第1話・魔王様、ウインナーを食いたがる
少しでもマシな作品をおとどけするため、頑張ります。
うす暗い室内。
天井につるされたシャンデリアは、クモの巣が張り巡らされ、一部が欠けてしまっている。
玉座の間にあったはずの、血の様に赤かったはずの大きなカーテンは、見るも無残に風化している。
柱や壁といったものも、かなり崩壊が進んでいるようだった。
唯一、床だけがピカピカに磨かれていたが、かえってそれが、室内をヒサンなものに見せる。
この広い室内には調度品の類は一切無く、より殺風景に見えた。
そんな魔王城の一室には、小さな女の子と、執事風の美老人の姿がある。
お互い闇より深い赤目黒髪で、頭の上には赤黒い角が生えている。
背中から生えている、コウモリのような黒い翼から、彼らが人間でないことがうかがい知れる。
二人は共に、とてつもない威圧を周りに放っており、人間が今この場に訪れれば、一瞬にしてその意識を刈り取られてしまう事だろう。
室内は、物々しい雰囲気で包まれていた。
そんな彼らは今、由々しき事態に陥っていた。
「のうエグラーよ、我は夕飯は、ウインナーソーセージが食いたいのだがな。」
「お誕生日まで、どうかご辛抱くださいませ、シア様。」
イラッ・・・
「この魔王城は、乙女のささやかな、願い一つ叶えられぬのか!?」
側近のあまりに冷たい言葉に、激昂する『魔王』と呼ばれる幼女。
それに負けじと美老人も、彼女に反論する。
「なにが『乙女』ですか、もうあなた様は、400年以上、生きているではありませんか!」
「うるさい、うるさい!! 女性はたとえ400年を生きようが、『乙女心』を持ち続けるのじゃ!! 貴様にはそれが分からぬのか!?」
「ならばせめて、『本性』を現してください! そのお姿では、あなた様は幼子にしか見えませぬ!!」
「なにおう!?」
いつも思うが、コイツは、失礼なヤツじゃ。
ヤツとのこの問答は、もうかれこれ400年以上続いている。
そうそう、自己紹介がまだじゃったな。
我の名はエティシア=バルグレード。
この地で、魔族たちを束ねる『魔王』と言うものを、やっている。
やることは、単純明快じゃ。
『魔族たちの抑止力』
魔族たちは我を含め、好戦的で残虐なことで知られる。
ちなみに我は好戦的ではあるが、残虐は嫌いな、変わり者じゃ。
おかげでこの、『抑止力』になった際、魔族たちに無益な殺生を禁じることができた。
でなければきっと、400年前に『魔族』と言う存在は、この世から滅びていたであろう。
もちろん、我一人の力でやったわけではない。
傍らにいる、エレン=エグラーという同族の古株が、力を貸してくれたおかげで、『今』がある。
ヤツも魔族の中では変わり者で、『成り上がり精神』がハナから無い。
というか、400年前の生き残りの奴らは皆、戦い嫌いの変わり者の魔族じゃ。
だから、この地で生き延びた。
エグラーもそうじゃ。
コヤツはかなり器量が良いが、我も含めて魔族としては『失敗作』もいいところじゃ。
まあ・・・ようはヤツと我は、馬が合うのだ。
だが、コイツには、『遠慮』と言うものが無い。
魔王である我に対し、媚びへつらったり、低い姿勢に出ると言ったことがまるで無いのじゃ。
我のことを、『魔王』ではなく、『シア様』と、名前で呼んでくる辺り、それが現れている。
それ自体はどーでもいいが、それに加え、ヤツは存外、失礼なヤツじゃ。
我が『女』を主張すると、ヤツはこれを踏みにじってくる。
我の魔力弾で吹き飛ばしてやりたい所だが、ヤツはこれで有能なので、今まで自重して来た。
だがそれも、もう限界じゃ!
そう、か弱き乙女の心を踏みにじった者には、天誅をくれてやろうぞ!!
「クックック・・・エグラーよ。 とうとう我を怒らせたな? その重ねた罪、地獄で償うが良い・・・」
その言葉とともに、彼女の放つ殺気や魔力が、先ほどとは比べ物にならぬほど、格段に上がる。
ゴゴゴ・・・と地鳴りとともに大きく揺れだす魔王城。
それに呼応し、天井にたまったホコリが、パラパラと落ちてくる。
当然そのホコリは、重力に引かれて床へと、落ちて行った。
「ああ・・・! お待ちくださいシア様、床にホコリが!!」
一国を一瞬にして、消し飛ばしかねない魔力を前にして、エグラーは天井から舞い落ちてくるホコリを気にした。
この辺り、400年分の慣れが大きく、関係している。
彼女とのこのやり取りは、日常茶飯事のことなのだ。
すぐに魔法でホウキとチリトリを出し、このホコリを片付けて行くエグラー。
部屋中に散ったホコリは、ものの数秒で、元のなめたようにピカピカな床へと戻った。
ひと通り部屋を見回し、ホコリが無いのを確認すると、エグラーは火炎の魔法で、掃除道具ごとホコリを燃やし尽くす。
手に持ったまま、一瞬にして。
難なくやってのけたが、これ一つで人間の街一つが消えかねない程の、威力がある。
彼も長年戦いがなかったこともあり、この辺りの調整が最近、利かなくなってきているようだ。
「ちっ! 久しぶりのヤル気も失せたわ!!」
この彼の一連の行動を前に、彼女も魔力を抑えていつもの状態に戻る。
パンパンと手を払ったエグラーも彼女へと、視線を戻す。
「シア様、あなた様が本気を出されては、魔王城が崩れてしまいます。 そうなっては、明日からは雨風すら、しのげなくなりかねないのですよ?」
「分かっておる。 だからこうして、矛は収めたではないか。」
エグラーのたしなめる様な言葉に、顔をうつむかせる魔王。
彼女とて分かっているのだ。
これはいつものタダの、戯れに過ぎないのだ。
こんな事をしたところで、意味など無い。
ただムダに、魔力を消費するだけだ。
しかし魔王のこの言葉に、かぶりを振るエグラー。
『何か間違えたことでも言っただろうか?』といった風に、顔を上げる魔王。
「シア様、400年前に『魔王』となられ、あなた様はここまでがんばって来られました。 世界は未だかつて無いほど、『平和』となっていることでしょう。 どうかこれからも、そのお力を、この『平和』のために、末永くお使いくださいませ。」
「ム・・・なんだか照れるのう・・・・」
タマにコイツは、こうして我の荒んだ心を癒してくる。
だから我も、コイツを傍に、置いておるのじゃ。
やはりこういう奴こそ、信用に値する。
ごくタマーーーに、マジでイラッとする事もあるがな。
ま、それはさておきじゃ。
「エグラーよ、ならば話は早い。 この力の平和活用のためにも、我にウインナーソーセージを進呈するのじゃ。 何、一本でかまわぬ。」
「肉類は、太る原因となりますよ、シア様?」
「なーーーーーーーーーーー!!??????」
我が下手に出ておれば・・・・・!
乙女に決して、言ってはならぬ事を言いおったな、コイツ!?
これはさすがに、マジで怒った!
決めた、やはりコイツは森の肥やしにでもしてくれよう。
我は慈悲深いのでな。
一瞬にして塵も残さず、片付けてくれてやろうぞ。
魔力を先ほど以上に、底上げする魔王。
ゴゴゴゴ・・・・・・!!!!
パラパラパラパラ・・・・・・・・・
「し・・・シア様!? ホコリが、ホコリがーーーーーー!!」
我は先ほどのように、魔力を一気に増長させていく。
それと共に、再び魔王城が大きく揺れ始める。
こうして我とエグラーの、第2ラウンドが幕を開けた。
他作品の二倍近くの時間を、かけて書いております。
その結果は・・・
感想など、いただければ幸いです。