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第16話・魔王様、原点回帰する

みなさま、あけましておめでとうございます。

今年も本作を、どうぞよろしくお願いいたします。


「まったくアヤツめ、我をからかいおって!! 今度あったらタダでは済まさぬ!!」


お怒り気味の魔王様は、ズタズタになった『シティワーク』を右手で握り締めている。

振りまく熱気のすさまじさは尋常ではなく、彼女が近くを通った後の道端の花壇の花は、ことごとくその熱にやられ、しおれていく。

近くを通る者達は危険を察知し、彼女をけて通っている。

先ほどまで彼女の周りに出来ていた人垣は、見る影も無い。

彼女がここまでお怒りなのは、先ほどの就職活動によるものだ。


最初に向かった『エレグーラ』という店。

面接の出だしは、先ほどまでの門前払いとは打って変わり、とても好調であった。

先方は、自分を雇う気マンマンだったようだ。

だが仕事の詳しい内容を聞き、こちらから断らせてもらった。

『男性にびて、ひと時の夢を与える仕事』とでも言えば分かるだろうか?

やって来る男性客へサービスをするのが、店の特徴らしい。

制服と言うのも、実に破廉恥はれんちで肌の露出が多いもの。

そんなの、こちらから願い下げである!


しかしその後、エルフ女からピックアップされた『仕事』はすべて、同じような内容であった。

ヒドイものでは、我の着ている服を客が破・・

(自己規制中です。 街の公園に咲き乱れる、美しい黄色の花のじゅうたんを思い浮かべながら、しばらくお待ち下さい。)


ヤツはきっと、我を馬鹿にして、こんな選択をしたに違いない。

今度会ったときに半殺しにしても、ばちは当たらないと思う。


他人ひとに任せたのが、そもそもの間違いであった。 やはり自分のことは、自分でどうにかすべきであるな。」


そうすれば、こんな事には二度とならない。

あとは、ちゃんと『応募用件』なるものなども、よく読んでから応募しよう。

求人情報には働く時間やもらえる金、仕事の内容などが一目で分かるように簡潔に、書かれている。

実に、便利だ。


「『ボランティア街案内士募集』・・・なんじゃ、これも資格が必要なのか!? だめじゃ。」


こうしてみていくと、なんと資格が必要な仕事が多い事か。

そしてよくよく見れば、今のは『交通費』なるモノのみの支給と書いてある。

『交通費』とやらがイマイチよく分からないが、給料が低いと言う認識でまず、間違いは無かろう。

それでは、ダメだ。


「『時計台清掃』? 高いところはちょっと・・・」


なるべくならば、地に足をつけて働きたい。

これもダメ、あれもダメ。

彼女の就職活動は、遅々(ちち)として進まない。

り好みをしていては、キリが無いのだ。

就職を目指すなら、ある一定の妥協だきょうも必要である。

それを見越して、レリアルさんはあらかじめ、仕事をピックアップしてくれていたのだ。

・・・まあ、そのピックアップ内容は、著しくおかしいモノであったが。

『シティワーク』を眺めていくうちに、彼女もそれはだんだん、分かってきた。

全然、自分の要望に当てはまるような仕事が、載っていなかったので。


「・・やはり、順番に受けていくか。」


原点回帰げんてんかいき

魔王様は再び、面接を順繰じゅんぐりに受けていく方針を固めた。

何というか、こうして雑誌とにらめっこしても、不明な点が多すぎる。

こうしている間にも、魔族たちはきっ腹を抱えているのだ。

どうせハンターには成れないのだから、他はどれも一緒である。

・・・・少なくとも、彼女的には。


「『ブレアンド商会 事務作業など』これじゃな。 場所は街の東側、2の・・・」


どんな仕事かなぞ、想像もつかない。

いや、この雑誌の中で想像がつくものなど、ほとんど存在しない。

だから、どれも一緒。

資格が不要ならば、我にもできる!

あのエルフ女の言う事が本当なら、見た目が大人の今の自分は働けるはずだ。

・・・言ってて、実に胡散臭うさんくさい話だと、思わなくは無いが。

ここで疑っていても、始まらないか。


彼女は意気揚々と、次なる戦場(?)へと向かうのだった・・・




◇◇◇



街の東側には、商業区が広がっている。

ここは街の経済の中心地となっており、多くの商店や、ギルド事務所などが乱立している。

そのおおむね真ん中あたりに立地している商会の一つが、『ブレアンド商会』だ。

この商会では主に、諸外国からの輸入品などの卸業を営んでいる。

国内において、そこそこ大きな部類に分類される、そんな商会組織だ。

その建物の一室では、『シティワーク』の求人に応募してきたらしい、一人の女性の面接がり行われていた。


「どうしてあなたは、ここで働こうとしたのか、教えていただけますか?」


「うむ、事情あって我は、金を稼がねばならなくなってな。 よろしく頼む。」


そして相も変わらず、どこか上から目線の魔王様である。

こちらはあくまで『面接をさせていただいている』立場にあるので、この態度は非常によろしくない。

ついでに言えば、彼女は面接官に、質問の答えを仕切れて居なかった。

面接官の言う『どうしてここで働く気になったのか』と言う質問は、つまり志望動機を聞いているのである。

これに対するシアの返答は、端的に言えば『何となく』だった。

・・・少なくともベテラン面接官には、そう聞こえた。

金を稼ぐなら、ここではなくても可能なので。

魔生で初めての就職活動を行っている彼女に、それは知る由も無いが。


「そうですか。 こちらではどのような業務をご希望ですか?」


「『業務』? そのようなものは知らぬ、働かせてもらえれば、何でも良い。」


初っ端からつまづいているのにも気づかず、魔王様は面接官の男から向けられる数々の質問に、ただ淡々と答えた。

エルフ女と書いた『履歴書』(内容の大半が妄想)も提示したことだし、これと言った問題はない。

後は、自分の考えなどを、聞かれるままに答えていけば良い。

シアは未だ、『面接』という物を甘く見ていた。

服装も替えが無いとはいえ、黒いゴシックドレスは、非常にいただけない。

はっきり言って、面接に着ていくような服ではないだろう。

レリアルさんの、彼女への職の斡旋あっせんは、実はこの辺りも関係していた。

それは魔王様によって、即破棄されてしまったわけだが。


彼女の『就職活動』は続く・・・・

魔王様は就職活動で、大変そう・・・

彼女には、新年を祝う余裕はこの先も、無いかもしれません。

今年も頑張れ、魔王様!!!

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