり。
見破られないようにするには、一刻も早く本人が、現場に戻る必要があった。
既に頭上に星空は無く、東の空は徐々に白み始めている。
本格的にマズイ。
祈るような気持ちで、銀行へと向かう魔王だったが・・・
「あれシアちゃん、が・・・どうして2人?」
「あ゛・・・!」
一足遅かった。
銀行を開ける為に頭取が既に来ており、残像と鉢合わせてしまうと言う、マヌケな結果を招いてしまう。
タイミングは最悪。
この弁解のため、また昨夜の事件概要説明のため、魔王はさらに神経をすり減らすのだった・・・。
まっ、盗まれたものは戻ってきたし?
人々の、様々な思惑が交差する。
ソレが社会。
次回
第70話「魔王様、ちょっと名を上げるその2」をお楽しみに。
※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。
あらかじめご了承下さい。




