第4話・魔王様、行き先を考える
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魔王様! お戻り下さい!!」
「人間の世界へ赴くなど、自殺行為です!!」
「魔王様は我々にとって、なくてはならぬお方です! どうか、思いとどまって下さい!!」
「もしどうしても行くというならば、私も・・・!」
「え~い、うるさい!! 貴様達を統べる者として、我は行くのじゃ!! 付いてくる事、相成らぬ!!」
先ほど、魔王城の窮地に立ち上がることを決めた魔王のエティシア。
彼女は金を作るため、人間の世界に赴く事としたのだ。
つまりは、出稼ぎだ。
勝手の分からない人間の街へ出向き、お金を稼いでこようと言うのだ。
たとえ成功したとして、魔王様一人の収入で、どうにかなる気はしなかったが、誰もそこには気が付かなかった。
そのあたりの事情を知る者は、大戦以降、誰一人としていなかったのだ。
怖くて、人間世界に赴く命知らずな魔族は、誰一人としていなかったので。
「危険だ」と、魔王の奇行を止めに入る魔族たち。
それを、振り切る魔王様。
「魔王様~~~!!!」
「付いて来るでない!!」
なかなか首を縦に振ってくれない、配下の魔族たちをいなし、こうして魔王城の外へと出てきた彼女。
後ろを振り返れば未だ、魔王城の入り口で配下たちが、戻るよう必死で懇願している。
付いて来ないよう、魔法で軽く、地面に縫い付けてきたのだ。
彼らは文字通り、『懇願』する他に、成す術もなかった。
当然に、戻る気など、さらさら無い。。
我の決心は、ドラゴンの鱗よりも硬いのじゃ!!
そのまま彼女は、魔王城のすぐ傍にある『魔族の森』へ、歩を進めていく。
まもなく『魔族の森』だと言うところの手前で一度立ち止まり、天を仰ぐ。
「人間か・・・・」
考えてみれば、こうして外に出るのは、実に300年以上ぶりのことである。
300年の間に、世界がどうなったのかが気になる反面、やはり人間の跋扈する世界へ赴くのは、かなり勇気が必要だった。
危険なのは分かっているし、今でも『恐怖』はある。
だがその危険な世界へ、配下の者たちを行かせる位なら、少しは強い自分が赴いたほうがマシだとも思った。
たとえ危険であっても、我一人ならば逃げ切れる気がするしな。
どうにもならなかったら、そのときはその時じゃ。
それよりも。
「遠出をするワリに、荷物が少ないの~~・・・」
魔王様は、苦悶の表情を浮かべた。
彼女が人間の世界へ出向くにあたり、持ってきたのは、剣が一本に、パンが3つだけ。
服装は、魔王城内で着ていたあの、黒いドレス。
かなり気に入っていて、ここ数百年はずっとこの服装じゃ。
『クリーン』で洗濯を済ませてしまうため、他の着替えの服は、かなり前に売り払った。
洗面用具なども同様に『クリーン』で済ませている。
水は、魔法で出せばよい。
寝るときは、木の上で木の葉をベットに、寝ればよい。
寝込みを襲われれば、返り討ちにするまでじゃ。
食料は元々少ない事だけあって、持っていくことは躊躇われた。
だが配下たちが、どうしてもと言うので、持ってきたというわけだ。
まあ、それでもパンが3つだけだがな。
これは腰の布袋の中に、入れている。
剣は、我の宝物。
その昔に父上から賜った、『炎獄』という名の、魔剣である。
400年前に我が助かったのも、コイツのおかげ。
こんな形で役に立ってくれようとは、世の中分からないものじゃ。
ただ今の我の体の大きさにしては、剣体が大きいので、背中に背負う形となってはいるが。
収納の魔法?
そんなデカイ魔法、常時発動なぞできるか、バカモン!!
持っている荷物は、以上じゃ。
小柄な我にしてみれば、思いのほか動きやすい。
だが女としてこう・・・
もう少し、荷物が多いほうが良いのではないかと考えてしまう。
化粧道具とか、手鏡だとか・・・
いや。
今は女である事より、食欲を満たす事が最優先じゃったな、うん。
「さて、どこへ向かうかの?」
行き先となる『人間の街』には、イロイロな街がある。
近くは小国家の小さな町から、遠くは『聖国』と呼ばれる国の、大きな王都まで。
『魔王として、我は人間の街へ出稼ぎに行く』と啖呵をきって出て来たは良いが、具体的な行き先は、未だ決まっていなかった。
さて、どこへ行くか?
「大都市のほうが良いかの? 人間が多ければ、金も・・・いや、それはダメじゃったな。」
一考したところで、この考えを取り下げる。
首を横に振り、次の案を考える魔王様。
自分は、あくまで魔族だ。
今は隠蔽魔法などで翼や角はしまい、人間のような見た目になってはいるが、絶対バレないという保証はまったくない。
特に人間が多くいる場所では。
人間が少ないところで、目立たない様に多くを稼ぎ、魔族領に仕送りをする。
それが彼女の、考えだった。
傍から見ると、かなり矛盾した考えなのが、お分かりいただけるだろうか?
ぽっと出のヤツが、多くを稼ぐなぞ、どう考えても浮いてしまうに決まっている。
しかも、相手は年端も行かない少女。(見た目)
『目立たない』は、どう考えても実現困難な風にしか見えない。
シアは人間社会がよく分かっていなかったので、そのあたりを怠っていた。
これは彼女の、と言うよりは、400年も魔族領に引きこもっていた、魔族たち全体の問題であると言える。
「近い場所・・・ブライト辺りが良いかの?」
思考をめぐらせた彼女は、一つの都市名を口にした。
『ブライト』
それは、この魔族領から一番近い『ボルト王国』にある、小都市である。
大戦の際は、たしか人間達の連合軍の、駐屯地になっていた記憶がある。
今でも街自体は、あるはずだ。
・・・400年前の、半ばサビついた知識だがな。
かの街には何度か、大戦時に斥候として行った事はあるので、道はわかる。
というか我には、転移の魔法が使える。
行くのは、文字通り一瞬で可能なのじゃ。
『ギルド』も、確かあったはず。
冒険者には、きっと滞りなくなれる。
実力を示せば、何も言ってはこぬはずじゃ。
人も多くはなさそうだし、稼ぐ事もできるであろう。
こちらの思惑は、通りそうではある。
「うむうむ、まさに適材適所じゃな? では行くか。」
それだけ言うと、彼女は青白い光に包まれ、その姿は消えていった。
さも嬉しそうに、笑顔で。
彼女のビジョンにはもう、ガッポリ稼いだ自分の姿が映っていた。
今後、魔族で魔王な彼女が、どうして『怖い人間の下』で金を稼ぐのか。
それも、目立たないように、がっぽり稼ぐと言う目標を掲げて。
しかも彼女は(見た目)幼女で、400年越しの、世間知らずだ。
なんかもう、無茶を通り越してイロイロ、無謀である。
それを考えると、とめどなく不安な感情が湧きあがってくる・・・
この物語、進捗状況的に長くなってしまいそうです。