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お迎え②

「き、来た……」


リュー兄様が白い顔で呟く。


「嫌です! 姉様が連れていかれるなんて絶対嫌ですっ!!」

「オルトバーン…。性懲りも無くまた現れるとは、そんなに死にたいか…」


ルー兄様は額に青筋を浮かべ、掌の上で青い稲妻のような魔力をバチバチと鳴らせた。


「落ち着けルーゼ。正式な城からの使いだぞ」

「それが何ですか! キュイは絶対に渡さないっ。誰であろうと、キュイを連れて行く者は絶対にこの家には入れーーー!!」

「さあさあ、どうぞこちらへ〜〜」

「「「母上ーーーーーッッ!!!」」」


お母様が優雅にオルトバーンさんを部屋に招き入れたと同時に、お兄様たちが絶叫した。


「まあ何ですか、お客様の前で大声を出して」

「母上!そやつはキュイを乳母にしようと企む輩ですよっ! なぜ家に上げたりしたのですか!?」

「そうですよ母上! それに、そこの片目! あなたのことですよっ、この陰気臭いむっつり片目野郎! あの爺いの命令だか何だか知りませんけどね、僕の姉様は絶対渡しませんから!!」


ランは荷物のように抱えられたままビシィッ!とオルトバーンを指差した。あきらかに迫力が足りない。生温かい視線を送っていると、リュー兄様がコソコソと耳打ちしてきた。


「……キュイ、兄様と逃げよぅ? キュイだって乳母になんかなりたくないでしょ? 僕が本気で逃げればきっとレザード様だって追いつけない……はず」

「え?」


いつになく真剣な表情で話していると思ったら、ルー兄様はいきなり私を抱き上げた。


「あ、しまっ…た」


リュー兄様が私を抱き上げたまま突然固まった。走り出そうとしたのか、大きく一歩踏み出した形で固まっている。


「今更逃げようなどと考えるな」


ツカツカと鉄靴を鳴らしながら、オルトバーンさんが私に向かって歩いてくる。


「オルトバーン! それ以上キュイに近付くなっ!」

「ルーゼ、お前も諦めの悪い男だな」

「黙れっ! 魔王なんぞに可愛いキュイを渡せるかっ! しかも乳母なんぞっ……に…」


突然ルー兄様の身体が硬直した。


「オル……き…さまっ…!!」


ルー兄様は動かない身体を必死に動かそうとしているのか、ギリギリと歯を鳴らしながら鋭い眼光でオルトバーンさんを睨みつけた。


「ルー兄様! リュー兄様もどうしちゃったの!?」


石像の様に固まってしまった二人に焦る私。私を抱き上げたまま固まっているリュー兄様の頬をぺちぺちと叩くと、リュー兄様はたれ目の瞳を潤ませて私を見つめた。


「ご…め……キュ…イ」


なんとかそれだけを喉から絞りだすと、リュー兄様は完全に動かなくなった。


「リュー兄様!!」


慌ててリュー兄様を揺すっても反応はない。えぇ!? 一体どうなってるの!?


「大丈夫だ。暫くすれば元にもどる」

「っあなたがやったんですか!?」

「そうだ。必ずお前を連れて来いとの命令だからな。邪魔するものは動かないでもらうしかない」

「そんなっ!」


オルトバーンさんの鎧で覆われた長い腕が伸び、リュー兄様の腕からヒョイッと持ち上げられてしまった。嫌だと身をよじっても、簡単にその胸に抱きとめられる。広い胸にスッポリと収まった瞬間、またあの香りが私を襲った。


(あっ…ダメ………)


オルトバーンさんの濃厚な魔力に包まれ、一気に頭が沸騰したようにクラクラする。無意識にオルトバーンさんの首筋に顔を埋めるように縋りつき、芳醇な香りに酔いしれる。


「ぐうぅ…ぅ……キュ…ィィ…ッ…」


………え? ぎ、ぎゃあーーーーっ!?


地の底から這い出る様な声に振り向くと、ルー兄様の血走った双眼から血の涙がダラダラと流れていた。ヒイィィッ!


「キュ…イ……から……は…なれ…ろっ…!」

「諦めろルーゼ。無理に抗うと身体が崩壊するぞ」

「ゆ…るさん……わた…し…もま…だ…嗅いで…もらっ…た…こと…ない…の…に…っ!」


ええぇぇっ! そっちぃーーっ!? もしかして悔し血涙ですかっ、ルー兄様!!


「父上! お離しくださいっ、姉様が連れて行かれてしまいます!」


私を抱いたままオルトバーンさんが玄関に向かって歩き出すと、まだ抱えられたままのランがバタバタと暴れ出した。お父様にガッチリ押さえ付けられ動けないことを悟ると、固まっている兄様達を涙の溜まった目で睨みつけた。


「この役立たずの変態シスコン野郎! このむっつりが石眼を使うことぐらい知ってるくせに、なに簡単に嵌まってるんですかっこの間抜けぇぇっ!」


ボロボロと涙を流しながら叫ぶ。


「ラン、キュイにずっと会えなくなる訳ではないのよ?乳母の期間が終わったらすぐに帰ってくるし、会いたかったらいつでも会いに行けるんだから」


お母様が宥めるようにランのサラサラの銀髪を撫でる。


「でもっでもっ…姉様が他の奴に胸を吸わせるなんてっ! 僕だけのっ……、僕だけが触っていい胸なのにっ! 僕だってまだ吸ったことないのにぃぃっ!!」



ラン、オマエモカ……。



「では行くぞ」

「え? ちょっと待ってくだ…っ」


抵抗すると、またもやオルトバーンさんの魔力に包まれ、頭がぽやんとして思考能力を奪われる。



「娘をよろしく頼む」

「レザード様によろしくお伝えください」

「……お任せを」


オルトバーンは小さく頷くと、移転魔法陣を発動させ、キュイと共に消えた。



「姉さまあぁぁーーーーっ!!」






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