第55話・魔王様、知り合いに会う
投稿が遅れてしまい、申し訳ございません。
土日と、イロイロ幼児が立て込んでしまったのです・・・。
昼下がりのブライトの街を、馬のごとく駆け抜ける人影。
彼女の姿は衆人から、いたく注目を浴びる。
それは恐怖の対象として世界的に名高い、魔族の王ソノ人であった。
紆余曲折あって人間たちの街で仕事中であり、イロイロあって現在は就職活動中であり、元の上司に仕事を紹介された事で、街の端へと向かっている。
「ここか・・・」
たどり着いたのは、この街でも有名な一軒の宿であった。
店構えは小ざっぱりとしており、無駄な装飾等は何も無いが、それが逆に周りの店から一線を画した感がある。
店先に掲げられた木の皮に『夢見亭』と書かれた看板もまた、ある意味で味わい深いとも言える。
少なくとも第一印象は、『良好』と言えた。
ひとまずは物陰から、店の中をうかがってみる、すると・・・
「ありがとうございましたー。」
「また夜によろしく頼むよ。」
店を伺っていると、客らしい一人の男性が出てきて、魔王様はとっさに身を隠した。
泊り客なのか食事なのか・・・『夜も頼む』という言葉から考えて、リピート客の存在が確認できる。
店の外観こそ質素だが、その実は予想以上に良い店のようだ。
「いらっしゃいませー。」
さっきから観察していたが、他の客の出入りも中々のよう。
でも何故だろう、魔王はこの店から一種の『違和感』のようなモノを感じていた。
「お客様?」
「あ、私か!??」
ひと時の間、店の前に居たので、どうやら魔王は客と間違われたらしい。
違います、彼女は文字通りビタ一文たりとも持ってません。
「いやいや、私はエティシア=ライザック。 上司殿の、えーっと・・・・・」
紹介先の『在庫管理部』の元上司の名を出そうとしたところで、彼女は固まった。
何度か聞いたことがある気はするけど、そういえばというか、魔王は彼女の名前を知らない。
名前って大事だねと再認識しても、後の祭り。
「あ、もしかして求人ですかぁ?」
が、魔王の不安はすぐに払拭されることとなった。
相手の女性のカンに救われる。
「そ、そう! それで来たのだが、こちらからで大丈夫だったか?」
「えぇ、どこからでも大丈夫ですよ~。」
あまりに取り乱した魔王様はしゃべり方が地に戻ってしまっていたが、相手の女性は特に気にした様子もなく、魔王を店内へと案内した。
見渡すと昼過ぎと言うのにどの席も客で一杯で、大盛況だった。
そのうちの空いている一つの席に、魔王は案内される。
「少々お待ちください、今から店長を呼んできますね。」
「ああ。」
それだけ言って、従業員であろう女性は店の奥へと引っ込んでいった。
その間にも客は次から次へと入れ替わり、それを従業員が捌いていく。
・・・と、ここで疑問が湧いた。
「なぜだ・・・?」
どんな者たちが働いているのかと興味本位で、従業員の種族構成を見ようと軽く探査魔法を展開した魔王。
個人差はあるのだが、魔力には種族による一種の『波』のようなモノが存在するので、大まかながら分かれば、種族が判明するのだ。
・・・そのはずなのだが、働いている彼女らからは、その魔力がほとんど感じられない。
他人に見られるのがイヤで、何らかの方法で魔力を隠すなどといった事は、間々あること。
だが組織的ともなると、意味合いは大きく変わってくる。
訝しむ魔王をヨソに、先ほどの女性が奥から店長と思われる別の女性を引き連れて、出てきた。
そして、魔王は思わず息を呑んだ。
「あなたねー、レーガンちゃんから話は聞いてるわ。 ライザックちゃ・・・あ?」
「お前は・・・!」
出てきた女性も、魔王も揃って言葉を失う。
いや、それだと言葉足らずだろう。
店の女性の方は血の気が引くように顔を青ざめさせ、魔王は半ば睨みつけるように、彼女へ視線を送った。
双方共にこんな場所で知り合いに会ったのだから、無理も無い。
「ま、魔王様・・・!」
「お前・・・、リリスだろう?」
皆さんは、彼女を覚えておいでだろうか?
リリスは先日、友達のセリアの家で遭遇したサキュバスの族長である。
やみつきになってなってしまい、カッパえ○せんよろしく、セリアの母親の精力を限界まで吸った挙句の果てに、魔王にぶっ飛ばされた過去を持つ。
過去と言うか、わずか数日前の出来事だが。
よほどその経験が懲りたのか、リリスは魔王を直視できなかった。
「ああああの、ここではなんですので、その・・・こちらへどうぞ!」
「・・・そうだな、ゆっくりと話したいことが出来た事でもあるし。」
サキュバスのリリスに促されるまま、魔王は店の奥の一室へと入っていく。
金が無いのか、店同様に室内には必要以上に、何も無いのが特徴的だ。
ホコリ一つ無いのは、魔王城と比べて良い点と言えよう。
「あのリリス様、私も居た方が良いでしょうか・・・・?」
「うぅん、あなたは他の子と一緒に店をお願い。」
『魔王』という単語を耳にした後、ずっと挙動不審だった女性は、ここで退場となった。
2人きりとなったところで、魔王の方から話を切り出す。
「今の奴も、サキュバスか?」
「あの魔王様、念のためにあらかじめ言っておきますが、私どもは如何わしい事は何も・・・」
「質問に答えよリリス。」
魔王はこれまでに無いほど、ドスの聞いた声色でリリスを睨みつけた。
ひっと小さな悲鳴を上げ、体中をガタガタと震わせるサキュバスのリリス。
もはや彼女に意見を申したてる余裕もなくなり、聞かれるままに物申した。
従業員は彼女に限らず、今のところは全員がサキュバスで固められているとの事。
この時点でサキュバスが経営する宿など、イヤな想像しか思い浮かばなかったのだが・・・
「とんでもございません、私共は模範的かつ真っ当な経営を目指しているのです!」
と抗議に似た声を上げた。
そもそも彼女らは、この街で『夢』を売る仕事をしているのだとか。
『夢魔』というだけあって見せる夢の内容もソッチ系だが、口コミが口コミを呼び、今は知る人ぞ知る有名な宿屋となったのだとか。(特に男性に人気)
あくまで宿と料理は、オマケらしい。
夢を見せる代わりにサキュバスたちは、客から精力と人間社会で生きていくための必要最低限の代金を貰う。
客は、安い値段でひと時の夢を見られる。
魔物の性を逆手に取った、あっぱれな経営方法だ。
「『精力に困っていない』というのは、そういうカラクリだったのか・・・。」
「えっへへへへ・・・・」
両手で頭を抱える魔王をヨソに、照れ隠しに頬をかくリリス。
もはや自分が何をしに来たのか、魔王はすっかり忘れてしまった。
というか知らぬ間に部下が、人間の街で店を開いていたとか、不甲斐ないにもホドがある。
「・・・・・・・すまなかった。」
「あ、頭をお上げ下さい魔王様!! そのような事をされては・・・!!」
責任を感じずにおられなかった魔王は、深々と彼女へ謝罪した。
どうやらセリアの母以外に迷惑を掛けている事もないようだし、街の生活に馴染んでいるサキュバスたちを今さら辞めさせる力は、彼女には無かった。
せいぜい、犯罪沙汰にならぬようにと願うだけ。
これ以上に聞くことも見当たらなかったので、魔王はそのまま帰ることとした。
ここで働くとか、ありえない。
部屋を出て店内へ出ると、店内の客(主に男性)が机の上に置かれた誓約書のようなものに、一心不乱になにやら書き込んでいるのが飛び込んでくる。
その姿は異様に映り、魔王は僅かながら『恐怖』を感じた。
「いつも、こんな感じなのか?」
「えぇ、おかげさまで大繁盛ですよ!」
世の中、何が人を結びつけるのか。
魔王に出来るのは、小さく首を縦に振る事だけであった。
今度こそ帰ろうとすると、先ほどの案内役のサキュバスが魔王の前に飛び出す。
「あの、先ほどはその・・、魔王様とは知らず、あの・・・!」
どうやら彼女は、己の無礼を詫びるつもりらしい。
だが多くの人間が居る前で、『魔王様』発言はいただけない。
ゆっくりと首を横に振り、魔王は口元へ人差し指を立てる。
さすがの彼女も察したようで、それ以上は何も言ってくることはなかった。
「あの、まお・・エティシア様、これからはどうなされるおつもりですか?」
「ん~? 私のことなら気にせずとも良い、精進しろよ。」
去っていこうとする魔王の背後へ、店先に見送りに出たリリスが、引き止めるように声を掛けた。
まだ言い足りないことがあるようだ。
魔王が立ち止まると、それに呼応するように話しかけた。
「エティシア様、如何でございましょう? 私どもの宿で働く気はありませんか!?」
どういう事かと魔王が振り返ると、畳み掛けるようにリリスが言葉をつむぎ、その脇で同調するようにサキュバスが首を縦に振った。
・・・が、答えはノーだ。
部下の下で働くと言う事もあるが、それ以上に後に続いた言葉に、魔王は激しく憤った。
「魔王様は外見がお美しゅうございますし、店員となっていただければ。 むろん『客』の相手は私どもが・・・」
ゴッッッ!!!!!
「うぎゃひいいいいいーーーーー!!!」
はい、おつかれサマでした。
背後で悲鳴を上げるバカ(サキュバス)に目は放っておき、魔王は放浪の旅・・・
もとい就職活動へと馳せ参じるのだった。
あとがき
魔王様、なんか不憫。 どうか皆様も応援してあげて!
次回
56話「魔王様の新たな仕事」をお楽しみに。
※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。
あらかじめご了承下さい。
投稿遅れついでに少々、実験をしてみました。




