表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

蚊帳の外です

「オルトバーン!貴様キュいに何をした‼」

「ルー兄様⁉」


気付いたら私はルー兄様に抱きしめられていた。何故かボロボロのルー兄様は、さっきまで男の人が立っていた方を睨みつけている。


ーーーえっ⁉


ルー兄様の視線を追うと、さっきまで鬱蒼と生い茂っていた木々が、そこだけポッカリと丸く穴を開けたようになぎ倒されている。倒された木々は消し炭のようにプスプスと黒く煙を上げていた。


「な、ななな、なん、なんっ…」

「キュイ、大丈夫か?何もされてないか?」


ルー兄様の声に顔を上げると、ポタリ…と、私の顔に何かが落ちた。見開いた私の目に、頭から大量に血を流すルー兄様の顔が飛び込んできた。ポタポタとルー兄様の血が顔に落ちてくる。


「る、ルー兄様っ!血が、血があっ!」

「大丈〜夫!それはさっき僕がルー兄の頭を叩き割ったときに噴き出した血だからぁ」


それは大丈夫とは言わない‼って、気付いたらいつの間にかリュー兄様が側に立っていた。


「姉さま‼」

「どふぅっ!」


突然現れたランが勢い良く私の胸に飛び込んだ。と同時に、ルー兄様にクリティカルアッパーを食らわせ、ルー兄様は綺麗な弧を描きながら宙を舞った。


「姉さま!姉さまぁっ!僕すっごく心配しましたあっ!!」


ランは泣きじゃくりながら、私の胸に顔を擦り付ける。


「ラン…心配かけてごめんね。今度から黙って出ていかないから」

「約束ですよ!もう絶対僕を置いてかないって約束して下さい!もう一生僕から離れないって約束して下さい!!もう僕以外に指一本触れさせないと約束して下さい!!身も心も一生僕に捧げるとやくそ」

「ストォーーップ!!」


リュー兄様は私に張り付いていたランの首根っこを掴み、勢い良く剥がした。


「ドサクサに紛れてなぁ〜に邪な約束させようとしてるのかなぁ?この変態僕ちゃんはあ〜」


言いながらギリギリとランの首を締める。リュー兄様はものすっごい笑顔だけど、その目は全然笑ってない。


「……やれやれ、ブランルージュ子息が全員集合か」


木々がなぎ倒された奥から、鎧の男が土埃を払いながら現れた。


「ふんっ…生きていたか、オルトバーン」

「生憎と、あれぐらいの攻撃ではな」


いつの間にか起き上がっていたルー兄様が忌々しそうに吐き捨てると、男は表情も変えずに答えた。


「ルー兄様、もしかしてお知り合いですか…?」

「いや、全然知らない」

「え?」


いやいや、さっき名前呼んでたじゃないですか。


「俺とルーゼは同期で職場も同じだ」

「勝手に喋るなああぁっ!オルトバーンッ!!」

「え!ルー兄様の同期??」

「ああ、こいつとは幼い頃からの付き合いで仕事も…」

「貴様あぁっ!喋るなと言ってるだろうっっ!!」


チュドーーーンッ‼


またしても轟音が響く。

ルー兄様は右手から謎の青い光を男に向けて放ったが、男は無表情でひらりとかわした。


「相変わらず頭に血が上りやすい奴だな、ルーゼ。少しは落ち着いたらどうだ」

「黙れオルトバーンッ!貴様が死ぬまで落ち着いていられるか‼」


男は顔を真っ赤にしながら叫ぶルー兄様を一瞥すると、ルー兄様の腕の中にいた私に視線を向ける。すると、リュー兄様とランが、私を隠すようにすっと男と私の間に立った。


「ちょっとちょっとぉ〜、うちの可愛い妹、ジロジロ見ないでくんな〜い?」

「あなたのそのいやらしい視線で僕の姉さまが汚れるので、即刻その目を潰した後に謝罪して下さい」


ルー兄様のお友達(?)に向かってそんな言葉っ!と内心焦りながら見ていると、男は怒った素振りもなく、じっと私達を見ていた。


「…ふむ、やはりブランルージュ家は娘を隠していたか」


男は顎に手を当てて何やら納得している。


「ふんっ、だから何だ!キュイはお前にはやらんぞ!」

「あ〜あ〜、だからキュイを外に出したくなかったんだよねぇ〜」

「バレてしまったのはしょうがないでしょう。こうなったら、一生姉さまを家から出さないようにすればいいことです」


ちょっとラン、何勝手に決めてるの?兄様たちも「そうだな」じゃないでしょ!


「それは無理だな。その娘は正式に次期魔王乳母候補として選ばれた」


ーーーはい?


ジキマオウ?ウバコウホ??

首を傾げていると、突然身体中に鳥肌が立った。辺りの空気は重くなり、肌がビリビリと電気が走ったように痛い。


ーーー殺気だ。


ルー兄様もリュー兄様もランも、三人共ものすごい殺気と魔力を放っている。これはマズイ。


「今…、何と、言った、オルト…、バーン…」


ぶるぶると震えながら、低く、唸るような声でルー兄様が男に問う。


「乳母候補って、……ふふ、冗談でしょお〜?」


薄い笑みを浮かべるリュー兄様の周りの気温がどんどん下がっていく。


「…このおじさん何を言ってるんですかねぇ。姉さまが乳母?…ハッ」


ラン、よそ様に鼻で笑ってはいけません。


「もう一度言う。正式に次期魔王乳母候補として登城を要請する。当たり前だが拒否権はない」


「「「ふざけるなああぁぁっ!!」」」


三人同時に叫ぶやいなや、兄様達の手から一斉に破壊光線のような光が男に向けて放たれた。眩しさと何かが爆発したような爆風に、思わず目を瞑ってしまう。



「さすがブランルージュ家と言ったところか」


目を開くと、土煙の中に男の影が見えた。

段々と男の姿が現れると、いつの間にか男の前に透明の壁のようなものが出来ていた。バリバリと音がしたかと思うと、壁はガラスのように粉々に砕けて消えていった。



「無傷だと⁉ ……まさかオルトバーン、貴様…」

「……あ〜、何かすっごく嫌な予感〜……」

「こんな強力な結界……あのクソ爺いしかいませんね…」


何故だか三人共急に顔色を悪くしだした。


「察しの通り、俺はレザード様の命でここに来ている。こうなる事を予測して、俺に結界を施された」

「……オルトバーン、レザード様はキュイの事をすでに知っているのか?」

「ああ。と言っても、気付かれたのは昨日だ。先程お前の妹の魔力に俺が触れた時、レザード様も乳母候補だと確信したようだ」

「…レザード様とお前は、繋がっているのか?」

「一時的にな」

「………」


……話しがサッパリ分かりません。完全に私だけ置いてけぼりです。話に参加しようかどうか、ぼんやりルー兄様の顔を見ながら考えていると、視線に気付いたのか、ルー兄様が私の顔を見た。


「キュイ…、お前は誰にも渡さない」



ふっ…とルー兄様が一瞬微笑んだかと思うと、側にいたリュー兄様とランに目配せする。それに反応するように、リュー兄様とランが、あの破壊光線を男に向けて繰り出した。


「キュイ、しっかり掴まってろ」


言うより早く、ルー兄様は足下に魔力を展開した。見ると、移動用の魔法陣が地面に浮かび上がっている。いつの間にか魔法陣に入っていたリュー兄様とランを確認すると同時に、ルー兄様が魔法陣を発動させた。



「!!」



突然周りの景色が溶け出す。ギュッとルー兄様にしがみ付いた私の耳に、遠くから男の声が聞こえた。



「迎えに行く」



消えていく景色の中、男の低い声がはっきりと聞こえた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ