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がんばれエレンくん!・1

『我、纏う。紡ぎしは水なり―――被膜』



開かれた掌にとぷんとした水の感触を感じる。これは小手調べ。だから余分な魔力は放出されない。











僕は平民産まれだけれど何故か『魔力持ち』だった。



まぁ別にそれ自体は実は珍しくはない。平民上がりが多い軍部や身分問わず門戸を拓かれる魔導部などにはけっこう居るのだ。

僕は下町の食堂で育った三男だった。

決して料理が嫌いとかではなかったが、元々勉学が嫌いではなかったし、運良く推薦を貰えたので王宮での勤めに応募したのだ。

流石に三人も家にいては邪魔になる。しかも長兄は間もなく結婚を考えている状態。

僕は僕なりに自活をするべきだと思っていたのだ。だから正直僕にとってこの話は渡りに舟だった。1年半勤め上げた頃には、漠然と多分僕は行く行くは魔導部に転属されると思っていた。

だってそうでしょう?

御世辞にも僕は闘いに適した身体などしていないし(いや、流石にヒョロイとまでは無いですよ!?)、魔力持ちのなかでも水と風の2属性を得意とするものは多くないと聞く。

ならばそうなると思うでしょう?




―――蓋を開けてみたら何故か騎士団への転属を言い渡されたけれど。





いや、正直云うと考えもしていなかった。





流石にこんなにあからさまな平民を移動させるなど想定するはずもない。しかも現在の王立騎士団には畏れ多くも第一王子・第二王子がそろって所属されている。


え、なんで?


そう思った僕は間違いないはずだ。







結論から言うと『王立騎士団』は僕が思っていたものとはちょっと……いや、かなり想定外だらけだった。






まず身分の垣根が無い。

軍部だって身分の垣根が結構低いと思っていたが、まさか『殆ど無い』など誰が想像できようか。

どうして王子様と平民が何でもなくつるんでいるのだ。

そして『愛称呼び』が義務。敬称も不可。

何で。

だからアイオーディン殿下も騎士団では『アイン』だし、ハイヴァルク殿下も『ハル』。

畏れ多すぎる。


だけど騎士団(ここ)の人間は当然のようにそれを受け入れていた。



僕はそれを受け入れるだけで3ヶ月くらい必要だった……。

ちなみにどうしても『さん』呼びが抜けられなかった僕は結局皆に笑われながら『さん呼びオッケー』という許可を貰ったのだ。










『――――砕破』




「ふごぉっ!?」




ばちゃん、と水飛沫を上げたのはケインさんの頭の上。全く、何時まで経ってもこんな状態なんですか貴方は。

「エレーン!!お前もうちょいなんとかならんのか!?」

「五月蝿いですケインさん。その後始末お願いしますね」

「ちょ、これお前がやったんじゃね!?」

「その原因は貴方でしょうが。全く……どうして僕が貴方のパートナーなんですか」

「わーったよ、ったく」


ぶちぶちと呟きながらもキチンと片付けるケインさん。

本当にどうしようもない人だけど。





――――『エレン、ケインのことを……』





それだけじゃない。

まぁそれも一因かもしれないけど、それだけじゃない。



「ほれ、エレン」

「は?」

「次、やるんだろ?次は付き合ってやるよ」

「……どうも」



本当にどうしようもない人だけど、この人が騎士団として認められていることを今は知っているから。




「仕方ないから付き合いますよ、ケインさん」

「は?いや、俺がお前の訓練に付き合うんだよな?」

「そっちのことじゃないので」

「はぁ?」





解せないという顔をしながらも歩き出すケインさん。

そう、知らなくていい。ケインさんは知らなくていい。


これはひとつの『約束』でもあるから。



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