再会する男
第一話の子です。
地球の皆さん、元気だったかい?
俺は愛の指導者、蕪木太郎だ。
一生異世界暮らしも悪くないかな、と思っていた矢先に、地球へと戻された。せっかく築いた新ハーレムがパーである。お気に入りの天使っ子にもう会えないと思うと胸が切なくなる。
そういえば神様に「アナタは無理、ごめんなさい」と言われた。どういう意味だったのだろうか。
まあ良い。丁度、故郷が恋しくなってきた所だ。このタイミングは僥倖と言っても過言ではない。
「久しぶりね」
「誰だ?」
とんでもない美人が俺の前に現れた。五年振りだがその面影には見覚えがある。
この女はいつぞやの女傑だ。なら、さぞかし腕を上げていることだろう。
リターンマッチ希望か。よろしい、受けてたとう。
「ふふっ、お相手申し込むわ」
「その死合い、引き受けた」
彼女の笑顔を見た瞬間、俺のリビドーが臨界点を超えた。俺の愛が一つ上の領域に辿り着いたようだ。これならば愛天然流の三百六十全ての絶技を絞り尽くすことができるかもしれない。
激しい熱戦が繰り広げられた。
「おぉおおおおおおおおおおおおッ――」
「あぁああああああああああああッ――」
流石に力尽きて二人してグッタリしている。息も途絶え途絶えだ。
十回戦は歴代最長記録だ。流石の俺ももう限界である。
「はあッ、はあッ、成長したな」
「はひぃ、はっふぅ~、あ、あにゃた(貴方)においちゅき(追いつき)たくて……」
見事だ。よもやここまで腕を上げていようとは。
もしや、俺の終着点はここだったのか。
「結婚してくれ」
「ふふっ、その言葉を待っていたの」
今はハーフタイム、言うなれば一時休戦中である。ひっしりと抱きしめ合ったまま、互いの愛を確かめ合う。
俺もそろそろ引退か。ならば子作り解禁だ。俺の全てを息子あるいは娘に伝授しよう。
我々二人の遺伝子を持つ子供だ。さぞや歴代最強の使い手になるだろう。
……それはそうと、外野がうるさいな。
「てめぇら、堂々といちゃついてんじゃねぇ! こんな事して俺達から逃げられるとでも思ってんのか?」
「そうだ! 純真な俺達を弄びやがって! ギンギンのコレをどうしてくれんだよ!」
「くそう、俺の女に……。お前以上の女はいねぇんだよ! 戻ってきれくれぇー!」
「ソイツが悪の根源か? そこの男、許さん! 俺も混ぜろー!」
「俺達の目の前で露出プレイしてんじゃねぇ!」
「そんなん見せつけられたら、俺、もう我慢できねぇよ!」
「やらせろー!」
そう、今現在、縛り上げた男達が目の前に参列している。人前での愛のランデブーもまた乙なものだ。
コイツらは彼女を拉致監禁しようと近づいてきた輩だ。知り合いか?
「ふふ、貴方たちは所詮ワタシの練習相手。彼を越えるために利用したに過ぎないわ」
「このアマがぁッ!」
良くは分からないが、彼女が目配せしてきた。終了したようだ。帰るか。
「ふっ、負け犬共が。行くぞ」
「ええ、ダーリン」
翌日、彼女が攫われた。しつこい奴らだ。
指定された場所に行くと、裸の彼女と涙を流してゲッソリと黄昏ている男達がいた。
何があったか深くは問うまい。っていうか、俺来なくても良かったんじゃね?
「大丈夫か?」
「ええ、散々やられちゃったわ。でも残念だけど、彼らじゃもう満足できないの」
ニヤリと据わった目をして、彼女が俺を一心に見つめる。
ふむ、流石我が生涯の宿敵、類まれなる女傑だ。昨日はあんなに愛し合ったのに、まだ余力があったのね……
だが何故だ?
彼女からかつての異世界での悪夢――エロフとヤンデレ娘の両方の影がちらつくのだが……気のせいだろう。そう願いたい。
封印してきたトラウマが蘇りそうになるので、ここは無我の境地でやり過ごす。
恐らく俺をフルボッコするために呼んだと思われるが、俺と闘う前に既に奴らの体力は限界を迎えていた。
もういいんじゃね? お仕置き済みでしょ、これ。
「既に勝敗は決した。帰るか」
「へ、へへ、甘いぜ。お前に弄ばれた男はまだまだいるんだぜ」
その時、入り口から新手の集団がやって来た。
「はっはーッ! 久しぶりだなぁ! 俺の嫁ぇ」
「探したぜ! お前は一生俺のモンだ。なんなら今すぐ籍を入れるか?」
「ふははッ、俺の女ー! なあ、家来いよ。可愛がってやんぜ」
「違ぇよ! 俺の彼女だ! テメェは馴れ馴れしいんだよ」
「何だと! ふざけんな! 俺の女だぞ!」
男達が一斉に叫ぶ。連帯感は皆無であり、雄共が優劣を競っている。正にカオスだ。
何なんだ、コイツら?
良く見ると、手には物騒な得物が握られている。俺を殺る気か?
いや、その前に――
人数多すぎじゃないか? 全部で十人はいるよ。
ちょっと待とうよ。君、この五年間でどんだけ食べちゃったの? もしかしてフードファイター志望なのかな?
まさか百人斬りとかしてないよね? 僕、嫌だよ。
だってね、僕のモットーはね、量より質なんだ。そんなに悪食だと、お腹壊しちゃうんじゃないかな?
それにね、別れるなら後腐れがないようにしないとダメだと思うんだ。
だって「立つ鳥跡を濁さず」って良く言うじゃない。僕もそれには賛成なんだ。
君はそこが勉強不足だよね。
……いかん、いかん、幼児退行を起こしてどうする。しっかりしろ、太郎!
まあ、それはさておき……
「下がっていなさい。コイツらは俺一人で十分だ」
「はぁい!」
うむ、健康的で良い笑顔だ。
今度、お日様の下での青空プレイでも開拓してみるか。
さてと、愛を語らねばな。
「うおりゃーーーーーーッ!」
ナイフを持った男が突っ込んできた。
俺の身体に直撃するが――
「無駄だ。もはやその得物と俺は"相思相愛"! その子は俺を愛し、お前を拒絶した」
「な、何だよこれ!?」
男が驚愕の声を上げた。ナイフは俺の肌に刺さることなく止まっている。
当然だ。もはや俺に得物は届かない。
さあ、愛を説く時間が来た。始めようか。
「……時には喧嘩することもあるだろう。気に食わないことも出てくるかもしれない――」
ゆっくりとした口調で語りながら、怯え顔の男連中に向かって歩いていく。
世の真理をその心に刻み込め!
「しかしッ! ――本当の愛は決して傷つけ合わないッ!」
横を窺うと、俺の生涯のライバルである女傑が微笑んでいた。彼女には理解できたようだ。
そう、愛こそ最強。
「この一帯は俺の愛で包んだ。もはや誰も俺を傷つけられない」
「へへッ、その理論でいくと、テメェも俺達をどうこうできねぇんじゃねぇか?」
何を勘違いしたのか男達が突然、立ち直ったかのように嘲笑い出した。
ダメだな、コイツらは。愛が何たるかを全くもって分かっていない。
お粗末にも程がある! 許せん!
「ソレは違うな」
奴らに対する怒りはあるが、それでは愛は説けない。
優しく、ゆっくりと事実を伝えていく。
「愛の裏返しは憎悪。愛と憎しみは表裏一体。愛が深いほどに傷は深まる。そして俺の愛は世界レベル……」
一番前にいたマヌケづらの男の懐に飛び込む。男の驚愕した顔が目に移る。
己の未熟さを思い知れ!
「愛憎パンチ!」
「ぐあッ!」「がッ――」「ぐはッ」「ぐッ」「ゴッ――」
男達は成すすべもなく、倒れていく。
これが愛だ。叱るのも愛情が故、この世は愛に満ちているのだ。
「お前らには愛が足りない。もっと世の中を見て、修行し直すのだな」
「くそぅ……」
倒れ伏し悔しがる男を尻目に、俺を見て惚けていた彼女に手を差し出す。
「さあ行こう。愛の極致へと」
「はいッ!」
女傑の手を引いて夜の街を歩いていく。
さっそく両親に紹介しなくてはな。あっ、あと師匠にもだ。
俺は愛の指導者、蕪木太郎。只今、最高の愛を手に入れた幸運な男だ。
今宵のバトルも熾烈を極めることだろう。
さあ、勝負! 愛は偉大だ! ……その前に彼女に服を着せないとな。
一応、ここで完結とさせて頂きます。
ご愛読ありがとうございました。