探偵破守太郎
◇◇◇◇◇
「犯人は……この中にいる!」
探偵の破守太郎さんの声が、館中に響き渡った。俺とジャスティス、それにブラックスターは互いに顔を見合わせる。
だってそうだろ?
まさか、信じたくはない。この中に犯人がいるなんて、なんの冗談だと思いたい。
「お、おいおい探偵さん、そりゃあないってもんだぜ」ジャスティスがひきつった笑みを浮かべながら。「この中にいるだって? まさかそんな、とんだ笑い話だ」
しかし誰も、俺も、笑うことはできなかった。探偵の破守太郎さんの事件解決率は、100パーセントで有名だ。いつもどんな事件だって、彼にかかれば答えのある問題集のように当たり前に解かれる。どんな強固な犯人の守りも、彼の前では等しく意味がない。
俺も……まさか、犯人は本当にこの中にいるんじゃないかと思ってきた。あまりの驚きに心の臓がバクバク高鳴ってきやがった。
リズム正しい音は、目の前にある柱時計だけ。短針も長針も、決められた通りに動いてる。
「もう1度言いましょうかね。犯人は……この中にいる!」
◇◇◇◇◇
結局、探偵破守太郎さんの言う通り。犯人はあの中にいた。
俺はジャスティスと、今はいないブラックスターを除いてコーヒをすすっている。
「結局、見つかって良かったな。婆ちゃんの形見だったんだろ? あの金の入れ歯」
俺はなんて事ないように言った。そうでもしないと、入れ歯が盗まれるなんて……確かに笑い話だ。
だが、大事のものは人それぞれ。ジャスティスにとって金の入れ歯は、とても大切なものだったらしいから、俺は笑えない。
良かった良かったと、未だに涙を流して喜んでいるジャスティスの肩を、ただ叩いてやる。
「でもまさか、犯人が本当にあの中にいたとはなぁ……ジャスティス、お前分かっていたか?」
「全然だ。まーったく、これっぽっちも気づかなかった。
裏切られた気分だぜ」
ああ、俺もだよ。
まさか犯人が、柱時計の中にいたなんてな。
「あれも婆ちゃんの形見だったんだよ、あの柱時計は。なのによぉ、犯人を隠して自分は知らんぷり。律儀に針をうごしてるもんだから頭来て、鐘を取り外しちまった」
うんうん、婆ちゃんのの形見が犯人を隠してた。そりゃあ裏切られた気分にもなるさ。
いやー、それにしても探偵破守太郎さんは偉大だ。尊敬する人物第一号、ってな。
「ああところで、ブラックスターの奴はまだ風邪が治らねえのかな?」
「さあな。熱はあるようだったけどよ」
「ふーん」