第0話・魔王様たちの近況
大変お待たせいたしました。
まずは、プロローグの投稿となります。
同時進行で、『オタクはチートを望まない』も書いておりますので、よろしければどうぞ。
拙い文章力や内容、申し訳ございません。
どうか末永く、よろしくお願いいたします。
ある大きな街の商店の軒先で、幼い少女が大人びた口調で店主と話をしている。
やって来た少女に、店主の男は、なで声で対応した。
「嬢ちゃんは、この雑誌を見て、わざわざ来たのかい?」
「ああ、どのようなモノでもかまわぬ。 やらせてはもらえぬだろうか?」
女の方は黒い髪に、赤い双眸が光る出で立ち。
シックな濡れ羽色のドレスに、背中に背負われた大振りの剣は、彼女の華奢な体格に対し、なんともミスマッチに映った。
しかし当の店主の方は気にかけた様子もなく、淡々と相対する。
「募集は先週で終わっちゃったんだ。 悪いね。」
「そうか・・・いや、こちらこそ突然押しかけてすまなかった。」
残念そうにうなだれ、店を後にする少女。
右手の雑誌を硬く握り締めたその様子からは、何らかの力強さのようなものが感じられた。
まだ用事があるのか、歩むスピードは見た目にそぐわぬほどに、早い。
彼女の名は『エティシア=バルグレード』。
見た目こそ幼いが、年のころは400年を超える、とんだロリババアである。
魔族の王として君臨し、街一つを滅ぼす力をも有す。
理由あって今は、人間の街で『就職活動』を行っている。
魔法で魔族特有の姿かたちをイジってはいるものの、世間知らずが祟って、仕事にはありつけていないのが現状だ。
しかし、こんなところで腐っている暇はない。
魔族の代表として、大きな責務を背負っているのだから。
『魔王』
この単語を聞いて、皆はどのような感情を抱くだろうか?
人間に敵対する存在?
世界の敵?
残虐非道な魔族の王?
勇者に倒されるべき存在??
まあ少なくとも、そう良い感情が浮かばないのは、分かっている事だ。
事実上、先代までの魔王は、そのような輩ばかりであったと聞く。
でも知っていて欲しい。
我は誰かを傷つけるようなマネはしたことが無いし、しようとも思わない。
ではなぜ、人間の街などという敵地に、単身で赴いているのか。
事は数日前まで遡る・・・・・
◇◇◇
「おい、聞いたか? ゴブリンの族長が、魔王様の下を訪れているらしいぞ。」
「ああ、聞いたよ。 まったくゴブリン共ときたら・・・頭が悪くて困るぜ。 何回魔王様に、止められれば気が済むんだ??」
うっそうと茂った、暗い針葉樹林の中で、二人のあちこちが破れた、みすぼらしい服装の男が、暗い森の向こう側を見つめる。
その向こうには、『魔王様』が住む、魔王城がある。
その場所ではある、集落の部族長が、魔王様に直談判をしているようだ。
「まったく、いい加減に自分たちの立場をわきまえろってんだ。 ひもじいのはテメーだけじゃ無えっての。」
「まあ、いいじゃねえか。 どうせまた、魔王様に止められるに決まっているさ。」
「・・・・だな。 あ~、腹減った!」
それだけ言って、彼は両手を大きく伸ばす。
「それを言うなよ。」と、もう一人の男が、伸びをした男をたしなめる。
彼らはそのまま後ろを振り向き、、森の奥へと消えて行った。
その二人には、背中に大きなこうもりのような翼があった。
よく見ると、頭の上には、小さなとがった、角のようなものが生えているのが見える。
この世界の者が見れば、一目で分かる。
彼らは、『魔族』だ。
好戦的で、野蛮で、人をゴミのようにしか見ない種族。
それがこの世界での、『魔族』に対するイメージである。
しかしそんな恐ろしい印象は、彼らからは、微塵も感じられなかった。
人間と魔族は、有史以来、争いを続けていた。
血で血を洗い流す、終わりの見えない戦い。
魔王という存在と、勇者という存在の、巡りめぐる戦い。
世界に『平和』の二文字はなく、その世界が終わるまで、永遠に戦いは続くかのように見えた。
だが400年前、先代の魔王は人間の世界へ、力だけで押し切るような戦法で、侵攻した。
これに人間側は、各国で同盟を結んで、死に物狂いで応戦した。
侵攻する魔王軍に、ゲリラ戦法で迎撃を敢行した人間の同盟軍。
そしてここにおいて歴史上初めて、『勇者』無しで人間側は、『魔族』に勝利を収めた。
この過程で魔王は、魔王軍の大半の者と共に、壮絶な討ち死にを遂げたと、歴史にある。
と言うか、現場にいたので、彼女は知っている。
これが、大昔に起きた最後の大戦の、大まかな概要である。
それはもう、地獄のような惨状であったと、記憶している。
その後、新たな『魔王』となった彼女は、少ない生き残った配下の魔族たちに、厳命した。
『無益な争いはここでヤメだ。 これからはこの魔属領だけで、共に暮らそうではないか』と。
大戦の惨劇を目の当たりにした生き残りの魔族たちは、こぞってこの意見に、賛同の意を示した。
彼らだって生き物。
死にたくなどは無かった。
以来400年間、『魔族』と『人間』の間に、争いらしい争いは、起こっていない。
そして彼らが住む、この森。
人族が、『魔の森』と恐れ、近づかない黒い森。
太陽は出ているものの、うっそうと茂った針葉樹の葉に光をさえぎられ、森の中は夜のように暗い。
そのまま進んで行くと、ボロッちい幽霊屋敷のような大きな洋館がある。
ところどころ外壁が剥がれ落ち、ツタが絡まり、クモの巣が張られているのが、多く見受けられる。
警護をしている者の姿もどこにも無く、傍から見れば、廃屋にしか見えないことだろう。
しかしここには、住んでいる者たちがいる。
体中から満ちみちる、莫大な魔力と威圧。
至上最強とまで謳われる、その内に秘めた強大な戦闘力。
優しくも厳しい、カリスマ性の高い女魔族。
そして400年間、魔族たちに戦いをヤメさせた張本人。
それが『魔王』その人である。
「魔王様、我々ゴブリンの領の者は、今や木の根をかじって飢えをしのいでいる状況でございます。 どうか、街へ下るご許可を・・・!!」
うす暗い室内。
腰巻きだけをしているような姿の緑色の魔物は、『魔王』と呼ばれる存在に対し、頭をたれていた。
その焦ったような口調から、彼が窮地に立たされているのは、一目瞭然である。
だが壇上のいすに腰掛けた、『魔王』と呼ばれた黒を基調とした、スカートと袖がふっくらと膨らんだドレスを身にまとった幼女は、その彼を、冷たい視線で見つめる。
「ゴリよ、前にも言ったはずであろう? 貴様たちだけで、人間の町へ向かってどうなる? せいぜい、冒険者どもの獲物にされるのが、関の山じゃ。」
「し、しかし・・・!!」
まだ話を続けようとするゴブリンに対し、幼女の隣に控えた執事風の黒い燕尾服姿の美老人が、一歩進み出る。
「ゴリマル=グラナガンよ。 気持ちが急くのは、分からないでもない。 だが、人間は力は弱いが、侮れない存在であり、そこへ赴くのは危険だと、魔王陛下は仰られているのだ。 何も苦しいのは貴様の部族だけではない。 ここは、こらえよ。」
「ぐうぅぅ・・・・・」
悔し涙を流し、床を何度も拳で打ち付ける、ゴブリンの部族長。
その光景に、俯く美老人。
『魔王』は、いすから立ち上がり、そんなゴブリンの前へ、進み出た。
そして彼の肩に手を置き、優しい口調で話しかける。
「ゴリよ、我々とて、毎日を生きて行くのですら苦しい。 だが、今は耐えようではないか。 いつか、きっと我がどうにかする!! それまで、どうか待ってはくれまいか?」
「うう・・・魔王様・・・・・・・・!!!」
そのゴブリンは、いつまでも、彼女の手の中で泣き続けた。
400年もの間、争いを拒んできた魔族たち。
土地柄、魔族領では、作物は育たない。
その関係で、彼らは生きるため、エルフと交易して食いつないでいた。
大戦前は、魔族の隷属下にあったが、いまは独立している。
その交易のためには『金』か何か、食物と交換ができる物資が必要だった。
だが魔族領には、現状で残されているものは何も無い。
彼らとの交易は、今や無いも同然だ。
魔族たちは、とても苦しい生活を、送っているようである・・・
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※2017/5/16 一部を改稿しました。