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高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない。神様にウィザード(魔法使い)と聞いて派遣された先が、サイバーパンクな世界だった件  作者: ニャルC


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第3話:現実のリダイレクト

1. 物理層のリダイレクト

 シン新宿、上層階へと続く巨大な物流高架。

時速百キロを超える速度で駆け抜けるS社の大型輸送車を、スドウは展望デッキから冷めた目で見下ろしていた。  

隣には、スドウの実力を測るモニターとして同行しているN社のエージェント、スズキ=サンが立っている。

「スドウ=サン。S社の輸送システムは、高度な予測AIと暗号化された交通制御で守られています。

ハッキングで信号を操作しようとしても、彼らの防壁ファイアウォールは瞬時にそれを検知し、

ルートを再計算して逃げ切りますよ」  

スズキの言葉は理性的だが、スドウは鼻で笑った。

「ハックなんてまどろっこしい真似はしない。物理層インフラに直接介入する」  

スドウは星屑のローブをひるがえし、樫の杖を掲げた。

脳内のコンソールに、光子の屈折率を書き換えるコマンドを叩き込む。

「陽炎の回廊」

 その瞬間、輸送車の視覚センサーが捉える景色が歪んだ。

信号機から放たれる青い光が空中で強引に屈折し、隣にある「進入禁止」の赤い光と入れ替わる。  

制御AIにとっては、論理上の信号は「青(進行)」だが、物理センサーの入力値は「赤(停止)」

という致命的な矛盾コンフリクト

「……ブレーキが、かかった!」  

レイが叫ぶ。巨大なコンテナ車がタイヤを悲鳴させながら、スドウたちの目前で完全停止した。


 レイが強化された一撃でハッチを抉り開ける。

だが、そこにあったのは完成したクローンではなく、ラベルのない大量の培養ポッドと、

調整中の「身体パーツ」の山だった。

「……何これ。ただの肉の塊?」

「いや、高度に規格化されたバイオ・ハードウェアだ。

だが、これだけじゃ『何を』作ろうとしているかの決定打にはならないな」  

一部始終を見ていたスズキが、眼鏡を指で押し上げた。

「……素晴らしい。ログに残らない物理干渉。

スドウ=サン、あなたを現場のギグワーカーで終わらせるのは損失だ。本社の役員会へご案内しましょう。

そこで、この『部品』たちが何を意味するのか、より大きなパズルを解いていただく」


2. 交渉ディールのテーブル

 スズキが用意した場所は、スラムの赤提灯とは対極にある、

ハイエンドな会員制ラウンジ『リョウテイ』だった。

防音と電磁シールドが完備された室内には、本物の香水の匂いが漂っている。  

スドウは星屑のローブを脱ぎ、よれよれの安物ワイシャツの袖をまくり上げてソファに深く座った。

その態度は、異世界の賢者というよりは、デスマーチを指揮するプロジェクトマネージャーそのものだ。

「……さて、ビジネスの話をしよう。スズキ=サン、あんたが求めているのはS社の不祥事だ」  

スドウは隣で所在無げに座るレイを親指で示した。

「S社の『クローン英雄計画』。

かつての英雄を復元し、軍事市場を独占しようとしている。その生きた証拠が、このレイだ」

「しかし、輸送車の中身はただのパーツでした。

彼女自身からも、オリジナルのような圧倒的な戦闘ログは検出されていません。

これでは役員を納得させる材料としては弱い」

「彼女は感情を持った、失敗したコピーだから」  

スドウの言葉にレイが肩を震わせる。

「交渉はシンプルだ。そちらにはマーケットシェアの維持。

こちらには不要なコピー……つまり追っ手の消去デリート

報酬は真正ID、それから仕事が終わった後の最高級のオーガニック・ビールだ。

……N社がその気なら、俺がS社の本尊メインサーバーから直接、英雄のソースコードを抜いてきてやるよ」

「……いいでしょう。契約成立ディールです。プレゼン(脅迫)の場を用意しましょう」


3. 事務的な脅迫

 数日後、スズキの手引きでスドウはN社本社の最上階にいた。

ミニマリズムを極めた、冷徹なまでに白い会議室。

「……なぜ中世の道化師がここにいる?」  

上座に座る役員が、スドウの「星屑のローブと尖り帽子」を見て失笑した。

スドウは杖をトントンと突きながら、事務的に答える。

「見た目で判断するのは非合理的ですよ。このローブはダズル迷彩。……それより、本題に入りませんか?」

「道化師に割く時間はない。警備員を――」

 役員が声を荒げようとした瞬間、スドウが杖の宝石を輝かせた。  魔法『静寂』。


 役員は口をパクパクと動かしたが、自分の声が喉で死んでいることに気づき、顔を青くした。

机を殴る拳の衝撃も、音になる前に魔法に吸い込まれる。  

周囲の役員たちは、それがハッキングによる制御ではなく、目の前の男が「音という物理現象」そのものを空間から削除したことを本能で理解し、戦慄した。


「……5秒。はい、終わりです」  

スドウは時計を見ながら、平然と続けた。

「いま、御社の役員の周囲の物理法則を私に書き換えられました。

……では、S社の不祥事の話をしましょうか。ビジネスの時間です」


4. 真実という名のバグ

 N社のフルバックアップ――物理的な陽動とサーバーへのアクセス権――を受け、

スドウとレイはS社のサーバーセンター最深部へと潜入した。  

レイは震える手でメインコンソールのデータを引き出す。

彼女がずっと超えたかった、自分を規定するはずの「オリジナル」の記録。


「……いない」  

レイが呆然と呟く。 記録によれば、オリジナル(本物)は十年前の紛争で完全消滅。

バックアップすら残っていない。  

今、S社が「英雄」として量産しているクローン兵たちは、

断片的な記録から戦術と思考を100%継承するように再構築された「完璧な英雄のコピー」だった。


 対して、レイ(S-000)は、製造の最初期段階で「感情」や「迷い」といったノイズが混入し、

オリジナルとの同期に失敗した不完全な残骸。

「あいつらは……あの警備プログラムに従っている奴らは、私がなりたかった『本物』そのもの。……私は、本物になり損ねたゴミだったんだわ」


 アイデンティティの崩壊。自分を「失敗作」だと突きつけられたレイの瞳から、光が消える。  

スドウは杖を握りしめ、背後に広がるサーバーラックの闇を

……そこから現れる、レイと同じ顔をした無数の「完璧な英雄」たちを見つめた。

「……レイ、下を向くな。仕様書(過去)が白紙になったのなら、ここからは自由な実装コードの時間だ」


 だが、その言葉は届かない。

自分という存在が「オリジナルに及ばないエラー」でしかないという現実は、

彼女の心を深いデッドロック(凍結)へと追い込んでいた。


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