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高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない。神様にウィザード(魔法使い)と聞いて派遣された先が、サイバーパンクな世界だった件  作者: ニャルC


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第1話:物理層のバグ

1. システムの強制終了(現代)


「……不具合、再定義、再起動。……クソが、全部nullに書き換わればいい」  

深夜二時、東京新宿。土砂降りの雨。  三十路のIT屋、スドウは虚ろな目で信号を渡っていた。

三徹目の脳は、視界に入る全ての光景を、修正不可能なスパゲッティコードのように認識している。  

その時、水しぶきを上げて突っ込んできたのは、最新型の無人輸送トラックだった。

完全自動運転。高精度LiDAR搭載。

それが豪雨によるノイズと、スドウの濡れたコートを「路面の反射」と誤認した。

ブレーキは踏まれず、彼は「システムの欠陥」を呪いながら意識を失った。


2. 仕様書の読み間違い(神界)

「大変だわ! 悲劇だわ!」  

神界。慈愛の女神は水晶に映る祈りに涙していた。

「1500年、教会、ホムンクルスの虐待……この子は『ウィザード』の助けを求めているのね! 救済を!」  

女神は即座に、トラック事故の被害者で「転生希望、魔法使い」を出していたスドウをピックアップした。

「あ、急がないと転生待機列に戻っちゃう! えいっ!」  

女神は慌てて、スドウが着ていた「サラリーマン」のスーツの上から、

**『ウィザード(魔法使い)基本セット』**を無理やり上書きした。星屑のローブ、樫の杖、とんがり帽子。

「中世ならこれで完璧ね。行ってらっしゃい賢者さま!」


3. ミスマッチの降臨(新暦1500年)

 新暦1500年。スラムの廃教会に逃げ込んだ少女・レイは、震える手で古びた魔導書を広げていた。

「……お願い。本物の、S社の防壁を抜けるウィザード(級ハッカー)を……!」

彼女が最後の賭けとして召喚の儀式を完遂した瞬間、魔法陣が極彩色に発光した。

現れたのは、星屑のローブを纏った男。だがスドウは自分の格好を見て凍り付いた。

「……は? 待て、なんだこの服。……おい、中身スーツがそのままだぞ!?」

豪華なローブの下に、よれよれのワイシャツとネクタイ。

神が急いだせいで、現代の社畜と中世の賢者が物理的にマージされていた。

「あなたが……S社の防壁を抜ける本物のウィザード(級ハッカー)?」

「……え? あ、ああ。本物のウィザード(魔法使い)のスドウだ」

「ウィザード? まあいいわ、腕さえ確かなら。その恰好、ハッカー界隈の流行り? それともセンサーを幻惑するためのダズル迷彩(視覚ハック)?」  

レイは困惑したが、この世界の凄腕には奇抜な変人が多い。納得して前を向いた。  

直後、教会のステンドグラスを粉砕し、S社製の攻撃型ドローンが突入してきた。

「あれの武装とセンサーは?」

スドウは反射的に杖を掲げる。

「光学センサーと光学兵器」

杖の宝石が光る。

「常闇」  

ドローンは光を通さない魔法の闇に包まれ、空中で静止した。

光学センサーが突然ブラックアウトしたようなものだ。

ライトで照らそうが、何も見えない。安全のため、空中で静止せざるを得ない。

その闇に向かい、レイが引き金を引く。

「……本物ってすごいのね。偽物と違ってログすら残さないなんて」  

レイの勘違いをよそに、スドウは杖を見て呟いた。

「全ユニットのシャットダウンを確認。……さて、プロジェクトの概要を聞こうか」


4. シン新宿、凍りつく「とりあえず」

 二人は追っ手を振り切り、スラムの吹き溜まり「新新宿区」

……住民が漢字の意味を忘れ「シン新宿」と呼ぶ街へ逃げ込んだ。  

路地裏の「赤ちょうちんのネオンの店」に入ると、客が一斉にプラスチックのカップを掲げる。

「カンパイ」

と低い声で唱和した。

「……乾杯チャントか。ここの連中にとっては、生存確認のまじないなんだな」  

スドウは前世の癖で、カウンターに座るなり口走ってしまった。

「……、**『とりあえずビール』**で」  

その瞬間、店内の空気が凍りついた。

「おい、あいつ……今『とりあえず』でビール(オーガニック)を頼みやがったぞ」

「本物の麦酒なんて上層の役員クラスの報酬だぞ。何者だ?」  

殺気立った視線。

慌ててレイが安価な合成アルコール「ハナミ」を二つ注文し、店主に電子チップを叩きつけた。


5. オリジナルとコピー

出てきたのは、透明の液体だった。スドウがそれを一口すすると、舌に刺さるような化学的な味が広がる。

「……最悪だ。この酒のコピー品、味はオリジナルに及ばない」  

スドウの落胆に、レイはグラスを見つめたまま、自嘲気味に呟いた。

「……そうね。コピーはオリジナルに及ばない」  

その言葉の重みに、スドウは彼女が問題を抱えていることを察した。  

二人は人間を収容するための最小限のストレージ――「棺桶カプセルホテル」に身を寄せた。  

狭いプラスチックのカプセルに横たわり、スドウは独白する。

「……トラックに轢かれた後の宿が棺桶。……神様、これ以上の皮肉はないぞ」  

スドウは閉所恐怖症に似た閉塞感の中、どうすべきか考えながら、眠りについた。

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