第5話・魔王様、『浦島太郎』になる
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ある晴れた昼下がり。
人間や亜人たちが多く住む街『ブライト』の中は、いつもどおり多くの者でにぎわっていた。
防衛のためか、街の周囲をぐるりと、巨大な城壁が囲っている。
街の城門へと続く4本の街道では、『検閲』を控えた多くの馬車などが、連なっていた。
400年の『平和』の間に、ブライトは大きく発展を遂げたようだ。
そんな街の外れにある森の一角に、『転移』の青白い光が現出した。
何者かが、転移魔法を行使して、やってきたようだ。
光に包まれた一部の木々が、その部分を消滅させ、何本かは地面へと倒れる。
現在この森には誰もおらず、街道からも遠い事もあり、この光に気づいた者は誰一人として、居なかった。
現れた幼女はゆっくり閉じていたまぶたを開け、手始めに自分の姿を魔法で作った姿見で、確認した。
「うむ、久しぶりの『転移』だったが、問題は無いようじゃな。」
手や足をぶらつかせ、五体満足なことを確認し、笑顔を見せる幼女。
光の中から現れたのは、人間の世界に出稼ぎのためにやって来た、魔王様だ。
本名を、エティシア=バルグレードと言う。
世界最強とも言わしめた、そのうちに秘める、絶大な力。
そんな彼女が自らの体の無事を確認するのは、理由がある。
彼女の使った『転移の魔法』は、この世界において、かなり高度な魔法だ。
確かに目的の場所へ一瞬でいけるなど、多くのメリットがある転移。
その反面、多くの魔力を消費してしまう事や、先ほどのように近くに居たモノを、巻き込んでしまうなどのデメリットがある。
最悪、転移に巻き込まれて死んでしまうという事故だって、過去には起きているのだ。
当然、術者がそうなる事もある。
腕が一本無くなる、心臓が無くなる、最悪の場合は死ぬ事だってあるのだ。
(魔族は心臓が二つあるので、一個ぐらいなくなっても一応は平気。)
我はそこそこ上手な使い手ではあったが、400年のブランクで、不安もあった。
成功して何よりじゃ。
「っと、いかんいかん。 早くに街へ出向かねば!」
こんなところで悦に浸っている場合ではなかった。
なるべく早急に『冒険者』となり、金を稼ぐためにここまで来たのじゃ。
『転移魔法』という、リスクを冒して。
今こうしている間にも、魔王城では腹をすかせた多くの魔族たちが、自らの魔力で飢えをしのいでいるのだ。
人間達に『魔王』とバレぬよう、全身からこぼれる魔力を内へと封じる。
「確か、街は向こうじゃったな。」
後ろを振り向き、右手の人差し指で記憶にある『ブライト』の方向を、指差す彼女。
その方向には、変わらずそこに存在する、街の姿があった。
正確には、合っていたのは『街がある』と言う部分くらいである。
目の前に広がる光景に、驚嘆の声を上げる。
「な・・・・・・・・・!!!??????」
そこには、巨大な城壁を構える大きな都市の姿があった。
街道はきれいに整備されており、整然と並べられた石畳の存在が、ここからでも確認できる。
人の往来も多いらしく『城門』と思しき場所には、多くの馬車が連なっているのが確認できる。
城壁のせいでここからでは、中までは確認できないが、城壁の大きさなどから見て、目覚しい発展を遂げた街が広がっているのは、容易に想像できた。
「バカな!?? ブライトは国の外れにある、小規模都市だったはず・・・!!」
驚きおののく魔王様。
自然、警戒のために茂みの中にその身を隠す。
ブライトは『魔族の森』に近い事もあり、人口は少なかった。
だが『防衛の要』として、その存在は高く評価されていた。
だから大戦時に、この地は人間の連合軍の、駐屯地にもなったのだ。
その関係で、『ギルド』なども小都市にもかかわらず、存在していた。
ようするに、人が多く往来するような街ではなかったのだ。
・・・以上、400年以上前の知識である。
「そうか・・・、なんとなく分かってきたぞ?」
しばし考えにふけった彼女は、この街がここまで発展した理由付けを行った。
人間の一生は短く、儚く、そして目まぐるしい。
たった100年の間に、3回も国がかわる事もある。
今回もきっとそれであろう。
ブライトは独立でもして、王都になったのだ。
我々はだいぶ長い時間を、魔王城の中だけで過ごして来た。
その間に、人間達の情勢が変わっていても、何も不思議な事はない。
今の我は所詮、『井の中の蛙』のような存在なのだ。
「う~む、しかし人間が多いのは誤算であったな・・・」
出稼ぎに来たシアがこの街を選んだのは、『ギルドがあること』
そして何より、『人間が多くない』事であった。
魔族である自分の正体が、人間達にバレてはまずい。
我の正体がバレてしまえば、かなりの高確率で人間たちとは敵対する事になるであろう。
だが自分はあくまで『出稼ぎ』に来たのであって、人間達と戦闘をしに来たのではない。
戦って倒す、または逃げおおせても、本来の目的達成は困難なものとなってしまう事は、容易に想像できる。
人間が多ければ、身バレの危険はそれだけ高くなるであろう。
目的地変更も、視野に入れなければならないかもしれない。
だが、それはそれでデメリットは大きかった。
茂みに隠れ、しばしの間、思案にふける魔王様。
ここ以外にも、人間の街はいくらでもある。
その彼女が導き出した答えは・・・
「いや・・・・やはりここにしよう。 あまり遠くへ赴くのは、得策ではない。」
考えに考え抜いた結果、彼女は目的地変更はしないことにした。
ここでまごまごしていては、わざわざ転移魔法で、急いでここまで来た意味がなくなってしまう。
『ギルド』だって、正確にどの街にあるかまでは、いくら一度来た事があるとは言え、知らない情報だ。
ここを見逃して、他の街に出向いたところで、その街が手頃な大きさとは限らない。
最悪、『ギルド』すらないかもしれない。
それでは、本末転倒だ。
それに何も、人が多いから身バレする訳ではない。
ようは何事も、多くに関わらなければ良いのだ。
「よし、行くか。」
シアは意を決して、隠れていた森の茂みから出る。
我が赴くは、危険な道。
我が身の破滅にも直結する、冥界へと続くかもしれない血塗られた道。
だが我は赴かねばならない。
魔族の未来のため。
貧困にあえぎ、病気により衰弱した配下たちのため・・・・
我は街へと続く街道を、城門に向かって進んでいくのだった。
決意と共に!!
「ちょっとちょっと、お嬢ちゃん! みんな並んでいるでしょ!? たとえ一人でもきちんと順番は守らなきゃダメだよ。」
「え? あ・・・・・・・・」
背後から彼女を呼び止めたのは、馬車に乗るおじいさんの御者。
しまった、決意の事で頭がいっぱいで、周りを見ておらなんだ。
うむ、順番は守らねばな。
秩序などの観点からも、これは重要である。
ちなみに我は人間の集団は怖いが、一人ぐらいならば怖くは無い。
下手に手出ししなければ、彼らは何もしてこないのだから。
我々は別に、見境も無く人間を怖がっているわけではないのだ。
そこのところ、とても大事なので、よく覚えておいてほしい。
そうして、彼が指差す先へ視線を向ける魔王様。
それと同時に、彼女の表情は、石像のように固まった。
「な、なにーーーーーーーーーーーー!!???」
馬車の御者が指差す先は、果てしなく続く人間の行列。
長すぎて、果てがまったく見えない。
魔王の決意は、早くも挫けそうであった。
まさかこやつら・・・・全員、街へ入ろうとする者なのか??
うーそーじゃーろー!?
魔王様が街へ入るのは、もう少し先になりそうである・・・・・
魔王様、なかなか街へ入れないようです。
波乱はまだ、続きます・・・・