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ゴッド・イーター ‐神喰者‐  作者: 春夏冬
一章 ‐呪われた左腕‐
2/2

一  祓神師

誤字脱字があれば、報告お願いします。

アドバイスなどもよろしくお願いします。

 そこは、全てが赤く染まった世界。

 辺りを見回しても、生命は感じられない。

 足下をみると、そこには少女がうつ伏せで倒れていた。その姿は、夏虹耶に似ていた。

「……夏虹耶?」

 問いかけに返事はない。

 その少女の顔を確認すると、それは夏虹耶だった。

 上を見上げると、そこには黒い巨大な影があった。

 記憶にある影、それは恐怖の記憶。

「……うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 俺は、そいつに襲われた。


 ――――翌朝。

 その日の朝は、快晴だった。

 朱音は、黒の学ラン。夏虹耶は、紺のスカート裾の長い制服を着ていた。

 夏虹耶の腕は、昨日の治療の甲斐もあって完全に治っていた。

「兄様。大丈夫ですか?」

 そう聞くのは夏虹耶だった。悪夢にうなされていた兄を心配する。

「ああ。問題ない」

 兄の朱音は、そっけなく答える。

 今2人が向かっているのは、もちろん普通の学校ではない。

 祓神師の育成を目的とした日本唯一の学校。『神武しんぶ学園』。都内の某所に存在するその学園は、毎年多数の祓神師ふつがみしを輩出している。

 

 祓神師とは、神界から蘇らされた神々を神界へ祓う一種の職業である。

 神界に存在するはずの神々が、神式という人界への物理的接合によってできるホールから人界に来る事で起こる災害『神災しんさい』を未然に防ぐ役割を果たしている。

 一度神災が起きると、最悪の場合。人類が滅亡する事も考えられている。

 神を祓うには、その神式を崩す必要がある。そのためには、神式と神の接合を切るか神を倒すしか方法が無い。

 祓神師になるには呪力を持つことが条件だが、呪力を持つのは、そのほとんどに遺伝が関連している。

 一切血縁に呪力を持つ者が居なくても呪力を持つ者が稀に存在するが、ほとんどが気付かれずに見逃してしまう場合が多い。

 祓神師を独学で学ぶ者もいるが、現役の祓神師のほとんどがこの学園の出身である。

 そう、そして……

「どうしたの? そんなに疲れた顔しちゃって」

 昨日後から来た黒髪少女も、この学校の生徒である。

 龍ヶ峰 真帆。それが、黒髪の少女の名前だ。

「疲れるに決まってるだろ、かなりハードな戦闘だったんだ。お前は何もしてないからそんな事が言えるんだ」

 朱音は、声を張り上げて言った。通学路の大通りでの怒鳴り声は、周りに響き渡り、通勤、通学中の人々の注目を集めた。

「兄様、早く行かないと遅刻しちゃいますよ」

 夏虹耶が兄をかばうようにそう言うと、三人は走りだした。


 神武学園に着き教室に入ると、夏虹耶と朱音は早速昨日の戦闘に着いて聞かれていた。

「今日、八岐大蛇ヤマタノオロチを倒したんだって?」

 そう聞いてきたのは、ヘッドホンを首にかけ、制服を着崩した少年だった。

 菅野 来斗。クラスの中でも優秀な祓神師である。しかし、その態度から教師からもあまり気に入られてはいない。

「ああ。夏虹耶が怪我しちまったんだよ。それに、簡易蘇生された奴だったからな」

「そうか、じゃあ本体はまだ討伐されて無いんだな」

 来斗は、自分が倒すと言わんばかりの顔をした。

「残念だが、本体が人界じんかいに現れるとは限らないんだぞ」

「そうは言ってもよ、大体人界に簡易蘇生されたやつなら、ほとんど完全蘇生されるじゃねーか」

「まあ、そりゃそうだが……」

 その時、教室のドアが開いた。

 この学校の教室は、段々の講義室のようになっていて席数は50あるが、そのうち使われているのは40程度で、後ろにはまだ空きがある。

 朱音は、4段目の真ん中にある自分の席に座る。両サイドは、夏虹耶と真帆だった。

 教室に入って来たのは、藍色の髪の女性だった。

「席に着けー」

 伊集院 舞子。朱音達の担任である。かなりの美人だが、そのドジさ加減は半端無いものだ。

 カッコつけて「席に着けー」などと言ってみるが、もうすでに全員席に着いていた。その事象を引き起こすために、生徒も少しばかり加担しているのだ。

「――――そ、それでは、授業を始めましゅっ!」

 その時、全員が「噛んだっ!」とおそらく笑いかけそうになっていた。


 ――――数時間後。


 朱音達のクラスの授業は、三時間目に入ろうとしていた。

 授業を行う場所は、学園の地下にある広い講堂だ。奥には、祭壇が高い所に置かれ、荘厳な空気に包まれるていた。生徒は、黒い祓神師の正装を着ている。

 その講堂にいた教師は、左目に傷が入っている強面こわもての男だった。

 神楽坂 真。数々の神を祓ってきた優秀な祓神師である。目に怪我を負った事を期に祓神師を引退し、現在は教育に尽力を挙げている。

「今日は、2クラス合同の模擬実戦訓練を行う。相手は、鬼だ。心して授業に取り組め!」

 鬼は、神の中でも恐れられる部類に入っている。

 その怪力や呪力の強さ、異人神であるが、知能が高いのも恐れられる理由だ。妖怪のひとつに入ることもあるが、れっきとした神である。


 説明が終わると、生徒80人が講堂内に散らばりストレッチなどを行っていた。

「鬼か……模擬実践しかやった事のない奴には厳しいだろうな」

 朱音は、開脚をしながらいつもの3人に話しかける。

「おっ! 早くも先輩風吹かせてんな」

 来斗があざ笑うように言った。

「まあ……事実だとは思うけど」

 真帆は、朱音の意見に同意する。しかし、朱音の目は、その右腕の赤い腕章にいっていた。

 それは、その戦闘での全統率者リーダーを示す目印である。

「お前、いつリーダーになったんだ?」

「えっ!? ――――そ、それは……」

 真帆は手をバタバタさせ、慌てていた。

「…………ッ」

 朱音は、口を尖らせ、真帆を睨みつけている。

「――――頑張ってよ。真帆ちゃんなら出来るって!」

 来斗は、なんの根拠もない励ましの言葉を掛けた。それには、その場の雰囲気を紛らわすためという意図もあった。

「うん……ありがとう……」

 真帆は、俯きながら囁くように答える。朱音とは、一切目を合わせようとしなかった。


 数分後、生徒は講堂の中央に集められ、その先頭には真帆が立っていた。

 真帆は息を深く吸い込み、口を開いた。

「――――今回の作戦は、鬼を360度全方向から囲んで攻撃を行う包囲攻撃を使用したいと思います」

 その発表がされると、生徒達はざわついた。

 包囲攻撃は、基本的な戦闘法であるため。それを高度な知能を持つ鬼に使う事は、邪法と言っても過言ではないのだ。

「どういう意図があって、その戦闘法を選んだのでしょうか?」

 女子生徒の一人がそう言ったのは、作戦発表後30秒のことだった。それは、その場にいた生徒全員が質問したい事であった。

「今回の敵は、高度な知性を持つ『鬼』です。小手先の作戦程度では、簡単に対応してくるでしょう。なら、隙の無い無難な攻撃法の方が良いと判断したまでです」

 真帆は、そう言いきった。

 騒がしくなっていた生徒達も、大人しくなっていた。

「良いですよね?」

 真帆は、祭壇の前に座る神楽坂に聞く。神楽坂は何も言わず、静かに頷いた。

「――――それでは、位置に着いてください」

 生徒達は、講堂を囲むように位置に着いた。

「よし、準備はいいか?」

「はいっ!」

 生徒達の返事が、講堂内に響く。

「今回は、人型以外の式神の使用を禁止する。――――それでは、戦闘を開始する」

 神楽坂は祭壇の方を向き、呪術を唱え始める。

 それは、神を簡易蘇生させる呪術だった。すると、講堂の中央に怪しく光る陣が現れる。

 この陣が、簡易神式である。しかし、神式を人工的に作るのは違法であるが、模擬実践の時にのみ、この学園では神式の展開が許されているのだ。

 陣から、紫に怪しく光る霧が噴き出してくる。それは、紫光の粒を生み出して個体を形成していった。それはいつしか、巨大な人型に形成され、しばらくすると実態が姿を現した。

 筋肉の多く付いた太く迫力のある腕や脚。鬼の象徴である鋭い二本の角が現れると、生徒の心に恐怖の二文字が浮かぶ。

 

「グアアアアアァァァァァ!!!」

 鬼は、絶叫した。

 生徒達の体を空気の振動が襲う。朱音達は、威圧されていた。

「さあ、お出ましだぜ!」

 来斗の声は、気持ちが高揚しているのがすぐ分かる。

「――――全員。戦闘開始!」

 真帆の一言で、生徒全員が攻撃を始める。

 自然の力を呼び起こす呪術を使う者や、弓や剣を強化して戦う者、言い出したらきりが無いくらいの、無数の攻撃が鬼に向かって行く。

 鬼は、苦痛の声をあげているが、反撃してこない。

 いつしか鬼は、抵抗を止め、体を丸めて防御態勢に入っていた。

「……ッ!」

 朱音には、その異常な行動の意味が分からなかった。

(鬼は高知能を持っているのに、これだけの攻撃を受けて防御態勢にしか入らないなど、ありえない……)

 しかし、その異変に気付く者は周りに全くいないようだ。

 朱音は、真帆に向かって叫んだ。

「真帆っ! すぐに攻撃を中止しろ! 何かがおかしい!」

「……ょぅぶ……ぉぁ……」

 呪術や武器の激突音が鳴り響く講堂で、その声はかなりかき消されているが、一部の言葉だけ聞き取ることが出来た。


『大丈夫! このまま押し切れる!』と……。

 

 その時だった。

「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 呪術の直撃する爆音を通り越し、生徒達の体を凄まじい空気振動と呪力の波動が襲う。

 生徒達は、耐久姿勢を取らなければ、その場に居られない状態となっていた。

 防御態勢をとっていた鬼は、ゆっくりと起き上がる。

 目は真紅に光り、角はさっきの3倍以上あり、腕の太さもひと回り大きくなっていた。

 鬼は、神式を完全に開いた。それは、生徒達に『死』を実感させた。


「……全員、逃げろ……」

 朱音は、怯えた声で囁いた。それは、沈黙の起こった講堂の中に木霊こだます。

 しかし、恐怖によって、誰ひとりピクリとも動かない。

 朱音は、大きく息を吸い込み、声を張り上げた。

「全ぇ員っ! 逃げろおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 その声に目を覚まされたかの様に、生徒全員が出口に向かって流れ込んだ。

 しかし、一気に流れ込んだ約80人の生徒を通せる訳もなく、渋滞が起こってしまった。

 鬼は、その集団にゆっくり歩みを進める。

 出入り口の真反対に居た朱音達は、出遅れてしまった。

「早く行けよ! 早くしてく――――ッ!」

 集団の中一番外にいた男は、振り返った瞬間。恐怖に腰を抜かした。

 

 鬼が、拳を振りかざしていたのだ。


「あ……ああ……」

 男子生徒は、青ざめ、声はかすれていた。

 次の瞬間。拳は振り下ろされた。

 男子生徒は目を閉じ、最後の瞬間を待つ。

 凄まじい衝撃が起こり、男子生徒は……………………………生きていた。

 目の前にいたのは、素手で鬼の拳を支える男子生徒。朱音だった。

 朱音の手と、鬼の拳の間には呪力によって造られた壁が存在していた。呪力壁じゅりょくへきというそれは、壁に作用する力学的な力を軽減する効果を持っている呪術のひとつである。

 しかし、いくら威力を軽減しているとは言えど、朱音の腕は震えていて、限界に達している事は一目瞭然であった。

「早く……逃げろ……」

 振り絞るような声でそう言うと、男子生徒はすぐに講堂から出て行った。

 講堂に残っていたのは、朱音、夏虹耶、真帆、来斗と神楽坂だけであった。

「……夏虹耶頼む!」

 その言葉の前に、夏虹耶は飛びあがっていた。日本刀『神威』を構え、鬼に向かい進んで行く。

「はあぁっ!」

 夏虹耶は、鬼へ向かい刀を振り下ろした。しかし、それは呪力による防壁。呪力壁によって、完全に止められた。

「そ……そんな! 呪力壁をもう使えるなんて!」

 驚きの声をあげる夏虹耶だが、鬼はそれを構いもせずに左拳を構える。

 向かってくる拳を、夏虹耶は避けることができない。

「――――白龍はくりゅう!」

 青ざめた顔をした真帆が叫ぶと、そこには昨日朱音の前に現れた龍が、鬼と夏虹耶の間に立ちはだかった。

 真帆の式神の『白龍』。神の使いとして神界から送られてきた幻獣である。その力は、鬼程の強さを持つ神を遥かに凌駕している。

 白龍は、呪力壁を展開し、鬼の拳を完全に防いだ。

 その後も、鬼は唸り声をあげながら拳を入れるが、龍の展開した呪力壁はビクともしなかった。

 夏虹耶が着地すると同時に、鬼は光の粒へと変貌し、消滅した。講堂の中心にあった陣も、跡形もなく消え去り、人界と神界の接続が遮断された。


「……大丈夫か?」

 祭壇で神式解除を行っていた神楽が、下を見ると気絶した生徒3人の姿を確認する事ができていた。


     ♢     ♢     ♢


「……ん?」

 朱音が目を覚ますと、そこは保健室のベットのひとつだった。

 窓から太陽は、オレンジ色になっていた。

「起きたか……」

 向かいのベットでは、来斗が上半身を起こして、こちらを向いていた。

「お目覚めですか。兄様――――痛いところはありませんか?」

「大丈夫だ……真帆は?」

 朱音は、自分の事よりも先に真帆を心配した。

「別室で眠っています」

「大丈夫なのか?」

「怪我はありません。しかし、少しうなされているようですが……」

 夏虹耶は、淡々と答える。

「……なあ、朱音」

 来斗の顔は、いつになく真剣であった。

「ん?」

「なんでお前、真帆がリーダーって分かった時、なんで真帆を睨んだんだ?」

「……………………」

 朱音は、静かになり、俯いてしまった。

「どうなんだ?」

 来斗の口調は、少し強くなっている。

「……クッ」

 朱音は、話すのをためらっていた。

「――――来斗様。それについては、」

「夏虹耶! ……いい、俺から話す」

 強めの口調で夏虹耶を制すと、その重い口を開き、来斗に向かって話し始めた。


「あいつは……ひとつの身勝手な行動で、ひとつの命を奪ったんだ……」


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