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第50話・魔王様、ナゾの病気を治す?

今日は広島原爆の日。

皆さんは黙祷しましたか?

義務は無いけど、わすれてはならない事はあると思います。

ということで9日のナガサキと、15日の玉音放送日も忘れずに。

今のご時勢、いつ何があるか分かりませんしね。

赤い月夜の光が、ブライトの闇夜を支配する。

寝静まった街の下では、魔王が友のセリアの家で、魔物狩りを行っていた。

万全の対策で臨んだ魔王だったが、彼女はアンデッド系の魔物が大のニガテであった。

ガクブル状態で臨んだ討伐は、すぐに終わりを見せた。


「うっぎゃああああああああああああーーーーーーー!!!!!!!」

「うひゃあああああああああああああーーーーーーーーーーー!!???」


突然、鼻面に現れた『魔のヴァンパイア』に、ガラにもなく大きな悲鳴をあげてしまった魔王。

その拍子に窓辺に足を掛けていた相手は、バランスを崩して二階から、宙ぶらりんになってしまった。

わずかに平常心を取り戻した魔王は、魔族の姿を以ってこちらの力を相手に誇示する。

ナメられたら、文字通りオシマイだ。


「どどど、で、出たな吸血鬼ヴァンパイア、しかし貴様の思い通りにはさせぬぞ!?」


「あわわ、落ちる、落ちる!??」


体中から闇の魔素を吹き散らし、相手を威圧する魔王。

こちらの格式の方が高ければヴァンパイア相手には、これだけでケリがつく。

いつもは仕舞っている愛魔剣『炎獄』も、今は彼女の手に握られ、その黒い刀身を炎のように揺らめかせる。

だが相手はというと翼があるにも関わらず、窓に掴まってバタバタしていた。

頭の方は、どうも良くないらしい。


「お待ち下さい魔王様、よくご覧ください! 私はヴァンパイアなどではありません!!」


「はへ?」


窓に宙ぶらりんになっている魔物は逃げようともせず、まして戦意をむき出す事も無く、自分に剣を向ける魔王に対して、涙目で訴えでた。

これには魔王も思わず脱力して、魔剣を取り落としそうになる。

ヴァンパイアが魔族を相手にここまで下手に出るなど、聞いた事も無い。

月夜を頼りに、もう一度よく相手の特徴に目を凝らしてみると・・・


「ん、お前はサキュバスか?」


「はい、私はサキュバス族の族長、リリスでございます!!」


割れんばかりの愛想をこちらへ振りまく、下着のような服を身に纏った女性。

このサキュバス族は、魔王配下の魔物である。

彼らは迎え撃とうとしていた吸血鬼ヴァンパイアと違い、アンデッドではなくゴブリンなどと同様の魔物である。

人間などの男を魅惑し、その精力などを糧として悪魔の一種だ。

そして容姿端麗な見かけによらず、存外のバカである事でも知られる。

翼があるクセにズッこけて窓に宙ぶらりんになっていたのも、そのせいだろう。


「おいリリスとやら、貴様は何の用でこの家に来た? 事としだいによっては・・・!」


血のように赤くたぎった瞳と共に、彼女のノド元へ魔剣の切っ先を突きつける魔王。

予想外のことは起きたが、目的に変わりは無い。

背エリアの母君が体調を崩したのは、おそらくコイツのせいで間違いはあるまい。


「あわわ、お待ちください魔王様! まずは助けて下さい、もう腕が千切れそうです!!」


「ん・・・あぁ・・・・・そうだったな。」


ひとまず窓からサキュバスを救い出すと、セリアの母君が眠るベッドとは逆の壁側を背にして、彼女を座らせる。

まずは、話だけでも聞こう。

鋭い視線を感じたサキュバスのリリスは、三つ指を突いて深々と礼をした。


「申し遅れました、私はサキュバス族のリリスと・・・」


「それは聞いた。 なぜ貴様がここに来たかというのを、聞かせてもらおう。」


頭の中が霞のようにボンヤリしたサキュバスを傍目に、鋭い視線を送る魔王。

ときどき話の脱線を繰り返しつつ、ポツポツと語りだすサキュバス。

このリリスはサキュバスの族長というその責任を負って、淫魔けいまを率いていた。

しかし数百年余の間に、彼女らもすっかり力を落としてしまったらしく、男の精気を吸うという行為すら、間々ならなくなってしまったらしい。


そして始めたのが非常食・・・もとい女の精気を吸う事であった。

夜間に夢で熟睡させている間に、相手の精気を吸うのだ。

同じ女と言う種族柄、男の精気を吸うよりも体にも馴染みやすく、精気の補給をし易かったらしい。

そして、ついつい吸いすぎてしまったと・・・・・。

これも種族が、生き残るためだ。

魔王としても共感できる部分は、大きい。


共感できる部分は大きいが、だからと言ってセリアの母君の精力を吸わせる事を容認するつもりは、魔王には無かった。


「リリスといったな、私は貴様を追い払うべくして、ここに居る。 だが魔物を統べる者として、サキュバス族には謝罪の言葉も無い。」


サキュバス族長のリリスに、深々と頭を下げる魔王。

そもそも元をただせば、不甲斐ない魔王の自分の責任でも在ると、痛感させられた。

だが当のリリスは、ほうけた表情で、カクンと首を傾げて見せた。

サキュバスは謝罪の言葉すら理解できないほど、馬鹿だっただろうか?

魔王の不安をヨソに、彼女は合点がってんがいったように、両手を打ち鳴らした。


「ご安心下さい魔王様、今は男の精力には困っておりませんから!」


「・・・・待て、それは一体、どういう事だ?」


屈託の無い笑顔を浮かべる彼女に対し、スゴ味を利かせた表情で睨む魔王。

だがリリスは気にした様子もなく、何でもないように話を続けた。


「最近になって私ども、この街で娼館が開けたのです。 宿屋や飲食店も兼任しておりまして、男はあちらからやってくる、人間の街は食い物もいっぱい、いやはや何故このような事に、今の今まで気が付かなかったのかと一同・・・」


胸を張って、ここぞとばかりに魔王に胸をはるリリス。

しかし当の魔王は、たぎる心を抑えることに必死だった。

聞いてない、私は魔王なのにサキュバス族がブライトで働いていたなんて、初耳だよ。

イロイロと物申したいことがあったが、それより魔王はこれまでの話を総合して、根本的に問いただしたいことが出来た。


「おいリリス、女の精力を集めるのは『種の存続のため』と申したな。 だがそれだと、先ほどの『男の精力に困っていない』と言う話は、存外に矛盾するとは思わんか?」


背後に黒い炎を燃やし、額に青筋を浮かべる魔王。

それに気が付いた様子もなく、リリスというサキュバスは、屈託の無い笑顔でこの疑問に答えた。


「つい、止みつきになりまして♪」


「アホかーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


彼女の『カッパえび○ん』的発言に、魔王の怒りは頂点に達した。

鞘に入れられた『炎獄』は、リリス目掛けて振り下ろされ・・・。


「ぎゃふん!」


魔王様たちの夜は、始まったばかりである。




◇◇◇



私はセリアという、しがない街娘。

母が衰弱していくという、不思議な病に掛かったのがもう、もう何年も前。

数日前に容態が急変したが、魔法の適性の無い私にできる事はなかった。


「きっと母君の病気を治して見せる、だから今夜は、この部屋は絶対に見ないで欲しい!」


「はあ・・・?」


そんなときに現れたのが私の不思議な友達、シアさんだ。

お母さんの部屋から追い出されてしまった。

お医者様ですら匙を投げたお母さんの病気。

それにも関わらず、彼女は仕事を抜け出して、こうしてやって来てくれた。

それだけでも、私は嬉しかった。


後ろ髪をひかれるような思いを抱きつつ、母の部屋から離れる私だったが、階段を下りる途中で、母の部屋から悲鳴にも似た声が轟いた。

胸騒ぎがして戻り、ドアノブに手を掛けたところで、先ほどのシアさんの言葉を思い出す。


『決して、部屋の中を覗かないで欲しい』


母親の部屋の中からは、言い争うような声が聞こえてくる。

ときおり混じる怒声のような声に、ますます中の様子が気になった。

シアさん、好奇心に負けた私を、どうか許して下さい。

ドアノブをゆっくり回して、出来た小さな隙間から中の様子を覗いてみる。

何も無かったら、すぐに閉めるつもりだ。

するとそこには・・・


「魔王様とお知り合いの方の住まいだとは、このサキュバス族リリス、一生の不覚でございます。」


「あーもう、それはいい! 病み付きかどうか知らんが、二度とこのようなことをせぬと誓え。 後始末は私が自ら付けて置く!!」


ペコペコと頭を下げて謝罪を繰り返す女性と、そして彼女の前に仁王立ちしているシアさんが居た。

しかし見慣れているはずのシアさんの姿は、いつものソレとは大きく異なっていた。

暗闇に赤く灯る瞳に、頭上にそびえる角、そして背中にはコウモリのような翼が見える。


魔族だ。


実際に見たことは今まで無いが、それはどのおとぎ話にも出てくる、魔族の身体的特徴だ。

それが、母の部屋に2人も・・・

いや、何より信じられないのは。


「シアさんが、まさか・・・・?」


思わず飛び出しそうになる言葉を、必死で押し止める。

今すぐ部屋の中に飛び込みたい衝動に駆られるが、体は思うように動いてくれない。

しかも相手の女性は、確か『魔王様』と言っていた。

魔族の王と呼ばれる伝説の存在、『魔王』

もし本当だったとしたら、シアさんは一体・・・?


パニック寸前の頭を抱え、私は自分の部屋へ掛けこむと、寝間着に着替えもせずにベッドの中へ潜り込んだ。

私が見たのは何だったのか、もう1人の人物は、一体誰だったのか。

果てしない自問自答を繰り返すうち、いつしか私の意識は、暗い深淵しんえんの中へと落ちていった・・・・・・・




「セリア起きなさい、仕事に遅れるわよ?」


「ふぁ・・・・?」


翌日。

私はすっかり元気を取り戻した母によって、起こされた。

外は朝日が昇って明るくなっており、往来からは道行く人々の喧騒が聞こえてくる。

昨夜はいつの間にか、寝落ちしてしまったようだ。

そこまで思い至ったところで、私は事の異常さに気が付いた。


「あれ、お母さん起きても平気なの!??」


「ええ、もうすっかり!」


私のベッドの横に立っている母は、無理の無い柔らかな微笑ほほえみを浮かべており、顔の血色も随分よくなっている。

そこに昨日まで弱々しかった母親の影は、どこにも無い。

どれだけこの姿を、待ち望んだことか。

ピンピンしている母の姿を見て、私は嬉しくなり、その胸へと飛び込んだ。


「良かった、お母さん・・・!」


「ごめんなさい、今まで心配掛けたわね。」


母の心地よい温もりに、私は意識を手放しそうになる。

しかしそこで、大事なことを思い出して、すかさずガバッと顔を上げた。


「お母さんシアさんは!? どこ???」


ずっと病床に伏せっていた母が、急に元気を取り戻したのは、シアさんのおかげに違いない!

昨夜に垣間見た光景は、未だ信じがたく、今でも夢だったような気もする。

覗くなと言うのに、覗き見をしてしまったことも・・・

シアさんが大事なだけに、それだけに胸中に渦巻く『不安』は増長していった。

不安の感情を前面に押し出し、元気になった母を問いただす。


「それなら・・・」


私の質問を聞き、窓の外へ視線をやるお母さん。

そんな、まさか・・・!?

このままでじゃダメだ、せめて彼女に一言お礼を言わなくちゃ!!


何処どこですか、シアさん!!!」


「ちょっと、セリア!」


母が静止する言葉は耳に届く事無く、セリアはその足で玄関へと飛び出した。

しかしそこに、探し求める恩人の姿は、無かった。

いつもなら何とも思わない往来を行き交う群衆の声は、今日は誰からも無視されているような気すらした。


「シアさん・・・・」


せっかく友達になれたのに。

・・・私のせいだ。

彼女が居なくなったのは、きっと私が覗いたせいだ!!


「シアさんーーーーーーーーん!!」


「往来で大きな声を出すでない! は、恥ずかしいではないか!!」


「え?」


探し求めていた人の声は、思ってもみない方向から聞こえてきた。

顔を真っ赤にしたシアさんは、今さっき出てきた玄関に立っている。

どうして彼女は、家の中に居るのか?

よく見るとシアさんの背後では母が、クスクスと笑みを洩らしているのが見える。

は・・・、はめられた!!


「あ、あの・・・あれ??」


「どうした、私の顔に何か付いているのか?」


私の不安など知った様子もなく、彼女はいつもの調子を崩さない。

さっきまで私は、何をしようとしていたんだっけ?

うぅん、シアさんはそこに居るのだから、それで良いじゃない私!!


「そこに居たんですねシアさん! お母さんの件、本当にありがとうございました! あの、よろしければ今日は一緒に仕事に行きませんか?」


「なんじゃ、そんな事か。 セリアさえ良ければ是非そうしよう。」


不安を払拭するように、笑顔を向けてくる彼女。

そこに昨夜見た、恐ろしい姿は垣間見ることが出来ない。

良かった、もう会えなくなるなんて事にならなくて、本当に良かった。

まずは腹ごなしのために、シアさんを連れて私は食卓へと向かう。


「あのシアさん、一つだけ・・・質問をしても良いですか?」


お母さんの体調が良くなったのは、間違いなく彼女のおかげだ。

それでも頭に引っかかるのは、昨夜の光景。

月夜の中、暗闇に浮かび上がった赤い瞳や、大きな角・・・。


「どうした。 私に分かる範囲なら、何でも答えられるぞ。」


それにも関わらず、向けられるのは笑みと、そして大きな優しさ。

シアさんはいつだって、前向きだ。

ソレに対して、私は何をしているのだろうか?


「ごめんなさい、やっぱりいいです。 お母さんを助けてくれて、ありがとうございました。」


「なんじゃ、おかしな奴だ。」


ケラケラと笑う彼女につられ、私も思わず笑ってしまう。

楽しい。

こんなに楽しい気分になったのは、いつぶりの事だろうか?


「私こう見えて、カールファングのテールスープ作りが、得意なんですよ?」


「それは楽しみじゃ。」


種族なんて関係ない。

私もこれからはクヨクヨせず、前を向いて生きていこう。

シアさんはいい人、それだけで良いじゃない私!!


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