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ボーンドレイクとイケてない竜騎士  作者: たまごいため
4/8

食毒と町の解放。

 俺は丘の上に立つ。港町リュミエールから海まで一望できる、この町きっての景観が楽しめるポイントだ。小さいころはここでよく遊んだっけな。竜騎士ごっことか言ってな。ヘクターはいつも悪者役で、しばかれたりしてたが。そう言えば、お姫様役をやってたエミリーはどうしているだろうか?まさか病気の被害に遭ってるんじゃ…心配だ。

 ここから見る町はまだ美しい景観を保ったままだけど、実際は病魔の巣窟と化している。一刻も早く、この状況を打開したいのだが…ボーン・ドレイクは本当にここに来てくれるのか?


「ええ、間違いありません、カイン。彼は貴方の契約から発せられるシグナルを追ってここにやってくる筈です。」


 そうなのか。この胸に焼き付けられている契約の印が、そのまま灯台代わりになるという訳か。なるほど、どうやって会いに行くかなんてあまり考えなくても良かったわけだな。だが、しかし、そもそもそのボーン・ドレイクはどこからやってくるのだ?


「それは、私にも解りませんが…」


 メリーもそのことまでは聴いていないらしい。ただ、魔力の繋がりで何となく距離は掴めているのだとか。早く来てくれ。町の事が心配だ。そもそも、この町の様子、本当は魔族の仕業じゃ無いのか?奴らの残党がこの町に引きこもっていたとしても不思議じゃないぞ。





 …数時間が経過した。やっぱり、町に戻って病人の世話をした方が良いんじゃないか。俺がそう思い始めた時、


「き、来ました!彼の反応がすぐ近くまで来てます!」


 え?どこに?俺には何も見えないのだが。視界は相変わらずリュミエールの港町を映し出している。変わったと言えば日が傾き始めていることくらいだ。不意に、お腹が鳴った。そう言えばお昼ご飯食べてなかったわ…どこかで腹ごしらえがしたいなぁ…。


 ドドドドド!「うわぁ!」


 そんなことを思っていたら、地面が揺れた。いや、違うな、俺が一人だけ地面より高いところに浮き上がったんだ。これは…


「やあ、君がカインだね?解りやすい場所に止まっていてくれて有り難う。おかげで直ぐに見つけられたよ。」


 俺の足元からそんな声が聴こえる。頭に直接響いてくるような声だが、礼儀正しいな。


「お前が、ボーン・ドレイクか?」


「そう、僕はボーン・ドレイクのルキフグスだ。今後ともよろしく頼むよ、君はこの地上の友達第一号だ!」


 う、ん、そうか。俺が友達一号でいいなら、それもまたいいのだが、何しろ足元に居るからその姿が良く見えない。それにしても高い!5メートルくらいは軽く在りそうだ。俺の乗っているのは、ルキフグスの頭だろうか?


「すまん、面と向かって挨拶させてくれるか?」


「ああ、悪い悪い、今下ろすね。」


 …気さくだ。本当にアシュタロスの孫なのだろうか…。

 地上に下ろしてもらった俺は、しかし彼の姿を見て「やっぱりアシュタロスの孫で間違いない。」と思わざるを得なかった。何しろ、ルキフグスの姿は全身黒光りする深い紺色の、骨の竜だったのだから。

 一瞬、無意識に後退りそうになる。見た目が限りなく怖い。飛龍を見慣れている俺をしても、この異様はかなり怖い。そりゃ、人間からは怖がられるに決まっている。そういえばアシュタロスは他の魔物からも怖がられているなんて言ってたっけ。


「うんうん、僕の姿を見ても驚かない辺り、やっぱり君は僕の友達だね!僕は今凄く感動しているよ!地上に出ても本当に誰も話しかけてくれなくてさぁ。社会勉強とか言って送り出されたけど、もしかして社会の冷たさだけを勉強する話だったのかと、本当に疑い始めていたんだ。」


 ルキフグスは饒舌に語りだした。中々につらい日々を送っていたようで、孤独に耐えかねる、という様子だ。


「話の途中に悪い、ルキフグス、今、俺の故郷の村が大変なことになってて…それをどうにかした後に積もる話を聴かせてもらってもいいか?」


 恐る恐る、俺は提案してみる。これでいきなり切れられたりしたらこいつを止めることができる自信は無い。


「うん?ああ、あの町だね。大分、瘴気に汚染されているようだ。どこから湧いたんだろうねぇ?いいよ、僕が何とかしてあげよう。友達第一号の故郷となれば、助け無い訳にはいかない。」


「ほ、本当か?しかし、今町の中は疫病で溢れているんだ。近づけるかどうかも解らないんだが。」


「大丈夫、僕が全部食べてあげるよ。」


 え、食べ?


「そ、それは住人ごと食べるとか…?」


 俺はまたも恐る恐る尋ねる。うちの両親を食われてしまっては、元も子もない。


「あはは、まさか。僕は肉を食べたってそれを消化する身体が無いよ。僕は、瘴気を主食にするのさ。食毒っていうのかな。」


 表情は全く読み取れないが、なんだか笑った様子だ。機嫌はいいのだろう。よかった、これなら町を救えるかもしれないぞ!だが、問題がもう一つある。


「ただ、ルキフグス、その格好で町に入るのはかなり無理があるぞ。町に近づかずに、どうにかできないか?」


 骨の竜が現れたら、まあ間違いなく町は混乱するし、詰所の衛兵は飛び出してくるだろう。


「うーん、流石に近くまで寄らないと、瘴気を抽出することは出来ないかな…。」


 それはそうだろうな。仕方がない、俺と一緒に着いて来てもらうほかない。一応俺も竜騎士だったわけだし、衛兵にはそれなりに顔も通っている。俺のパートナー、という事で押し通るのはどうだろう。


「じゃあ、ルキフグス、俺はこの前まで竜騎士をしていたから、お前はそのパートナーの竜だ、という事で何とか押し通ろうと思う。それでいいか。」


「是非も無いね!」


 よし、そうと決まれば後は町に向かうだけだ。


「じゃあさ、せっかくパートナーだ、あだ名で呼んでくれよ!そういうの、憧れだったんだよ!僕の名前は長いから、ルー、でどうだろう?」


 友達が居なかっただけに、そういう近しい間柄の象徴、みたいのに憧れがあるのかもしれないな。俺としても、あだ名で呼ぶくらいお安い御用だ。


「ああ、良いぜ、ルー、よろしくな。」


 そう返事をすると、恐らく嬉しかったのだろう、何か唸り声のようなものを上げていた。ルーの表情が読み取れるようになるには、かなり時間がかかりそうだ。






 町の門を抜けると、予想通り詰所から兵士たちが飛び出してくる。先ずは凶悪な姿をしたルキフグスの姿に目を丸くし、後退る。その直後、ルキフグスの前を歩く俺の姿を見て、遠巻きに声をかけてくる。


「と、止まって下さい!カ、カイン殿!そちらの…ええと、骨の魔獣は?」


「ああ、俺の今のパートナーである竜のルキフグスだ。」


 それを聴いてルキフグスが首を持ち上げる。


「竜…カイン殿がその手綱を握っているという事で、間違いないのですな?」


「うん、間違いない。ルー、挨拶をしてやってくれ。」


 そう言うと、ルキフグスは兵士たちの前で立ち上がり、一礼する。何だか様になっているな。


「わかった。人間の皆さん、こんにちは、私はボーン・ドレイクのルキフグスです。カインとは、友達です。」


 ルキフグスの放つ音声に、一斉に兵士たちがたじろいだ。いかにカインが元竜騎士とはいえ、いくら何でも言葉を発する竜を手なずけたなんて前代未聞。言葉を発することのできる高位の竜達は、人間よりも高い知性を持っていてプライドも高く、普通であれば決して懐くことなどない。それが、カインの後ろで挨拶をしているのだから、驚かない訳がない。しかも、その姿があれだ。


「実は、カインからこの町の瘴気を全て浄化するように頼まれたのです。出来れば、今病気に侵されている人たちの所まで行きたいのですが、どうでしょうか?」


 ルキフグスの提案は、町の住人たちにとっては有り難いものだが、色々な判断を迫られるものでもある。先ず、竜を町の中に入れてしまっていいものか。それから、この竜が病気の治療が可能なのか。治療に何か見返りが必要ではないのか。

 詰所の兵士も色々逡巡しているみたいだな。取りあえず、俺がフォローを入れることにしよう。


「みんなの混乱も良くわかる。ここで起こったことの責任は全て俺にあるから、一度任せてくれないか?」


「し、しかし…」


尚も思案を巡らす兵士。早く判断をしてくれ、あまり時間はないんだ!


「時間が無い、病人が死ぬか生きるかの判断だぞ!亡くなってからでは遅いんだ!」


 俺は割と必死だ。自分の両親を助けられるかもしれないのに、それを指をくわえてみている状況には流石に耐えられない。


「わ、解りました。町長には直ぐに報告して参ります。今は仮に町への入場を許可します。」


 ギリギリまで譲歩してくれた兵士。有り難い。


「有り難う、恩に着るよ。」


 俺は感謝を述べると、ルキフグスとともに野戦病院さながらの町の病院を目指した。







「うん、この位近づけば、大丈夫。」


 ルキフグスは病院のエントランスで立ち止まった。どうやってこの巨体を中に入れるのか考えていたところだったので、俺は少し安心する。


「窓とか、開けた方がいいのか?」


「ん、そうだね、その方が早く作業が進むと思うよ。」


「カイン!…うわっ!」


 ヘクターがこちらに駆け寄ってくるが、ルキフグスの姿を見て硬直する。そりゃそうだ。俺だってアシュタロスと会ったことがあるから何とかたじろがずに済んだけど、普通にルキフグスの姿を目の当たりにしたら腰をぬかすだろう。


「ヘクター、こいつはルキフグス、この病院の瘴気を散らしてくれる仲間だ。」


 俺はヘクターに説明すると、何とかこっちの言葉に反応が出来たのか、ゆっくりと頷く。視線はルキフグスに突き刺さったままだが。まあそのうち慣れるだろ。

 俺は、急いでヘクターとともに、病院の窓を全開にしていく。病院の関係者は何事かとこちらに小走りに近づいてくるが、今は説明している時間が惜しい。

 2階建ての建物の廊下を全て開け放つと、ルーに指示を飛ばす。


「全部OKだ、ルー、やってくれ!」


「了解、彷徨える我が眷属よ、集え、我の下に。」


 ルキフグスが唱えると、青白い閃光がその身体を取り巻く。同時に、病院のあらゆる場所から、瘴気の黄土色の気体が溢れ出してきた。


「こ、これが瘴気。」


 あまり良いものだとは思っていなかったが、実態を目にするとその不気味さはさらに際立つ。思わず身体に鳥肌が浮かぶ。

 黄土色の気体はドンドンとルキフグスの周囲に集まり、その周囲に巨大な渦を創り出していく。やがて、病院内や近隣から湧き出る瘴気が途絶え、すべてルキフグスの周囲に集まったことを確認すると、彼は徐に口を開いた。

 骸骨の顎が開いた空間に、青白い光が満ちている。そして、その場所めがけ瘴気の渦が流れ込んでいく。

静かに、音もなく、しかし黄土色と青の気体が混じり合って閃光を放つ。

 ま、眩しい!これが食毒、毒を食べるってことなのか?


 やがて、ゆっくりと光が落ち着いていき、あたりは心なしか静謐な空気に満たされている。終わったのか?


「カイン、終わったよ、この病院周辺の瘴気はあらかた食べ終えた。中々に美味だね。」


「び、美味。そうか、それは、良かったな…。」


 なんて反応したらいいのか良くわからないな。そうだ、ともかく病人たちの様子を確認しないと。しかしルーをこのままにしておくことも出来ないし…


「ヘクター、すまないが病人たちの様子を見てきてくれないか、俺は流石にルキフグスの横を長い時間離れられない。」


「わかった!急いで行ってくるから待っててくれ!」


 俺は病院のエントランスから外へ。ヘクターはその辺りに居る病人や両親の様子を確かめに奥へと入っていった。エントランスホールで雑魚寝させられていた病人たちの顔色が見違えて良くなっているのが解る。午前中にうめき声を上げていた連中が、自分の手や身体を驚いたように見つめているのが印象的だ。


 俺が外でルキフグスと待っていると、病院の院長がヘクターに連れられてやって来た。院長は俺たちの方を向くと、深々とお辞儀をする。


「この病院の院長をしております、アトリーと申します。この度は町の危機を救って頂いて、感謝の言葉もありません。何分、私どもの知りえる病気でも非常に達の悪い伝染病だったので。」


 これを聴くに、患者の病状は軒並み安定したと思ってよさそうだな。急いだ甲斐があった。


「いえ、俺は何も。むしろこの横に居る竜のルキフグスが全て解決してくれたんです。」


「おお、そうでしたか。竜殿にも改めて御礼申し上げます。」


 アトリーは若干頬を引きつらせていたが、頭を下げて御礼を述べる。この威圧感に対して、良く頑張った。偉いぞ院長。


「いえいえ、私は元々病気や毒を食べて生きている身ですから、こういったことはお安い御用ですよ。」


 ルキフグスは事もなげにそう言った。何とも不思議な性質だな、と俺は思う。それは院長も同じだったようで、


「毒を食べる、とはまた。初めて聴きますな。私も医療に従事する身でありながら不勉強を恥じ入るばかりです。」


 いやいや、多分この世でもそう居ないと思うぜ、食毒。院長の勉強不足ではないと思うよ。

 俺たちが話をしていると、そこに町長の馬車が到着した。


「カイン殿!幾ら元竜騎士とは言えこの町の中で竜を連れ歩くなど…。」


 お堅いことを言おうとした町長がルキフグスを見てフリーズする。このリアクションは最早デフォルトらしいな。院長も居ることだし、顛末を説明するとしよう。ルーの滞在も認めてもらえると良いな。






 その後、村はずれなどに残っていた病人たちの家々を回り、すべての浄化を終えたところで町長の屋敷に呼ばれ、改めてお偉方に説明をすることになった。


「なるほど。それは、ご苦労をおかけしましたな。町長として、改めて御礼を言わせてください。」


 頭を下げる町長に俺は少し慌ててしまう。


「いえいえ、私はただルキフグスを急いで連れてきただけで、他には何もしておりません。どうぞお顔を上げてください。」


 そう俺に言われて顔を上げた町長。


「それで、我々町としても出来る範囲で何かしらの御礼がしたいのですが、如何でしょうかな?」


 うーん、御礼か。なにも考えていなかったな…取りあえず両親が無事でホッとしているというのが今の心境だし、何か欲しいものがあるわけでも無いんだよな。文無しだけどさ。


「でしたら、ルキフグスの滞在許可だけいただけませんでしょうか。」


 俺は取りあえずそのことだけ聞いてみる。


「それはもちろんです。ルキフグス殿は町を救ってくださった恩人。それを追い出すなどと言うようなことは絶対に致しませぬ。滞在許可は当然のことで、むしろ、それは御礼には当たらないのではないですか?」


「そう、ですかね。ううん、私としてもあまり考えが及んでおりませんでしたので、そのことについては町の皆さんのご判断にお任せしてもよろしいでしょうか?」


「それで良いのでしたら、そのように取り計らい致します。」


 有難うございます、とお礼を述べ、町長の館を辞する。ルーは今実家の庭先でくつろいでいる。何というか、面白い光景だな。取りあえず一件落着だろうか。

 いや、しかし病気の原因は何だったのだろう?また改めて町長と話をする必要があるかも知れないな。原因が解らなければ、結局同じことの繰り返しだし、治療法も確立していないしなぁ。ともあれ、今日は実家でゆっくりしていこう。




いつも有難うございます。

イメージが膨らんだ時に書くようにしています。

寝る前に思いついたりするんですが、

気付くと寝ていて収穫無し、なんてことが増えてきました…

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