20:00~ 居酒屋にて
酒の席、友人の洋から卓也はこんな話を聞いた。
会社員のAは務めを終え、まばらな人混みを避け我が家へと向かっていた。
するとAの前を歩いていた男が向かいから来た老人にぶつかり、そして老人に因縁をつけ始めた。
全く日本も捨てたものだと考えながら、面倒事には巻き込まれるのは御免と見て見ぬふりを決め込んだが、男が暴力を振るい始めたものだからさすがにまずいと感じ、二人の間に割って入った。
ここまではよかったのだが、元々気弱なAは男の気迫に怖気づいてしまい、それでも少しは食い下がったのだが、関係ないだろうと怒鳴られ退散する羽目になってしまった。
情けないとは思いながらも、少し歩いて後ろを向けば例の男が歩いてくるのが見えた。
どうやら大事にならなかったようだと安心半分自責半分で家へ帰ったAは、気分の悪さを紛らわすために酒を煽り布団に入った。
夜も深くなった頃、Aは寝苦しさを覚え目を覚ます。しかし体が動かない。
これが金縛りというものかと必死に体を動かそうとしていると、部屋の隅に気配を感じた。
恐怖を感じながらもそちらに視線をやると、そこには例の老人が座り、こちらを睨みつけていた。
どうして俺なんだ、俺はあんたを助けようとしたんだぞ。
そんなことを考えながらAは、朝日が昇るころには冷たくなっていた。
いくら酔っぱらっているにしても、話し方から展開まで酷い作り話だと皆は笑っていた。
しかし卓也はひそかに驚いていた。
というのもこの話、母が幼いころにしてくれた話とプロットがそっくりなのだ。
さすがに妙な現代風にアレンジこそされてはいなかったが、不気味な老人と助けようとした若者が死んでしまうという理不尽さが登場する昔話は幼い卓也を酷く恐怖させたものである。
困った人はしっかり助けろということなのか、面倒事には首を突っ込むなということなのか、何らかの寓話なのだろう。
卓也が知らないだけでよくある類の話なのか、それとも偶然母と洋が似た物語を思いついたのか。
それにしても全く、不愉快な物語である。
卓也はそう思った。




