部室のおっさん妖精
「みんな、驚かないで聞いてくれ」
俺は、緊急で集まってもらった文芸部の面子を見回しながらゆっくりと告げる。
「この部室に、妖精が現れた」
「…妖精って、あれのこと?」
副部長である遥が怪訝そうな表情をしながら指を刺す
そこには、虹色の羽をキラキラと陽光に反射させながら、ブレイクダンスをしている小太りのおっさんがいた
「信じられないかと思うが、あれだ」
「よう……せい?」
「まだゴキブリの方が可愛げがある」
「良くて不審者だろあんなん」
「回るな、殺すぞ」
みんなの想いが伝わったのか、おっさん妖精がブレイクダンスをやめてピタッと止まる……片手立ちの体制で
「なんでだよ」
「逆さになりながら止まれとは言ってない」
「シンプルに死んで欲しい」
おっさん妖精は、しばらく片手立ちを続けていたが、辛くなってきたのか次第に腕が小刻みに震え始める
「逆立ちするんじゃなくて飛べよ」
「背中の羽は飾りか?」
「誰も殺らないなら俺が殺る」
「ねぇさっきから殺意高いやついない?」
おっさん妖精は、耐えきれなくなったのか、ぽてと言う効果音を発しながらこけてしまう、しばらくうずくまった後、急に光の粒子を発しながら立ち上がった。その眼は涙で潤んでおり、まるで別れを惜しんでるようにも見えた
「まさか……お前、消えるのか……?」
「え?何でそんな感動的な感じなの?」
「そんな……まだお別れも言ってないのに……!」
「今言えや」
「さよなら……よーちゃん」
「誰なんだよよーちゃん」
「私たちのこと、忘れないでね……!」
「享年3分のやつに何の思い出があんだよ」
「よーちゃんのこと、絶対、絶対忘れないからな!」
「ねぇこれもしかして私だけはぶられてたやつ????こいつに何の思い入れもないんだけど私!」
キラキラと粒子を振り撒きながら、徐々に徐々に上から消失していくおっさん妖精
「え?上からなの?相場下からじゃない?」
「さよなら……みんな」
「お前しゃべれたんかい」
「みんなのこと、忘れないよ!」
「ねぇ消えたらお前どうなんの?シンプルにそっちの方が興味ある」
「うるさいぞ遥!今よーちゃんが喋ってる途中だろうがァァァァァ!!!」
「うっさ、声でか」
「よーちゃんのこと、何も知らないくせに!!!!!」
「逆に何で知ってんだよマジで」
「引っ込んでろ」
「ねぇ何でそんなあたり強いの皆???私そろそろ泣くが???16歳が恥も外聞も無く泣き喚くがよろしいか????」
「皆……僕のことで喧嘩しな……」
「あほら口消えたから喋れなくなった、おもろ、ていうかこいつ一人称僕?無限に笑える」
「よーちゃんを馬鹿にするなァァァァァ!!」
「だから何でそんな熱量高いの???」
おっさん妖精は少しずつ消えていき、消失の光が半分まで達してしまう……
「ほら、上から消えたせいで気まずい時間できちゃったじゃん、どうすんのこれ」
「よーちゃん……」
「ていうか腹と足だけ残すのやめてくんない?普通に蹴り飛ばしたいマジで」
鎮痛な面持ちでおっさん妖精が消えていくのを見つめている三人、遥も流石に空気を読んだのか、あくびを噛み殺しながらぼーっとしていた
そしてついに、おっさん妖精の体が全て消え去ってしまい……何事もなかったかのように本を読み始める三人
「え?さっきまでの感じはどこ言ったの?よーちゃんは?」
「よーちゃん?誰それ」
「こっちのセリフだが?」




