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「弥生さん、私やっぱり一人暮らしします!」
「却下。それから叔母さんと呼びなさい」
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3日。この町に来てから3日経った。あっという間に過ぎ去って行った叔母の家での3日間。
そして今日、再び綾香は引っ越しをすることになった。3日4晩に渡る独立戦争の末に勝利を奪い取り。
話は綾香がこの町に来た日にさかのぼる。
「此処が今日から綾香ちゃんの家になるのよー」
駅前は都心のようだったのにバスを降りる頃には緑が増え坂道も多くなり、バスの終点一帯は半分山に乗り上げたような形の町のどん詰まりにあった。近代化からとり残されたような田園風景。同じ町なのにずいぶんと違う。それから叔母の案内でたどり着いたのはどん詰まりの更にどん詰まり、背後に深い山を背負ったような古い日本建築の家だった。
家っていうか…屋敷…?
さぁさぁ入りなさいお茶でも飲みましょうとはしゃぐ叔母の隣で綾香は見事に固まった。敷居が高すぎる。突如天涯孤独の身になった少女を引き取った初対面の親族は旧家で地主でいきなりこの家の娘?どこの少女マンガだ。この分だと転校初日あたりには食パンくわえた男子とぶつかるのではなかろうか。
とにかく、青天の霹靂すぎる。というか嫌だ、こんな面白い事態の当事者なんて。
その想いは夕飯の支度をすると言う叔母から勧められ家の中をウロウロと歩き回っているうちに大きくなっていった。
座敷わらしの出そうな茶の間。一歩踏み出す度に甲高い音を出す鶯張りの廊下。
鹿おどしのある庭。家の裏にあった赤色の剥げかけた鳥居は神社も無いのにポツリと佇んでいて、まるでそれが境界線だとでも言うかのように鳥居と垣根の向こうは山の斜面だった。
極めつけは家から離されたような場所にある古びた蔵だ。蔵というだけで何か薄暗くて不気味だというのに、中は薄気味悪いというレベルではなかった。
怖いもの見たさの好奇心に突き動かされた綾香は鍵のかかっていない蔵の閂を開け、そして見てしまったのだ。
大量の行李やダンボール、紐に括られた大根や野菜などにまじって窓からの赤い夕日にギラリと輝く生物の殺傷を主目的とする大量の刃物達を。
これは少女マンガフラグなどと言ってる場合じゃない、確実に生贄フラグだ。この地域に古くから伝わる手まり歌になぞらえた連続殺人の被害者になるとか、古くから伝わる謎の豊作祈願の儀式で殺されるとか、封印されし悪霊に祟り殺されるとか、一人また一人と周囲の人が消えていくとか、呪いで転校させられるとか、きっとそういう系だ。
瞬時に様々なパターンのホラーでサスペンスな最悪の結末が脳裏に浮かび、真っ青になった綾香はこの不気味な家にオサラバするべく台所に居る叔母の所へ走り、そして叫んだのだ。「弥生さん、私やっぱり一人暮らしします!」