逃げる男
連続投稿。
女性不信の皆、挫けるな。
俺は愛の復活者、蕪木太郎だ。
先日、予想外の恐ろしい一幕もあったが、既に過去の出来事だ。
リベンジは当然していない。あの女帝は別格、もう関わらないのが賢明だ。
あの悪夢の日から一年、無事ハーレムを築くことに成功した。
何でも、ハンター稼業がモテるらしく、その職についたら、あっという間にトップの仲間入りをしたのだ。
お金もガッポリと儲けて、巨大な屋敷と世話係のメイドを数人雇った。もちろん、俺のハーレムの一員である。
ここで一生暮らすのも悪くない。
今日も愛らしい雛鳥達がこぞって俺の取り合いを始める。
「太郎様、今日も可愛がってね」
「ずるい~、私も~」
「え~、私もしたいわ」
「それじゃ、みんなでパーッといこうか?」
「「「決定!」」」
最近は充実している。地球ではこんな生活はできないだろう。
世界中の美人を集めて、俺の居城を拡大するのもいいかもしれない。
おっ、今から新しいメイドの面接か? ようし、美人ならハーレム入りを打診して、OKなら合格にしよう。
「あ、あの、家事全般には自信があります」
「君は愛を語る気はあるかい?」
なるべく優しい顔をして、射抜くような真剣な瞳で彼女を虜にする。
案の定、赤くなってもじもじしている。
「それは肯定と受け取っていいかな?」
「……はい」
はにかむように俯いて、小声で返事をするその仕草。グッジョブ!
メキッ
……ん? 何かが潰れるような音がしたが……そういえば先程から後ろに殺気を感じるような……アレは……ハーレム第四十二号か。
そういえば四十二号はご無沙汰だな。しょうがないな、明日は彼女にするか。
「明日は君が寝室に来なさい。久しぶりに可愛がってやろう」
「ハイ」
あれっ? 声にトゲがあるような……緊張しているのか? うい奴め。
それじゃ、準備するかな。前約があるから、新しいメイドはその後だな。
「フ、フフフ……」
不気味な笑い声が耳に入ったが、幻聴だろう。例えるならば死霊の祟り、この世の全てを呪う悪魔の囁きのようだ。
振り返った先には四十二号しかいない。彼女も笑顔で俺を見送っているしな。気のせいだ。
夜、寝台に仰向けになり、新人メイドを待っていると、部屋の扉が開く音がした。
来たか。どれどれ、可愛がってやろう……何か持っているな。何だ? 落ちてくる?
ストン
俺の右耳スレスレに小刀が舞い降りた。突然の出来事に血の気が引いていく。
状況が把握できない。
「え、えっ?」
「死ーーーーーーねぇーーーーーーッ!」
再び振り下ろされる刃。ヤバいッ!
「うおっ」
今度は左耳の横を通り過ぎた。風を切る音が死神の合図を思わせる。
女は四十二号だった。目が据わっていて危険なオーラが充満している。
「ちょ、ちょっと待て! 理由は何だ? 金か? 恨みか?」
「アナタはアタシだけのものなのよーーーーーーッ!」
コレがヤンデレというヤツか。殺傷沙汰はごめんだ。取り敢えず縛りつけて部屋を退散する。
どうする? 警備隊にでも突き出すか?
今すべきことは……そうだ! 俺の可愛い仔猫ちゃん達は無事なのか?
それぞれの部屋を確認すると、彼女らは熟睡していた。
一部、俺の慌てように事件でも起きたのか、と勘違いしていたようだが、誤解はきちんと解いておいた。
ホッ、最悪な事態にはなっていないようだな。
危なかった。もうあんぜ、ん……?
「待ぁぁあああてぇえええいぃぃぃぃぃぃッ!」
ホッとしたのも束の間、鬼の形相をした四十二号が追ってきた。
髪は逆立っており、ヨダレと剥き出しの歯が恐ろしい。
「ひぃいいいいいいいいいーーーーーーッ!」
どうやって縄を解いたんだ? 良く見ると彼女の手首から血が出ていた。
強引に引きちぎったのか? 何、この子、恐いよ。
俺は屋敷を飛び出し、二度と戻らないことを誓った。
その後、彼女らがどうなったかは知らない。
アレから四年、やっとのことで振り切って、別の大陸に到着した。
長かった、本当に長かった。
行くところ、行くところ、執拗に追いかけてくるんだもん。どうやって俺を探し当てていたんだか。新種のレーダーでも内蔵していたのかもしれない。
とにかく凄まじい執念だった。トラウマになりそうである。――まだ恐いよぅ。
それはさておき、俺もまだ若い。ここで新たなハーレムを築こう。
新たな伝説の始まりだ。
……ん? 懲りたんじゃないかって?
馬鹿を言うな。
男たるもの、例え野垂れ死になろうと、己の理想郷を追い求める勇者なのだ。妥協は許されない。
「新たな楽園を築こう」
俺は愛の復活者、蕪木太郎。せっかく作り上げたハーレムを一度失った男だ。
人選は慎重にしましょう。
羽の生えた麗しき乙女がこちらにやって来るが、アレはもしや天使!
ハーレム勧誘、レッツ、ゴーだ。