第3話・魔王様、決心する
これからも、頑張っていきます!
感想など、ありましたら、どんどんお寄せください!!
「うう、くうぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~!!」
「ほれゴリマルよ、自分の力で歩かぬか!」
我に貧困を訴えに来たゴリというゴブリン集落の長が、エグラーにエスコートされ、泣きながらこの場を退室していく。
ヤツの集落にはゴブリンの他に、オークという馬鹿が居るので、大変苦労をしているようじゃ。
オーク共は、欲望に忠実な魔物。
ヤツの苦労は、手に取るように分かる。
ゴブリンの長が、我の元を訪れた用件はもちろん、『街に行きたい』という内容。
街に遊びに行くといった事ではない。
街へ、盗賊のように盗みを働きに行きたいとの、申し出だ。
そうでなくとも彼らはゴブリンという、魔物なので、見つかれば殺されるであろう。
そもそも盗みが成功する見込みなど、あったものではない。
前にも述べたが、ゴブリンやオークのように弱い者には特に、認めるわけにはゆかぬのだ。
なにより『盗み』という響きが、よろしくない。
略奪は、歴史に悲しみしか生み出さない。
が、わが魔族領が『貧困』なのは、ゆるぎない事実。
ここで我は、大きな決断をしようと思う。
魔族の頂点に立つ者として、この事態をどうにかするのも、勤めの一つであろう。
ゴリを退室させたエグラーが扉を閉め、こちらへ向き直る。
どれ、我の『決意』でも聞かせてやろうか。
「エグラーよ、我は決めたぞ。 人間の街へ赴き、金を稼いでくる。」
「・・・・は?」
ゴリを部屋の外へ出し、扉を閉めてこちらに向き直ったエグラーは、素っ頓狂な声を上げた。
『は?』では無かろうが。
我は今、大事なことを言ったのだぞ?
我の側近を務めるならば、話ぐらい聞いておけ。
「だからじゃな、このままでは我々魔族は、ジリ貧であろう? ここで一つ、我が魔法で人間に化け、魔族を代表して魔王たる我が、人間の街へ出稼ぎにじゃな・・・」
「お、お待ちくださいシア様!! 何を仰っているのかこのエグラー、シア様の胸中が分かりかねます!」
エグラーが取り乱すのは分かる。
だが魔王城の現状は、明日の食事にすら困るほどの貧困。
その貧困を脱するには、わずかでも金が必要。
でも略奪はダメ、稼ぐにしても他の魔族に行かせては、不安しか残らない。
ならば、我が自ら、出向くほかに無いであろう!!
比較的、理解があって我々魔族でも安心していられる、エルフ達の元へ赴く事も考えはした。
だが彼らは、なにぶんにも『社会レベル』というものが低い。
エルフは金ではなく、異本的に物々交換が、主流なのだ。
そこへ出稼ぎに行ったとて、大したことはできぬ。
だが彼らの住まう地には、『金』がない。
これは彼らの間で装飾品として、かなり重宝されており、物々交換の場でもかなり有利になる。
人間の世界とは少し意味合いは違うが、彼らのコミュニティにおいて『金』は、かなり大きな価値を持つのだ。
つまり、人間の地へ赴いて『金』を稼ぎ、これをエルフとの交易品に供出すれば、魔族は『貧困』から抜け出せる。
その為に我は自ら人間の地へ、出稼ぎに行く。
合理性のきわみであろうが。
だがこの我のこの決断に、エグラーは真っ向から反対の意を示してきた。
「シア様、人間と言う存在は危険でございます!! その街へ赴くなど・・・・いくらシア様といえど、ご正体がバレでもすれば、死んでしまいかねぬのですよ!?」
あほう!!!
それ位、分かっておるわ!!
我だって今は、恐怖に打ち震えておるのじゃ。
400年間、『貧困』にタダひたすら、我慢を重ねてきた事が、それを物語っている。
人間は弱いが、怒らせれば脅威となりえるのだ。
団結し、弱い分だけ知恵をめぐらせて戦う。
先代の魔王が負けたのも、これが主原因である。
そんな人間の、ウヨウヨ居る場所へ赴く。
いくら『最強』を自負する我でも、怖くないハズが無い。
「危険は承知のうえじゃ。 安心せい、我もバカではない。 何をして金を稼ぐかは、目星をつけておる。」
「・・・・と、言いますと?」
このまま押し問答を続けても、時間の無駄。
行く事を決定の上で、話を進めることにする。
ヤツも少しは我の決意が伝わったのか、突っ込みを入れてはこなかった。
人間の世界へ行って後、する事は決めている。
人間の世界でもっとも安全で、有意義で、金になる仕事。
それは・・・・
「我は、『冒険者』なる者になる事とする。 これならば、安全であろう?」
ニヤリと、彼に向かって笑みを浮かべる魔王。
これに感心したとばかりに、何度も頭を上下に振るエグラー。
冒険者は、一人で出来る仕事。
それも我の大好きな『戦闘』を主な生業とする、デンジャラスな者たち。
我は血を見るのが苦手なので、ムダな殺生は好まないが、こちらも生きるためじゃ。
こうなれば、血を少し見るぐらいはガマンしようではないか。
この仕事ならば、身バレの危険も少ないであろう。
『登録』時に、種族を確かめられるとは聞いたが、それは魔法で、偽装すればよい話。
我は強いので、かなり稼げるようになるであろうと思う。
すべて、聞きかじりの知識じゃが、そのようなモノであろうと思われる。
実に良くできた仕事じゃ。
金にもなるので、魔王城に定期的に、我の魔法で仕送りも出来る。
人間とは実に、賞賛に値する生き物じゃ。
我を怖がらせる存在だけはある。
「・・・分かりました。 シア様のご決心は固いのですね? 他の魔族たちの説得は、私がいたしましょう。」
「うむ、そうか。 そうしてくれると助かる。」
ヤケに話が、スンナリといった。
先ほどの剣幕とは、エライ違い。
もう少しこう、『イケマセン!!』とゴネられるかと、身構えていたのじゃが・・・
いや、面倒くさくなくて良かったと、喜ぶべきであるな。
我は面倒なのはキライなのだ。
うむうむ、良かった良かった。
「ではすぐに、出立なされるのですか?」
「ああ、早いほうがいいからな。」
今すぐ行っても、明日行っても、事態に良い方向での、大きな変化は訪れなぞしないだろう。
なるべく迅速に、事は進めたほうが良い。
この決心が少しでも、揺らいでしまう前に。
それに、一日早ければそれだけ、稼げる金も増えるしな。
「かしこまりました。 では私も、私どもが魔王城に居ない間の業務の引継ぎをしてまいりますので、しばらくお待ちください。」
「は、お前は何を言っておるのだ?? 『引継ぎ』とはどういうことじゃ。」
「え、しかし引継ぎをしませぬと、魔王城に残される他の魔族たちが・・・」
「「・・・・・・・。」」
この部屋から今まさに、退室しようとしていたエグラーは、思いもよらない魔王の言葉に、その足を止めた。
対する魔王も、彼が何を言っているのかが分からず、怪訝な表情を浮かべ、コテンと首をかしげる。
しばしの静寂が訪れる、魔王城の玉座の間。
途端にハッとした表情になるエグラー。
しばしのフリーズを挟んで、ようやっと、事態が飲み込めたようだ。
「まさかシア様、お一人で人間の街へ向かわれるおつもりだったのですか!!????」
「あほう、さっきからそう、申しておるであろうが!! 何を聞いておったのじゃ、貴様は!!!」
どうやらエグラーは、人間の街へ行くと言う魔王様に、自らも付いて行くつもりだったようだ。
側近という立場上、彼がそう考えるのは至極、真っ当であろう。
だが現状、彼にまでこの魔王城を空けられては困る!!
驚愕の表情を浮かべるエグラーに対し、首を横に振る魔王様。
付いて来るのは、認めぬ!!
「なりませんシア様! お一人では危険すぎます!!」
「バカモノ! それを承知の上で行くと申しておるのじゃ。 我の心をくじいて来るでないわ!!」
床に手を着き、『付いていく』と聞かないエグラー。
『魔王城に残れ』と、譲らない魔王様。
玉座の間での、この二人の押し問答は、しばらくの間、続くのだった・・・・
諸都合で、投稿が遅れました。
大変ご迷惑をおかけしました。