第2話・魔王様、空腹に苛まれる
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魔王城の玉座の間。
うす暗くてボロい、400年前の遺産。
室内には幼女の姿の魔王と、その側近のエグラーしか居らず、彼女らの呼吸音以外、音は一切しない。
そんな部屋の中に、かわいらしい音が鳴り響いた。
クキュウゥ~~~~~~・・・・
「・・・・シア様。」
この音に反応してエグラーは、音の発生元と思われる、傍らの幼女へ、視線を向けた。
そんな彼に一切、顔を向けず、顔をリンゴのように真っ赤にさせる魔王と呼ばれる幼女。
そして彼女は、傍らの執事風の美老人に対し、逆ギレした。
「う・・うるさい、うるさい!! 腹が減るのは生理現象じゃ!」
「・・・まだ私は、何も申し上げておりません。」
彼のとり作らない態度に、さらに顔を紅潮させる魔王。
たしかにまだ、何も言ってはいないが、言うつもりだったであろうが!?
顔に書いてあるぞ!
『シア様、可愛らしいおなかの音で、[女子力]を磨かれようとしても、ムダですぞ?』とな!!
これは決して、妄想などではない。
前にも同じような事があって、ヤツは今のような事を、言い放ってきたのだ。
あの時はたしか、エグラーの腹を、思いっきりグーパンチしたはず。
魔王城の壁に、穴があくのが何とも、もったいない話ではあるが・・・
よし、いつもの働きに免じて、一発だけで許してやろう。
穴一個ぐらいならば、すぐに直せる。
グウウゥ~~~~・・・・・
が、それ以前に腹が減っては戦はできぬ!
羞恥心はこの際、捨て置こうではないか。
いまは『乙女』である事より『食欲』じゃ。
ヤツに対する我の、愛の鉄拳は、その後でよい。
「ええい、ともかく我は腹が減った! 何ぞ持ってまいれ!!」
「ございません。」
しかし魔王の食欲に対し、即効で否定の言葉を述べるエグラー。
思わず、「はっ?」と、マヌケな表情を浮かべる、魔王。
『腹が減った』と言って、それを否定してくるとは、どういう事か。
嫌な予感が、彼女の頭に浮かぶ。
「・・・エグラーよ、もしや食料庫がカラになったか?」
顔面蒼白で、エグラーにそう、尋ねる魔王。
いよいよ、この時が来たか・・・
そう感じた魔王。
だがエグラーはこの質問に、沈痛な面持ちながら、かぶりを振った。
「いえ、パンが三万個ほどは・・・」
「・・・・・。」
お通夜のような、重苦しい静寂が、部屋の中を包む。
もともと暗い部屋がこの空気感により、より一層、暗く感じる。
三万と言う数字を聞いて、多いと思う無かれ。
これは、ほかの魔族たちと分け合う分も含めた数。
魔王城の分は、その十分の一もない。
その残りの三千個のパンは、病気などで衰弱した者たちが食うべきじゃ。
実際この魔王城には、数百人規模の病人魔族がおる。
『病は気から』とは言ったものじゃ。
400年前以来、病人は増える一方。
魔族はそう簡単に死にはしないので、余計に患者は増える。
これらは、魔族全体の出生率にも、大きく影響している。
そもそも魔族は寿命が長いので、人間に比べれば、『出生率』は著しく低い。
その上で配下の魔族たちは、にわか病気の長期化で、衰弱している。
子供なぞ、生めようはずもない。
そんな事もあって、ここ百年で生まれた魔族は、全員を足しても十人そこらでは無かろうか?
子供の存在は、わりと重要だ。
彼らの元気な姿は、他の者に活力を与えてくれる。
まあ、我の場合はまず、我より強い『相手』を探すところからはじめねばならぬが。
以上の理由で、魔王城の中は、いつでも薄暗く感じる。
物理的にも、精神的にも。
魔王城で元気なのは、我とエグラー以外には居ないのではなかろうか?
かなり、由々しき事態である。
「そうか・・・・・そのパンは、すべて病人どもに分け与えるのじゃ。 我はガマンする。」
「かしこまりました、シア様。」
我に一礼をすると、エグラーは食料庫へ向かっていった。
たぶん見張りの者に、今の勅命を伝えに、向かったのだろう。
この辺り、ヤツは動きが早くて、大変助かっている。
しかし我の腹は、減ったままじゃ。
・・仕方ない。
もったいないが、魔力を消費するか・・・・
身じろぎすると、我の体はしばし、淡い光に包まれた。
・・・・・。
はあ、はあ・・・・
空腹感は無くなったが、魔力が減った。
少し、体にけん怠感がある。
しばし休むか・・・・・
疲れた体を椅子にあずける魔王。
今使った、『魔力』は時間がたてば回復する。
これはどんな生物であれ、当てはまる事。
我々魔族が、400年間まともに食事も取らずに生きてこれたのは、この『魔族』という種族に由来する。
この種族は全般に、内包した魔力が、非常に高い。
人間が一生かかってもできない魔法が、フツウに操れるほどには。
今我が、自分にかけた魔法もそうじゃ。
これは、『回復魔法』。
光属性の、魔族とは縁遠い魔法であった。
400年前までは。
大戦後、疲弊していた生き残りの魔族の一人が、人間達の見よう見まねで行使してみたら、なんと成功したという事から始まる。
不得手な魔法なので全般に、人間達よりもかなり莫大な魔力を消費してしまうが。
しかしながらふつうの回復魔法は、戦闘中などに、満身創痍となってしまった場合に疲れを取るための、魔法だ。
この魔法は結構万能で、病人の魔族たちがなかなか死なないのも、これに由来する。
もちろん、空腹なども。
空腹も、回復魔法をかければ問題は無くなる。
だがこの魔法はそこそこ、魔力を消費するので出来れば、あまり使いたくは無かった。
空腹がどうにかなっても、しばらくの間、体がダルくなってしまうのじゃ。
特に我のような、燃費の悪い体の者はこれが、顕著である。
つくづく自分の体を、恨めしく思う。
生物たるもの、やはりちゃんとモノを食うのが大切なのだ。
けん怠感に苛まれていると、室内の扉が開かれた。
言わずもがな、入ってきたのはエグラー。
もう食料番の者に、話を伝えてきたよう。
うむ、いつもながら仕事が早い。
いすに体を預ける我の姿を見て、何をしたのか悟ったらしい彼は、我に対し、一礼を返してくる。
「お疲れのところ申し訳ございません。 シア様、またもやゴリが面会を求めてきておりますが・・・」
「・・・・。」
またか。
奴は時折、こうして魔王城を訪れては、己の貧困を訴え、人間の街へ盗みを働きに行く許可を、求めてくる。
かなり危険な行為なので、400年間、我は誰にも認めてきていない。
奴はゴブリンという、魔族の中では頭のよくない部類に入る者たちの、部族長。
集落にはオークまで居て、ヤツがこうして我の元に許可を求めてくるのは、その辺りが関係している。
ヤツも、板ばさみのような状態なのであろう事は、容易に想像がつく。
だが、それとこれとは話が別なのじゃ。
わざわざ危険と分かっていることを、許可するわけには行かない。
「あ~~~、エグラ~~。 我は疲れたのじゃ~~~。」
「シア様、その言葉はもうこの300年間、聞き飽きております。」
この、おおたわけ者めが!
我がこの数百年どれだけ、配下の魔族たちに身を削っていることか。
それを知らぬ訳ではあるまい!
ヤツらの申し出は、もっともなものが多いので、はねつける事ができない。
どうにか、打開策とかはないものだろうか??
魔王はゴリが入室してくるまでの間、しばし考えこむのだった・・・・・
魔王様の受難は、続きます・・・