抑圧
荘太郎の両親が亡くなったのは彼が中学2年の3月だった。交通事故で2人とも逝ってしまったのだ。荘太郎はひとりぼっちになってしまった。一番近くに住んでいる親戚が引き取ってくれたのだが、他県であった。だから、荘太郎は3年生になる前に転校することになってしまったのだ。
このことは花純は知っていた。先生から説明があったのだ。しかし、運が悪かったのか良かったのか、生徒数が少ない花純が通っていた中学が近接校と合併する年だった。母校は廃校となり、少し遠くなった新しい校舎、知らない同級生との生活が彼女の中の彼の思い出を忘れさせてしまった。
その時の花純は残念だと思ったが、きっと自分みたいに彼も引き取ってくれた親戚に優しくしてもらっているのだろうと思っていた。
しかし実際は違っていた。中学生、そしてこれから高校生になる子供にかかるお金はものすごく高い。引き取った親戚の家には大学生になる息子がいたため、荘太郎は邪魔でしかなかった。虐待はされなかったものの、空気のように扱われていた。荘太郎はひとりぼっちのままであった。その頃から少しずつ人格が変わり始めた。学校では明るくいよう、そう思い出したのだ。それは決して良いことではなく、帰る家で味わう想いを押し殺すためだった。そして、1日の大半を『どうやって死のう』と考えるようになった。
「着いたよ」
数十分後、目的地である孤児院に着いた。
「ありがとう」
「……死ぬってこと伝えてくるの?」
「まさか」
伝えたくない。本気で花純はそう思っていた。心配をかけたくないという彼女の気持ちを荘太郎はどこか羨ましく思えた。
「じゃあ行ってくるね」
院長の顔をもう二度と見れないかもしれない。孤児院の子どもたちに二度と会えないかもしれない。胸が張り裂けそうだった。それを決して悟らせず、彼女は孤児院を出た。
外に出ると、荘太郎が待っていてくれた。
「ごめんね……帰ってればよかったかな」
荘太郎は微笑んでいたが、どこか悲しい様子であった。そんなことない、と花純が言うと、悲しげな顔は引っ込んだ。
「松林君。最後にもう一つお願いしていいかな」
「私たちが通ってた中学に行きたい」




