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第43話・魔王様たちの、新たな一歩

これからも、楽しんで書いていこうと考えています。

感想などがありましたら、遠慮なくお寄せください。


魔王様が上司殿から商会の『研修』の話をされた、その翌日。

彼女の姿は研修先である『受付部』にあった。


「あなたがエティシア・ライザックさん? 私は受付部を受け持っているエリアルっていうんだ。 今日から2週間の間、よろしく。」


「よ、よろしくお願いいたします!!」


今度の上司は、口調が独特で明るい表情が持ち味の、人あたりが非常によさそうな女性だ。

さすがは商会の顔と言うべきか、他の人たちも人当たりのよさそうな顔ぶれが、多く見受けられた。

しかし見たところ、そこに友のセリアの姿は無いようである。

今日は休みだろうか?


「どうかした?」


「い、いや問題ない! よそ見してすみませぬ。」


顔をのぞかせてくるエリアルという女性を前に、視線を戻して、なんでもない事を強調する魔王様。

友のことは関係ない、今すべきなのは、割り当てられたことをこなす事である。

頑張ろう、未来の魔族のために!


「やる気は十分みたいだね。 とりあえずは、この部署の業務内容をザッと説明しようか。」


「お願いする。」


あらかじめ用意してきたメモ帳を取り出し、備える魔王様。

最近、記憶力に限界を感じ始めたのと、在庫部の上司に指摘されたことで、ソレっぽいのを魔法で作ったヤツである。

所謂いわゆるポケットノートのような代物だが、メモ帳としての昨日は十二分に発揮してくれることであろう。

だが今度の上司は、手をヒラヒラと横に振った。


「大丈夫、大した事を言うわけじゃないから。 最初のウチは耳で聞くだけで構わないよ。」


「ふむ、そうか。」


『そういうことならば』と、出したメモ帳を懐へとしまう魔王様。

彼女が仕舞うのを見計らい、上司は『受付部』の大まかな業務内容の説明を始めた。


彼ら何も、商会の顔をやっていれば、それで良いという訳ではない。

来客の対応のほかに、各部署への問い合わせ、中継ぎ。

窓口での簡単な商品の販売や、その日その日の、売り上げ確認作業。

簡単な外回り営業までしていると言うのだから、驚きだ。

ここまで聞かされて、魔王様は呆気にとられてしまった。

『在庫管理部』が大変だ、と言っていた自分がどれだけ井の中の蛙だったことか、ソレを痛感させられる彼女だった。


「か、感服しました・・・。」


「ははは、心配しなくても大丈夫だよ。 研修員にそこまでさせるほど、ウチの課は鬼じゃないから。」


それでもその仕事の幅は、いかがだろうかと、魔王は考えた。

侵攻などで何かと忙しかった、昔の魔王城においても、それほど多くの業務を任されるようなことは決してなかった。

一番やることが多いのが、魔王軍の前衛打撃郡だったと言うぐらいには。

(一番、敵と多く戦う。それだけ。)

人間よ、そこまで頑張って、何をしようというのだ?


「ひとまず今日一日は、私の横にいな。 そこで私がどんな事をするのか、じっくり観察すると良い。」


「分かりました! よろしくお願いいたします!!」


こうして、魔王様の新たなる一日が幕を開けた。

研修に来たこの、友のセリアが配属されたという『受付部』。

だがその業務は、言葉で言い現せるほど・・・

特に対人という場面において、神経を粗ヤスリのように削られる、魔の職場であることを、否応いやおうなしに彼女へ突きつけた。


「すみません、融資の件でお話があって参ったのですが・・・」


「担当の者を呼びますので、そちらの椅子に掛けてお待ち下さい。」


間髪いれずに客をさばいていく俊腕力。

そして目にも留まらぬ速さの、内線魔導電話の扱うスピード。


「おう姉ちゃんよ。 何日か前にオタクから買った魔導洗濯機が、ウンともスンとも言わないのだがね?」


「ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございません。 アフターサービス部門の者を呼びますので、しばらくお待ち下さい。」


明らかに怒っている人間にも臆することなく、笑顔で接するその豪胆さ。

そして、手早い対応。

どのような来訪者に対しても、平等のサービスを提供し、疲れなどは一切に顔に出さない。『在庫部』の同僚たちは昼近くになると、ボヤキが止まらぬと言うのに・・・

勇者だ、彼らは勇者に違いない!


自分は横で見ているだけと言うのに、魔王は客たちの姿を観察するだけで目が回ってしまった。

目頭を押さえてうなっていると、横にいた上司が少し仕事の手を止め、微笑ほほえみかけてくる。


「フフ、いろ~んな人が来るんで、驚いた?」


「今まであなどっておりました、この場を借りて深くお詫び申し上げます。」


人に接するだけで、こんなに疲れるとは思わなんだ。

これまで仕事が大変と思ってきたが、これと比べれば、遥かに恵まれていたろう。


「エティシアちゃんは、人に接するのが苦手なんだね。 苦手なことをしていたら、誰でも疲れると思うよ?」


得手、不得手の話だろうか?

感覚的に分からないのだが、トロールが敵状偵察に抜擢されるのと、同じようなモノだろうか。

ムリムリ、それ無理です!


「エティシアちゃんは、ここが自分のトコより大変だって思っているみたいだけど、私はそうは思わないよ? 新人だった頃に君みたいに研修で『在庫管理』に行った事はあるけど、私には苦痛でしかなかった。」


「へぇ・・・・」


魔物には身体的特性で、得手不得手が存在するが、それがワリと平均的な人間族にも似たような現象はあるのか。

新たな発見(?)の数々に、魔王様は目からウロコが落ちる気分だった。


「辞めたいと思ったことは、無いのか? 先ほどのような横暴な人間が来て、心労が溜まるような事はないのか??」


失礼とは思いつつ、どうしても質問をせずにはおれなかった。

魔王様からそんな事を言われるのが意外だったのか、上司のエリアルは目を丸くさせると、途端に噴出すように笑い始めた。

私はそこまで、おかしな事を言っただろうか?


「ごめんごめん、研修の新人ちゃんにそんな質問を受けるとは思わなくて! でもそうだよねぇ、苦手な人からしたら、不思議でしかないだろうなァ。」


・・・・そんなものか。

少なくとも彼女の姿を見て、それほど負の感情を抱えているようには見えない。

心労が無いとは言い切れないが、それが苦であるというほどでも無いのだろうか?

私にはその感覚は、ちょっと分からないかもしれない。


「難しく考えなくて良いよ。 エティシアちゃんはあくまで『研修』なワケだし、2週間で出来る事なんて、限られているからね。 気楽にやれば良いのさ。」


「ありがとう。」


なんだか、フッと肩の荷が降りたようだ。

このとしになっても、教えられることは多いな。

そう感心していると、上司のエリアルは、いたずらっぽく笑顔を振りまいて、先ほどの話を続けた。


「まあ私だってさ、普段ならさっきみたいな横暴なバカには、ケリを入れてやるけどね。 今は仕事中だから。」


「えぇ!??」


やはり、人間コワイ。

表の顔はもとより、その裏に隠された感情は、一体どのようになっているのか。

気になるような、しかしソレは見ない方が幸せなような。


そんな気がした魔王様であった・・・




◇◇◇



ちょうどその頃。


宇宙そらまで飛び上がらん限りにウキウキ気分の1人の魔族が、魔王城を訪れていた。

見た目は農民のように土に汚れて泥だらけで、痩せているものの、不思議と筋肉のついたガッシリとした体形。

だがそれにも増してくたびれた着衣が、どうにも魔族の現状を顕著に表しているように見えてならない。


そんな彼が目指しているのは、魔王城の中にある玉座の間だ。

ノックもせずにバーンと扉を開けると、彼はすぐさま、平伏の姿勢をとる。


「お喜びください魔王陛下! 400年のときを経てこの小姓ベルナンデスは悲願を・・・あれ??」


しかしそこに、魔王様の姿は無かった。

あるのは、ボロい玉座と、ホコリが溜まった部屋の変わり果てた姿だけである。

ウキウキ気分から一転、このベルナンデスと名乗る魔族は言葉を失った。

魔王様はおろか、唯一無二の側近であるエグラーまで居ないのだから、当然である。


呆然と彼が灰のように真っ白になっているところを、魔王城に住む、血色が良くない女魔族が通りがかった。

ベルナンデスは、掴み掛かるように彼女を問いただす。


「おい貴様、魔王様はどこだ!? 魔王様は何処いずこへ行かれたのだ!??」


「こ、これは四天王様!!? おおお落ち着いてくださいませ!! 首が引きちぎれてしまいまする!!!」


これが落ち着いていられるかと、尚もガクンガクンと、彼女の肩を前後に高速で揺らす彼。

振り回される女魔族は、更に顔色を悪くさせていった。


見てくれこそみすぼらしいが、彼こそは魔王四天王を司る重鎮の一人、力自慢では右に出るものが居ないと言われるほどの豪腕、ベルナンデスである。

魔王の『不戦』に賛同し、現在はその豪腕を活かし、他の魔族らと共に『魔の森』の開墾作業に徹していた。

・・・が、森は魔力分が濃く、作物を育てるには不適材不適所であった。

そして、魔族全般における『飢餓』へと、直接つながるのである。

諦める者が多い中、ベルナンデスだけは、その手を休めることは無かった。


有象無象の木々を引き抜き、高濃度の魔力を吸い、土を耕し、種を植え、肥料と水を与え続けた。

それを続けること、すでに300年以上は経過している。

今回はその、結果報告のために彼は来たのだ。


「聞いて驚け同胞よ、作付けすること300余年。 やっと作物の苗が枯れることなく、成長し始めたのだ! これで我らは救われるのだァ、私は嬉しいぞおおおお!!!」


「お、おめでとうございます・・ベルナンデス様・・」


本当はもっと喜びたいところであったが、彼に振り回されたせいで、聞かされていた女魔族は昇天しかけていた。

だがそんな彼女の姿は、当のベルナンデスには見えていなかった。

彼の頭の中は、やっと農業が成功したことだけで、埋め尽くされていたのである。

そしてこの事を、一刻も早く魔王様に、報告したかった。


「さァ魔王様は何処におわす!? 行って早く、この事をご報告して、ご安心させたいのだ!! さアァ!!!」


「・・・。」


女魔族は沈黙した。

四天王のベルナンデスは豪腕な半面、打たれ弱い上に、行動派の大概なほどの脳筋である。

『魔王様は現在、人間の街へ、出稼ぎに行っておられます』

そんな事を彼に言えば、またもや自分は、小枝のように振り回されてしまうことであろう。

それだけは、避けたかった。


「さあ早く言うのだ同胞! 言わねばこの魔王城、壊してでも探す!!」


「!!!!」


刹那。

言っても言わなくても、悪い結果がやって来る。

女魔族は青白かった顔を、更に青くさせながら、答えに窮するのだった・・・



魔王様の独走は、まだまだ続きます。

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