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第9話・魔王様、現実に直面する

これからも、頑張っていきます!

感想などがありましたら、どんどんお寄せ下さい。

パッと灯りがつけられ、明るくなったギルドの建物。

建物内の配置はほぼ、400年前と変わりないモノだった。


まず冒険者たちがくつろぐ為の、机と椅子が置かれたそこそこ広めの休憩スペース。

そこには数人の、顔を赤くさせた男が酒をあおっている姿があった。

そしてギルドのカウンター。

うら若い新米ハンターが、ニッコリと微笑ほほえみを浮かべた受付嬢と何やら話しているのがうかがえる。

他にも喧嘩だろうか、剣を構えにらみ合っているハンターの姿もあり、それを受付の人間が止めに入っている姿がある。

傍から見ると、かなり賑わっているように見えた。

もし、それらが『動いていれば』。


「なんじゃこれは・・・・」


目の前に広がる光景に、唖然とした表情を浮かべる魔王様。

視線を横にずらすとあるのは、所狭しと並べられた多くのショーケース。

中には、ギルドで使われていた道具や、ハンターの装備品などが展示されている。

そして脇を見れば、歴史解説のために置かれた、多くのパネル。

『ギルドの歴史』や、『ハンターの過酷な生活』などが書きつづられている。

そして最後に、往時をしのぶために置かれた、数体の人形。

初めて来た者でも分かるよう、実にイロイロなポーズをとった人形が置かれている。

これだけ見れば十分、往時の『ギルドの姿』が分かるようになっているのだ。

見てて、全く飽きない。

しかしギルド受付嬢にセクハラしている男性ハンターの人形は、情操教育上、すぐにでも撤去が望まれる。

ちょっとリアルすぎるので。


「どうだい? 昔はこんな事が日常茶飯事でね。 ワシも子供の頃はよく来たものさ。」


素材の買い取りカウンターで、獲物の買取をしてもらっている姿を模倣した男ハンターの人形の肩を、ペシペシと叩くおじいさん。

よく見るとその男の人形は、受付をしている女性に、鼻の下を伸ばしている事が確認できる。

いくらなんでも、リアルすぎである。

造形師は一体、何の恨みがあって、こんな人形を作ったのか。

だがロリババアの魔王様には、そんな事は眼中に無かった。


「マイロよ、ここは本当にギルドか? これではまるで、博物館ではないか!??」


自分が来たかったのは、『本物の』冒険者ギルドである。

こんな歴史博物館で、時間を無駄にしている時間は無い。

抗議の声を上げる。

そんな彼女に、としのため細くなった目を、大きく見開くマイロというおじいさん。


「ああ、昔はここも『ギルド』として賑わってね。 『冒険者』というハンター達が集って、毎日がドンちゃん騒ぎだったさ。」


往時を懐かしんでいるのか、目を閉じて何度かうなづくおじいさん。

着ている青いスーツも相まって、最初に会ったときよりも若々しく見えた。

なんというか、イキイキしている。

こちとら、とんだムダ骨だと言うのに。

なぜ人間世界に出稼ぎに来た自分が、こんなところに居るのか。

門番のヤツも存外、アホじゃ。

『冒険者ギルドを教えよ』と言って、『博物館』を教えるヤツがあるか。

まあ、今の自分は見た目が見た目なので、仕方ないと割り切ることにしよう。


「マイロよ、夜分すまなかったな。 我はもう帰るので、もう閉めてよいぞ?」


「え、そうかい?? まあ・・もうこんな時間だしね? またいつでも遊びにおいで。」


人のよさそうなマイロおじいさんは、手をヒラヒラさせ、入り口へと向かう彼女を見送る。

こんなところ、二度も来て何になる?

たぶん、我はもう二度とここへは来ない。

この爺さんには悪いがな。

まあせいぜい、人間生活の見聞けんぶんを深められたとでも考えておくとする。


「して、この街にある『本物のギルド』はどこじゃ?」


「本物のギルド? お嬢ちゃん、そんなところへ行って一体、何をする気だい??」


我がギルドへ行く理由?

決まっておる。

我には稼いで稼いで稼ぎまくって、魔族の貧困を少しでも、軽減させる使命があるのじゃ。

そのためには、どうしても我は『冒険者』になる必要がある。


「事情があってな。 『冒険者ハンター』になるために、行かねばならぬのじゃ。 なるべく今日中にな。 そういうわけで我は急いでいるので、早く『ギルド』の所在地を・・・」


一連のシアの言葉に、さらに目を丸くさせるマイロおじいさん。

どうしてさっきから、そう驚くのか?

すると一転、おじいさんは大きな声で笑い始めた。


「ははは、お嬢ちゃん『冒険者』に憧れているのかい! 道のりは遠いけど、頑張れ。 ワシは応援しているぞ?」


はあ?

このご老人は、何を言っているのか?

我はこれから、冒険者になるので、頑張る事など何もない。

実力を過小評価でもしているのだろうか?

まあ、我のこの幼子の姿を見れば、無理も無いか。

フフ・・・なれば明日、驚きに打ち震えるがいいわ!!


「50年前ぐらいに『冒険者ギルド』は無くなってね。 代わりに『ハンターギルド』というのが創設されたんだ。 冒険者は危険な仕事だからね、時代の流れっていう奴かな?」


はははと、薄笑いを浮かべるマイロおじいさん。

つまり、どういう事だ??

この爺さんは我に何を言いたいのだ。

戸惑いを隠せないシア。

若干の、不安もよぎる。

そんな彼女の心境を知ってか知らずか、話を続けるおじいさん。


「今はハンターになるには、定められた『資格』を取得しなければならないのじゃ。 これが所謂いわゆるハンターになるための『登竜門』でな、めっぽう難しい試験内容である事も相まって、目指す者にとっては狭き門となっておる。 お嬢ちゃんもハンターになりたいなら今のうちから、しっかり体を鍛えて、勉強もするんじゃぞ?」


「ちょ、ちょっと待て!! 『勉強』とはどういうことじゃ!??」


冒険者になるには、受付で登録をするだけだったはず。

『体を鍛えよ』は分かる。

だが『勉強せよ』とは、どういうことじゃ?

シアは現状が理解できずに居た。

一体、400年の間に、人間の世界では何があったというのか。

腰に手を当て、説明を続けるマイロじいさん。


「野草の見分け方、危険動物の適切な倒し方、解体の仕方、処理方法など多くの試験項目をクリアしなければ『冒険者』にはなれないのじゃ。 これがあまりにも多岐にわたる知識が必要となるので、『狭き門』となってしまうのじゃ。」


バカな・・・・・!!

うそだろ!??

その『資格』とやらが無ければ、冒険者ハンターにはなれぬというのか!!?

あまりにも突然の情報に、奈落の底に突き落とされたような感覚に陥るシア。

おじいさんはそんな彼女に、続けざまに追い討ちをかけるようなことを言ってきた。


「そうそう、これが入館者全員に渡している『入館記念ギルドカード』じゃ。 今のとは違うが、往時のギルドカードとは遜色そんしょく無いのじゃよ?」


「・・・・・。」


渡された『入館記念ギルドカード』には、手書きで彼女の名前と、性別が書かれていた。 

そのほかにランクなどが細かく書かれている。

はっきり言って、ヒサンさが増大した。

こっちは、泣きそうである。


「いつか夢がかなうと良いの。 それを目標として持って、頑張るんじゃぞ?」


ご~ん、ご~んと、外で教会の鐘が鳴る。

この日、16回目の鐘だ。

これで『今日』という日は終わりを告げる。

他の『何か』も終わりを告げてしまったシアは、ひと時の間、『ギルド史料館』で、立ったまま意識を失うのだった・・・・


魔王様は、どうやら『冒険者ハンター』にはなれないようです。

この先彼女は、どうなるのやら・・・・

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