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アイン殿下の呟き・1

「…………ん?」

ふと視界に入った明かりに足を止める。

夜半の巡回は何時もと大して変わりない――――と思っていたところに不自然な人工の明るさが。一瞬だけちょっと強く輝いた閃光に何となく嫌な予感を感じた。

どう考えても―――あれ、ヒルダの部屋では……。



一応何の弁明でもないが言っておく。

別にヒルダの部屋に用がある訳ではない。

この騎士団の連中が女性に対する愚かな行動をするとは考えていないが、何処かの馬鹿がいつ紛れ込んで阿呆なことをするのか分からないので、ヒルダが入隊した後こっそりヒルダの部屋の近くが巡回ルートに加えられたのだ。当然ヒルダは知らない。後、ヒルダと一緒に入隊したエレン辺りも知らないだろう。

……ところで俺は一体誰に弁明しているのだろうか……。



まぁそれはいいとして。

「何でこんな時間に…………嫌な予感しかしないんだが……」

何となく。

何となく過去の自分達を思い出してしまった。









この騎士団はその『特殊性』もあり、配属された人間は1度は必ず通る道がある。



曰く、隊員のレベルの高さに『堕ちる』。



騎士団に所属する奴等は普段かなりふざけた連中であることは間違いない。お祭り騒ぎが根っから好きなのもそうだし、万年騒がしいことこの上ない。

たが、実は端からそう見えるようにしている部分も多いのだ。それを見えないようにやってのけるということは、それだけの腕を持っているということ。

そしてそれに自分が気づくのは大概配属された後なのだ。



あるものはその判断力に。

あるものはその強靭さに。

あるものはその規格外に。



そしてこの騎士団に配属された者はどういう経緯を辿ろうと何故か同じ結論に辿り着く―――己の力をどう補おうか、と。



俺も(最早黒歴史だが)入隊した当初似たような境遇に陥った(……が、ケイン曰く「お前のソレはそんな可愛らしいもんじゃなかっただろーが!!」とか。失敬な。あいつだけには言われたくない)ものだが、どうもあの様子だとヒルダは一番大人しくて、一番頑固な手段に陥ったな。


また視界の端で、ぱちん、と一瞬の閃光が走る。決まりだ。これは完全に自主練習の類いだ。

この魔力の使い方は間違いなくヒルダが先日躓いていた使い方だし。



……これは暫く様子見コースだ……。



思わずため息が零れたのは許してほしい。

本人のやる気はいたく称賛する。

が。

あの感じだと恐らくここ数日の自主練の限りでは無さそうだし、あのままではきっと簡単に容量範囲外(キャパオーバー)するだろう。

そういえばエレンも似たような感じだと今朝ケインがぼやいていたな。エレンもヒルダも経験値の低さから想定できないくらい上手く隠してはいるが、やはりそこは先手を行く先輩騎士(おれたち)を誤魔化すには甘い。



決して弱くはないが―――正直厳しいと謂わざるを得ないヒルダの魔力制御。




『―――あ』

『ストップ、そのままだとダメだ。もう少しゆっくり……そう』

『はい……すみません』




多分焦りもあるのだろう。突然 相棒(パートナー)に指名されたこともそのひとつ。

その一点に関しては申し訳ないと思う。

弱々しい安定しない光を見ながら哀しげに揺れる瞳。

でも甘やかしてはやれない。

本人がそれを望まないことを知っているし―――何よりそのままだと駄目なのだ。



気高い侯爵令嬢。

それがヒルガディア・マクベスという存在で。



彼女の社交性を利用していることは充分理解している。

婚約破棄の修羅場を演じた矢先にいきなり縁も所縁もない騎士団などに引きずり込まれた悲運の少女。




それでも。

どうしても期待してしまうのだ。

彼女なら、と。






『――畏れながら、陛下』





真っ直ぐに射抜かれた視線。不躾ではなく、あれは貴族の矜持を誇る瞳。一体今の貴族に彼女と同じくらいの誇りを持つ者がどれ程居ただろう。

凛と響くこえに声に、ああ、いけない――そう強く思った。


この誇りを汚すな。


この強さを喪うな。



彼女はもっと『立てるはず』。いや、立たなければ『いけない』。





ハルが内心どう思っていたのかは読めないが、あいつも多分俺と似たことを感じたのだろう。

だから引き込んだ。騎士団に。

それが必然だと思ったから。





そう、彼女が努力して前を向いて進むこと―――それは望んでいたこと、のはずだった。





『アイン』






実際侯爵令嬢に対して身内の不肖を陳謝するべきで、またヒルダの先輩としてその背を支えてやるべきで。

彼女から向けられる瞳に、寄せられる信頼に、どうしてだろう―――それだけでは足りないと、何処かで思うなんて。



「…………」



俺も、まだまだ精進が足りないな。




無意識に視線を向けてしまう窓からは、まだまだ淡い光が落ちるには遠いだろう。



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