表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/100

第17話・魔王様、幸先が悪い

手違いで、1話すっ飛ばしてしまっていました。

今後このようなことが無いよう、気をつけます。

皆様には大変ご迷惑をおかけしてしまった事を、お詫び申し上げます。

夜。

ブライトの東側の商業区は、多くの明かりがついていた。

その中に、ブレアンド商会がある。

そこではここ数日『選考作業』が行われていた。


「それでは11番の方は不採用と言う事で・・・よろしいですか??」


一人の男の提案に、部屋の中の人間達が一様にうなづく。

それと共に手元にあった『11番目』の就労申込者の履歴書が、机の上からはじかれる。

彼らは今、先日締め切られた『面接』による結果などを元に、商会で働くに値する人物か否かを判断しつつ、その選考を行っていた。

今回の募集での応募者は全部で13人ほど。

対してブレアンド商会の雇用人数は、特に明記はされていない。

最近、老齢などにより退職した者が多く出た商会では、人材を欲していた。

なるべく、若くて長く勤めてくれそうな者が。

さすがに応募者が13人なので全員を雇う気は無いが、それでもなるべく、優秀そうな人物は雇い入れたい気持ちがあった。

それもあっての、この『選考作業』である。


「この12番の方ですが・・どう思われますか?」


「・・私が面接をしたときの印象としましては、上からの物言いであった気はしました。 志望動機も『金を稼ぐため』と不十分でありまして・・・」


「うむむむ・・・・」


面接を担当した者の報告に、眉をしかめる面々。

若くて容姿端麗。

その見た目は商会が欲していた人物、そのもの。

その筆跡は、よっぽど力強く書いたのかにじみまくりだ。

近年マレに見る、所謂いわゆるヒドイ履歴書である。

だがその履歴書からは、応募者の燃え上がるような熱意が伝わってくるようだった。


「確かに動機は不十分かもしれませんが、この履歴書からは若さゆえのパワーを感じます。 業務の希望も無いとの事なので、融通の利く人材とも考えられますが、如何いかがでしょうか?」


「異議なし。」


「私も賛成です。 パワーあふるる若い優秀な人材は、うずめるものではありません。」


「試してみるか・・・」


数分の議論によって、『12番』の人物は、採用の運びとなった。

その履歴書の写真には、赤目黒髪の妖麗な女性が映っているのが確認できた・・・



◇◇◇




ごーんと、この日5回目の鐘が、ブライトの街に鳴り響く。

この日はあいにくの曇天どんてんで、空は厚い雲で覆われていた。

遠くから、雷が近づいてくるのも聞こえる。

もうまもなくもすれば、この街も雨模様になるだろう。

それを予見し、街の多くの者たちは足早に、建物の中へと入っていく。

一方で、それらとは正反対に外へと出ている、一人の女性の姿があった。

彼女が浮かべる表情は、実に真剣なものである。


「待っていろ者どもよ、必ず我は、仕送りをするぞ!!」


決意を胸に魔王様は、街の商業区となる東側へと歩を進めていく。

先日シティワークの多くの求人の一つ、『ブレアンド商会 社員』の面接が執り行われた。

今日はその、合否発表があるらしい。

これで採用となれば、晴れて彼女も一人の社会人となる。

面接の際、対面に居た男が、そう言ってきたのだ。

すぐに結論を出さないのは、それだけよく、考えた上で雇ってくれるということであろう。

他にも応募した者は、幾人か居たようだし。

その中でも我は、面接時間がかなり、長かったらしい。

これは、自分に興味を持ってくれたのではあるまいか?

少しは希望を持っていいのではあるまいか!?

・・・とはいうものの。


「さい先が悪いのぅ・・・天気は悪いし、黒猫の獣人が目の前を横切るし、なんだか体調もすぐれぬ。」


道端で大きくため息をつく。

天気や体調が悪いのは、直接は関係無いのだが、それはこれから起きる良くない事を、象徴しているように感じた。

本当のところをいえば、天気が悪いのはただ、この辺りの空気が不安定なだけだし、

彼女の体調が悪いのも先だって、100年ぶりにガツガツ胃にモノを詰め込んだために、お腹がビックリして起きたものだ。

黒猫の獣人は、ただの偶然だ。

だが今の彼女に、そんな理屈は関係ない。


「ともかくまずは、結果じゃ。 その後に今後のことは考えよう。 その時は頼むぞ、相棒よ。」


ドレスの胸元に、無造作に差さるシティワークに目を落とす。

それを見て、恍惚こうこつの表情を浮かべる。

すっかりこの雑誌の株も、彼女の中では上がったようだ。

ちなみにこの雑誌、数日ごとに新しいものが発行されるものであり、実は彼女の持つこれは、もはや古雑誌でしかない。

求人情報は、かなり早いサイクルで出たり無くなったりするのが常なのだから。

この重要な事に、まだ彼女は気付いてすら居なかった。


どかっっ!!!


「うわっ!?」


突如、後ろから襲ってきた衝撃に、体勢を崩し前のめりになる魔王様。

それと共に前方へ走っていく、一人の男の姿が視界に映った。

どうやら、あの人間がぶつかってきたようだ。


「気を付けぬか、バカモノ!!」


精一杯、走り去っていく男に向かって、抗議の声を上げる。

危うく、転んでしまうところであった。

ぶつかって来ておいて謝りすらせぬとは、一体どういうことだろうか!?

道の真ん中で仁王立ちし、ドレスの裾を数度、はらう彼女。


「んお!? ななな、無い!??」


胸元に差していた、シティワークが無くなっているのに気がついた彼女は、大慌てで周りを見まわす。

だが彼女の『相棒』の姿は、どこにもなかった。

そうしてその視線は、先ほどぶつかった男へとそそがれる。

よく見ればその男の右手には、大きめのバッグが肩から下げられており、中から飛び出すような格好で『シティワーク』が見えた。

どうやらぶつかった際に、ひったくられたらしい。


「ま、待たぬか貴様ああああああああ!!!!!!!!!」


必死の形相で、遠くへ走り去っていく男を追いかける魔王のシア。

盗まれた、『相棒』を取り返すために。

コレは決して、ヘンな事ではない。

あれにはイロイロと書き込みがされており、所謂いわゆる『シア専用』となっていたのである。

つまり、彼女の言う『相棒』という呼称は、的を得てはいたのだ。

アレがないと、何も知らない自分の就職は、著しく難しいものとなる。

彼女は赤黒い彗星のごとく、道を全力で駆け抜け、男との距離を縮めていった。


・・逃走劇は、ものの数秒で幕を閉じた。

いくら間抜けとはいえ、相手は世界最強と名高い『魔王様』

スリには、相手が悪すぎた。


「この貴様! 我から盗みを働くとはいい度胸じゃ、五体満足で帰れるとは思うな!?」


「ぎゃあああああああ! いたいいだい!!」


男に追いついた魔王は男に馬のりになり、その背骨を逆のほうへと曲げていった。

彼の体が、ミシミシとうなりを上げる。

もちろん、本当に折る気は無い。

そのすきに、彼女は男のバックから『相棒』を救出する。


「おお、良かった相棒よ。 探したぞ!」


実際に探したのは10秒程度だが、その再会を懐かしみ、相棒の無料求人雑誌に頬づりをする彼女。

これさえ戻ってくれば、どうとでもなる。

主に、就職活動において。

これには魔族の未来が掛かっているのだ。

戻って来て、本当に良かったと血涙を流す彼女。


「ち、ちきしょう!」


ひったくった物が取り返されてしまった事に、毒を吐く男。

彼がシアの相棒・・・

もとい『シティワーク』などという無価値の物を盗んだのには理由があった。

一見してみれば、何の変哲も無い街の無料雑誌。

だが大事そうに胸元などにしまい、視線を下げれば浮かべる恍惚こうこつの表情。

中に何か、高価なものを中に挟んでいるのではと錯覚しても、無理は無かった。

シアはつまり、無意識に自らカモとなってしまったのだ。


「おい貴様、面倒を掛けるでない。 本来であれば痛い目を見てもらうところであるが、我は忙しいのじゃ。 さっさとどこぞへ消えよ!」


「え・・・?」


思いがけない彼女の発言に、目を丸くさせる引ったくり犯。

シアとしては『シティワーク』さえ戻ってくればそれで良かったので、この態度である。

というか今は早く、商業区へ向かいたかった。

彼女の向ける鋭い視線に及び腰になりつつも、内心、舞い降りた幸運に感謝する男。

追いつかれたときはもう、ダメかと思ったが、離してくれるようだ。

おれは運がいい。

この女はヤバそうなので、これから『仕事』をする際は、気をつけよう。


立ち上がり、きびすを返して足早にこの場を後にする男。

・・・だったが、それはすぐに、止めさせられた。


「貴様だな、引ったくり犯は!! 街の治安を乱す下郎め。」


「く、くそ!!!」


彼女ばかりに気をとられ、目の前に居た街の警備兵の存在に、全く気がつかなかった。

あっけなく御用となる引ったくり犯は、毒を吐きつつ抵抗を図る。

だが、よく訓練された兵士と引ったくり犯では、結果は目に見えていた。

すぐに抵抗を止め、大人しくお縄につく男。


「お嬢さん、お怪我はありませんか?」


「・・は、お嬢さん??」


兵士の口から発せられた言葉に、目を丸くさせる魔王様。

自分の見た目は、今は大人の女性のはずだ。

おかしい、もしや魔法に不備でも?

不安に駆られ、自分を見やる彼女。


「ははは、お怪我が無いのなら何よりです。 この男は我々が責任もって、処罰いたします。 何か盗まれたものはございませんか?」


「い、いや。 我の持ち物はコレだけだが?」


そう言って、『相棒』を兵士へ見せ付ける。

どうやら男のバッグに入っている物は、他の人間達からひったくった物らしいと兵士は判断した。

その量から見ても、この男は常習犯のようだ。

この一人を捕まえられるだけでも、街全体の治安向上に大きな一歩となる。

被害報告があって来たのだが、捕まえられて、本当に良かった。


「では私はこれにて失礼します!」


「ああ・・・」


ビシッと兵士は彼女へ敬礼をすると、そのまま男をしょっ引いていった。

それを無言で、見送る魔王様。

彼女も運が良かった。

もし彼女が男を捕まえる(?)瞬間を兵士に見られていれば、彼女も『事情聴取』をされていたことだろう。

というかまず間違いなく、表彰ぐらいは受けていたはずだ。

金にもならなければ、腹も膨れない、その上で人間達に囲まれるなど、彼女の鳥肌は立ちまくりであった事だろう。


「イカン! 用事があったのだった!!」


ひったくりに頭に血が昇って忘れかけてしまった。

とんでもなく時間をムダにしてしまったぞ。

まったくあの男は、今度会ったらボコボコにしてやる!


足早に彼女は、街の東側へと歩を進めるのだった・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ