表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない。神様にウィザード(魔法使い)と聞いて派遣された先が、サイバーパンクな世界だった件  作者: ニャルC


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

第5話:仕様変更と乾杯

第5話:仕様変更と乾杯

1. 極限状態の「キツケ」


 S社のクローン増援部隊による包囲網は、もはや物理的な「壁」となってスドウとレイを圧迫していた。

スドウのマナは枯渇し、頭痛が思考の並列処理を阻害する。

「……クソ、計算が追いつかない。レイ、これを飲め」  

スドウは懐からスキットルを取り出し、レイに渡した。モモの店で買った合成酒だ。  

一口あおれば、喉を焼くような人工的な苦味と、どこまでも「規格化された不快さ」が突き抜ける。


「……不味いな。どこの瓶を開けても、全く同じ、反吐が出るほど均一な味がする」  

その瞬間、スドウの脳内で赤提灯での会話、そして目の前の軍団が繋がった。

「……そうか。あいつらは個体じゃない。『量産された同一』だ。

なら、入力ダメージに対する反応も、エラーの出し方も、すべて同じ(マニュアル通り)なはずだ」


 スドウは残りの酒を飲み干し、不敵に笑った。

「レイ、立て。ハメ技の時間だ。一度見切ったバグは、修正パッチが当たるまで何度でも使える。

あいつらの同一性コピペという脆弱性を突くぞ」


2. 稟議書とアンドロイド


 スドウが杖を突き立て、敵の行動プロトコルを強制フリーズ(物理干渉)させる。

敵が同じ遺伝子、同じ経験を持つがゆえに、全員が「全く同じ回避行動」をとった瞬間、そこは逃げ場のないデッドロックとなった。  

レイが「自分自身の意志」でトリガーを引く。

かつて恐れた一個小隊が、スドウの組んだ手順書(ハメ技)に従って、事務的な作業のように殲滅されていく。


 その時、上空のノイズを切り裂き、N社の最新鋭アンドロイド兵士が降下してきた。  

クローン(生物)に対して、機械アンドロイドをぶつける。

これはN社による「倫理の押し付け合い」だ。


「ドーモ、お待たせしました。……いやぁ、稟議書周りに時間がかかってしまってね」  

爆炎とノイズの中、実体のスズキ=サンが現れた。

「役員共が『本当にクローンなのか?』なんて抜かすから、先ほどの戦闘ログを叩きつけてサインを強引に取ってきましたよ。

……『我が社のアンドロイドが、御社の不法な生物兵器を処分しただけです』。これなら法的にもクリーンだ」


3. 事務的処理としての平和

 戦火が収まり、N社のアンドロイド部隊がクローンたちの残骸を「廃棄物」として処理していく。  

スズキ=サンはスドウに歩み寄り、冷淡かつ正確な仕事ぶりで告げた。

「お見事でした、スドウ=サン。約束の真正IDは転送済みです。……さて、後始末の時間だ」

 スズキの仲介により、S社本社との「損切り」交渉が始まった。  

証拠を突きつけられたS社は、即座に「子会社の暴走」であると定義オーバーライドした。

「……古代生物の復元を目指す研究機関のはずが、まさか軍事クローンを。本社は極めて遺憾に思う」  

そんなトンデモ言い訳と共に、S社は軍事市場から撤退。

レイは復讐ではなく、自らの「データの完全削除」を要求した。

スズキが彼女を「倒産に伴う破棄データ」として処理し、彼女はこの世から公式に消滅した。

「追い詰めすぎると、メガコーポは核を噛みますからね。

S社が『クローンなんて最初からやっていない』と記憶を上書きするなら、我々もその嘘を買いましょう。

……平和(独占)が一番です」


4. 本物オリジナルへの乾杯

 数日後。シン新宿、あの赤提灯。  

スドウは、スズキから振り込まれた莫大な謝礼金を手に、店主に告げた。

「大将、**『とりあえずビール』**を二つ。……払いは、このN社のコーポレート・チップでいいな?」

「ハイヨロコンデ!」

店外に駆け出す店主。

しばらくして、店主の震える手が、琥珀色に輝く見たこともないラベルの小瓶を二つ運んでくる。

周囲の住人たちが息を呑み、黄金色の液体が放つ香りが満ちる。

「……レイ。君の新しい人生に、本物オリジナルの乾杯を」

「……ええ。スドウ。乾杯チャント!」

 黄金色の液体を煽る。複雑で、深く、少し苦い、本物のオーガニック・ビールの味。  

スドウは前世のどの仕事終わりよりも深い満足感とともに、独白する。

「仕事終わりのビールは、いつだって最高だ」

 彼が纏っていた星屑のローブは、後に「スターダスト・スキン」

として、この街のハッカーたちの間で熱狂的に流行することになるが

……それはまた、別の仕様書の話である。


エピローグ:神界の反省会


 地上で黄金色のビールが喉を潤していた頃。  

遥か上空、雲の上の「仕様策定室」では、慈愛の女神が頭を抱えていた。

「……あ、あれ? おかしいわね。

私の計算だと、スドウさんは今頃ドラゴンを倒して、聖女様と結婚しているはずなんだけど……」

 彼女の水晶モニターには、薄暗い路地裏の赤提灯で、ワイシャツを着て

「プハーッ!」

と叫ぶスドウの姿が映し出されている。  

そこへ、上司である「ことわりの神」が、分厚いログファイルを携えて現れた。


「おい。またやったな、慈愛の女神よ。君の『用語定義ディクショナリー』の参照エラーだ」


「エラー? ちゃんと『ウィザード(魔導士)』を求めている世界に、

『ウィザード(賢者)』の適性があるスドウさんをデプロイしたわよ!」


「そこが致命的なバグだ。いいか、よく見ろ」  

理の神が指し示したのは、二つの平行世界のステータス画面だった。

【女神の勘違いリスト】

項目 女神の定義ファンタジー:現実のデプロイサイバーパンク

時代設定 新暦1500年(剣と魔法の時代):新暦1500年(西暦換算:3100年頃)

ウィザード 魔導士(杖で雷を落とす者):凄腕ハッカー(論理で世界を書き換える者)

ローブ 儀式用の正装 :ダズル迷彩(対AI視覚攪乱装備)

聖女 神に祈る清き乙女 :シリアル0のコードネーム(企業の機密クローン)


「……あっ。新暦って、西暦が一度滅びた後に、企業連合が勝手に決めた暦のことだったの!?」

「左様。君が送ったのは中世ではなく、科学が魔法の域に達した超高度情報社会だ」


 女神は頬を赤らめ、水晶のなかのスドウに手を合わせた。

「ご、ごめんなさいスドウさん! でも、楽しそうだから結果オーライ……よね?」


 モニターの中では、スドウが二杯目のビールを注文しながら、隣の少女に

「次はどのシステムのバグを突こうか」

と楽しげに相談していた。  

神のミスから始まった物語は、仕様書(運命)を書き換え、

誰にも予測不能な「オリジナル」の未来へと走り出していく。


「……ま、いっか! 次からはちゃんと『ハッカー』って検索ワードに入れるようにするわ!」

 女神の軽い一言。  

地上では、夜風に吹かれたスドウ

「……なんだか今、無性に神様を殴りたくなったな」

と呟き、最後の一口を飲み干した。


(完)

後書き

異世界転生で行き先がサイバーパンクだったら?

とウィザードって魔導師とハッカーの意味があるから、勘違いで召喚された。

というのが発想の元です。

なおスドウなのはunix系のsudo(superuser do)の略です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ