お父様にお願い
私、キュイ・ブランルージュはとうとう150歳になりました。見た目は15歳ぐらいの、全体的に桃色をした普通の魔族の少女です。幼女から少女に成長した訳なので、もうそろそろ外に出てもいいだろうと意気込んでお父様の胸に飛び込みました。
「ねえお父様、キュイもそろそろ15歳(見た目)だし、その……お、お外ーー」
「駄目だ」
「………」
お父様、まだ全部言ってません。
「キュイ、外は悪〜い魔族がたっくさん居て、とお〜っても危険なんだぞ?」
お父様……私はもう15歳(見た目)です。まるで幼子に言い聞かせる話し方はそろそろやめて下さい。
「それは分かってます。でもキュイだって魔族だし、ランだって一人で出かけてるんだもん。キュイだってお外に出たいです…」
必殺うるうる上目遣い攻撃ー‼
「うぐっ…!」
お父様は凛々しい眉を八の字に寄せて悶えてる。でもそんな顔もとってもかっこいい。
お父様はリュー兄さまと同じ燃えるような赤い髪をオールバックに撫でつけ、鋭いながらも気品を感じさせる青い切れ長の目がセクシ〜な、ワイルドかつ色気溢れるナイスガイである。ブランルージュ現当主、アラーゼ・ブランルージュ。ちなみに430歳(どうみても30代)だそうです。
「キュイ、お父様を困らせてはだめよ」
「お母様…」
いつの間にか私の背後に立っていたお母様は、その儚くも美しい月の女神(魔族だけど)のような顔で、にっこりと微笑む…と、
ぶちゅううぅぅ〜〜
お父様とお母様はいきなり熱〜い接吻をはじめた。あえてキスではなく接吻と言わせていただく。
ぶちゅう〜〜〜ベロベロベロ……
なんてこと!舌が、二本の舌が縦横無尽に蠢いている。これは子供の教育によろしくない!
慌ててグイグイと二人の服を引っ張ると、お父様とお母様は名残り押しそうにゆっくりと口を離した。口からキラリと光る糸が引いていたのは見ていません。
「んふ…、キュイったら、お父様に無理なお願いをしてはダメよ?」
ルー兄様とランと同じ綺麗な銀色の長い髪を耳にかけながら、儚く微笑むお母様。スミレ色の瞳が悲しげに揺れて、私を心配してくれてるのを感じる。
しかし、私は諦めない。
「ごめんなさいお母様…。でもキュイ、ほんのちょっとでいいからお外が見てみたいの…」
必殺うるうる上目遣い攻撃ア〜ンドお願いポーズゥー!!
「はう!」
お母様は苦しそうに胸を押さえて後ろに倒れた。しまった、お母様にはちょっと刺激が強すぎたみたい。ふ〜…っと倒れていくのをお父様が私を抱く反対の腕で器用に抱きとめると、お母様はよろよろと顔を上げた。
「キュイったら、そんな可愛いい顔をしてお母様を殺す気なの?」
メッ!といいながら頬を膨らませるお母様の方が可愛いと思う。ちなみにそんなお母様の名前はリリーナ・ブランルージュ。年齢はお父様も知らないらしい。
「お願いっ、ちょっとでいいからキュイをお外に出して下さい!お願いします!!」
勢いよくペコッと頭を下げ、そお〜っと顔を上げると、二人共困ったように眉を寄せていた。
「困ったな…。魔力を抑えられるようになったとはいえ、まだ完全にコントロール出来きてる訳でもないし…」
「大丈夫ですお父様!キュイはもう魔力を抑えられます!完璧です!」
「しかし、キュイ1人では…」
「誰かと一緒ならいいですか⁈」
「え?うぅ〜ん…」
「お父様……」
じいぃ〜っとお父様の青い目を見つめる。
じいぃ〜〜〜…
じいいいぃ〜〜〜
じい〜〜〜〜
しばし続く親子の攻防。横でお母様がハラハラしながら見つめている。
「はぁ……、分かった、分かったよキュイ。一人じゃないなら外に出てもいいよ」
「本当⁉嬉しい!ありがとうお父様!」
嬉しさのあまり、お父様の頬にチュッとキスして部屋から飛びだした。
「キュイ!外に出てもすぐ帰って来るんだぞ‼ 知らない魔族がいたら直ぐに帰りなさい!知らない生き物がいても絶対に近寄ってはダメだ!もし人間が居たとしても……あぁ、行ってしまった…」
勢いよく開け放たれた扉を見つめ、うな垂れるアラーゼ。
「あなた、キュイにはあの子達がベッタリくっついてるからきっと大丈夫よ。もし他の魔族がキュイに近づこうものなら、あの子達はきっと八つ裂きにして殺してしまうでしょうね」
夫を励ますように、リリーナは女神のように美しい微笑みで物騒な言葉を口にした。