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昼下がりの位置の太陽は白い光を地面に投げかけていて、幼い頃に見た夢のように眩しかった。
何処かの屋上のような所だ。柵の向こうに見える世界はどこか歪んでいて、囲い込まれたコンクリートの床からは陽炎すら立ち昇っているような気がした。
風が微かに頬を撫でて行く。
そんな世界の中、少女は一人蹲っていた。
頭がボウとする。何かを考えようとする先から思考が溶けていってしまう。
見渡す視界いっぱいにさんさんと降り注ぐ光は確実に少女の意識を拡散させていった。
体は浮き上がるように軽く、風に飛ばされそうな気すらした。自分の存在すら有るのか無いのか分からなくなりそうだ。
太陽は焼け付くようなのに体の底から湧き上がって来るような寒気を感じた。いや、実際は暑いのかもしれない。どちらなのかももう分からなくなっていた。
上に広がる蒼い色は、なんだか圧し掛かってくるようで、微かな息苦しささえ覚える。
目じりに涙が滲んでいる事すら知覚できないままに、もしかしたら意識が朦朧とするのは日光のせいではなく心が麻痺しているだけなのかもしれない。と漸く気付いた。
どのくらいそうしていただろう。
うな垂れて、何時までも傾く事の無い太陽に射られるままになっていた少女の体に、影が差した。
誰かが後ろに立っている。
(誰……)
少女は緩慢な動作で振り向いた。
そして、見た。
何もかも白っぽく浮き立つ世界においてなお、鮮烈に存在し続けるその人を。
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「―――いいよ。貴方が居てくれるなら。私を孤独から救ってよ」
「よいだろう小娘。契約成立だ」
そうして少女は黄泉還った 。