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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第四章・上陸、ワンダンズグル大陸編

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89・それぞれの使命

前回より3か月近く経ってしまい、申し訳ありません。

ようやく続きです。

まだ、ワンダンズグル大陸への上陸前、船内のシーンです。



『動ける者は操舵室(そうだしつ)に集まれ! 上陸作戦会議だ!』


 巌流の声が雄叫(おた)びとして船内に響く。それはパーティーメンバーにとって、お遊びの時間を告げる引率員の言葉だった。

 一二三にとっても、まずは海の妖精・シースとの(たわむ)れの終わりが訪れる時間だった。そして、その横を疾風の速さで駆け抜けてゆくのがシュルケンだ。


「ヒフミ殿! であらば、急ぎで!」


 とにかく急げという、忍者装束のシュルケン。ちょっとユルイ性分のおっとりした忍者の影はもうない。先の戦いも、彼の力量なくしては乗り切れない場面であった。

 もちろん、その声の前に、一二三の足もすでに操舵室へと向かっていた。



 操舵室にはパーティーメンバーが揃い始め、重々しい雰囲気となっていた――。




「ヒフミ、まず言っておく。俺が今から口にする言葉は、恐らくお前を憤慨(ふんがい)させるだろう。もしくは俺への信頼が揺るぐものだろう。だがもう、言わなければならない。カノンを、今すぐに世界から消さなければならない。理由は簡潔。ただし、話せば長い」



 息を詰まらせて操舵室へ姿を現した一二三にはまったく分からない。巌流が何を言っているのか、世界から消すという言葉が意味するものも理解ができない。そこに花音の名前があった――そのことだけで、反射的に声を上げるしかなかった。


「カノンは関係ないでしょ! アイツは今、訳も分からず苦しんでます! この異世界に来た時からずっとそうです! それが、消えるとかなんだとか――ガンリュウさん、俺はもうカノンを連れて元の世界に帰ります! 皆が――世界が何か、大きいものが危険に晒されてるとしても、カノンを守って元気に元の生活に戻すのが、僕のたった一つの目的なんですから! カノンは生意気だけど、一人しかいない可愛い僕の妹です! それだけです!」


 一二三の当然の言葉であり、荒ぶりでもあった。世界だ消すだという言葉が自分の妹の身に降りかかるならば、兄としては、その全てを回避――拒絶しなければならない。つまらない日常のケンカばかり繰り返していただけの妹へ対して、たった一つだけ守らなければならない衝動だった。本気の言葉だった。


「だからオッサンよう。この石頭には、もっと言い方があるってオレが言っただろうが」


 ベルモットだ。異世界へ入ってから、いつも鋭かった目つきがますます厳しくなり、モンスターへ対して「錬金術師というのは、こんなにも想像を絶する力を持つのか」という驚きを(もっ)て、激しい攻撃性を見せてきた彼女が、それでも基本的には落ち着いた声で口を挟んだ。


「ヒフミ。オッサンが言ってるのは、何もカノンを他の時空へ飛ばせだとか、そういう意味じゃねえ。ましてや、命を侵すようなことじゃねえんだ。オレの言葉で話を聞く気になったなら、まずはその、構えた竹刀を下ろせ」


 こうなると雰囲気は、一二三の(たかぶ)った気持ちを鎮めるための場になってしまう。遅ればせながら現れたユルエが、フライパンを手に、そんな面々を見回して空気を読んだ。


「で、誰がいちばんパニくってるの? まず、その脳みそをゆっくりと煮込むとこから始めたいんだけど。私としては?」


 フライパンを、くるりと回してみせた。


「おっさん。長くなる話を長々と語ってやんなきゃ、コイツは頷かねえ。ヒフミ。おめえ、あの侍のジジイが妹のことを『パスワード』つってたのを覚えてるか」


 一二三は確かに覚えている。同時に香月のことを「マスターキー」と呼んでいたことも。しかし、その謎は(いま)だ知らない。誰も知らないと思っていた。だがベルモットの言葉は、その意味を少しなりとも理解しているようだった。ここは(いきど)りを抑えて、聞きに回らなければならない。


「覚えてます。ベルさん。覚えてる上で、隠してることがあるなら全部教えてください」

「全部――か。じゃあ皆、おめえらも含めて言っておくことがある。おめえらは、この世界の中で、それぞれに役目を背負ってる」


 言うと、ベルモットはいつもの厳しい顔でパーティーメンバーを見回した。


「最初に言っておく。これは全部、あの侍の爺さん――卜伝(ぼくでん)の受け売りだ。ただ、信じるに値する情報だった。順にいこう。まずはヒフミだ」


 チラリとベルモットの視線を受けた巌流は微動だにしない。腕を組んでの侍然とした立ち姿だ。


「まずはヒフミ、お前は『ブランク・ペーパー』。白紙の人間だ。この異世界における使命も何もなかったはずの人間。そこに何もかもが上書きされていく存在、伸びしろだけの立ち位置だ」


 一二三の表情が曇る。自分が白紙。ならば他のメンバーはどうなるのか。その立ち位置で、何が繋がり変わってゆくのかと眉だけをひそめた。


「シュルケン、お前は『バロメーター』だ」

「バロ、メーターでござるか? それはいったい、どのようなもので?」

「安心しろ。そうそう大役でもない。おめえが死ななきゃ、このパーティーは崩れない」

「いや、それはひどく大役に思えるのでござるが。拙者が皆の無事を任されたということでは――」


 狼狽えるシュルケンを、ベルモットが軽く受け流す。


「いいだろ。死ななきゃいいんだからよ。で、次だ。俺の紹介でもするか。俺は『大錬金術者』。まあ大げさなネーミングだが、今まで通りのオレってことだ。世の理を理解し、形にする者らしい」


 ベルモットが怪しげな紫の炎を手のひらに浮かべた。

 そして、その目が香月に向かった。意味ありげな笑みと共に。


「で、フォーミュラ。お前は『マスターキー』これは侍の連中も口にしていただろう。この世界には、延々と閉じたまま開かれない世界が存在するらしい。いや、鍵を開けるまでは存在しない世界。その世界を、侍連中は追っている。固く重く歴史の中で閉ざされた門扉(もんぴ)を開けられるのが、唯一、マスターキーだ」


 香月の顔が、一二三より一層と曇る。


「私――そんな大それたものじゃないです。聞いたこともないですし、私はただの戦場医師で……」

「そこはいいんだよ。おめえにその気がなくても勝手に与えられた、いわば運命だ。そういう意味では、オッサンこそが勝手なもんだ」


 そこでベルモットは一旦、言葉を切り、


「巌流――『天命者(てんめいしゃ)』。侍たちを含めて、この時空にすべてを集めた張本人だ。オッサンの過去の因縁が呼んだ、言っちまうと事故だ。宇宙を巻き込む盛大な大事故の原因だ。その辺は、俺もいい迷惑だと思ってる」


 そんなことには興味がないといった顔で、一二三が口を出す。


「カノンは――そんな勝手に決められた運命の中で、カノンはいったい何の役目を押し付けられたんですか? まだ小学生の子どもですよ?」


 そこはベルモットではなく、巌流が重い口を開いた。


「『パスワード』カノン。俺たちはさっきも聞いたと思う。カノンが呟くように口にしていた奇妙な言葉のことだ。それが、『マスターキー』が役割を果たすべき場所、時、そのすべてを示すという。卜伝たちが何を目的にしているのかはまだ詳しく分からんが、言えることは、それが俺たちにとって阻止すべきことだ」


 一二三が慎重に訊ねる。


「もし、その『閉じられた世界』というのがマスターキーで開かれたら、どうなるんですか」


 巌流も、同じ顔で答える。


「終わる。何もかもがだ。俺たちがあるべき場所へ還る手段も、何もかもがなくなってしまう。だからこそ、パスワードであるカノンを、その役割から外す必要があるんだ」

「外すって……そんな方法があるなら、皆、そうやって、つまらない役割から解放されればいいじゃないですか。どうして――」


 一二三が、どうして花音だけが、と続けたかったところへ、ため息混じりのベルモットだ。


「それが分かんねえんだよ。今のところ、運命の輪から一時的に抜け出せる可能性があるのは妹だけなんだ。理由はひとつ。アイツは大転生者の飼い犬、ダックスと会話ができるからだ。思い返せよ。オレたちがどうしてこんな時代と世界に飛ばされたのかを、そして出会ったのかをな。全部、大転生者の気まぐれだ」


 一二三の頭が追いつくのに、数秒がかかった。


「そう……だ。あの大転生者にさえ会わなかったら、僕たちはこんな目に遭っていなかったんだから」


 恨み節にも聞こえる一二三の声に、ユルエが短く返した。


「会わなかったら私も皆も、もう死んでたんだけど」


 核心を突いた言葉だった。そして、


「でさあ、ベルモっち。私は何の役割を持ってるの?『リベンジャー』とか『ラベンダー』とかカッコいいのがいいんだけど?」

「ユルエか。お前は『料理長』だ」

「どかーん!! 転職ならず!!」


 軽口を叩いたベルモットだったが、真実は冗談でかわした。それを伝えること自体が、ユルエの使命を揺るがす発言になるからだ。ユルエの立ち位置――それは『バランサー』だ。人間同士のズレたバランスを正してゆく、『バロメーター』と共にパーティーの行く先を支える最重要な役割だった。


読了、ありがとうございました。

今後も2週間くらいずつ空くかもしれませんが、よろしくお願いいたします。


バタバタ書いたので誤字脱字ありましたら、のちほど訂正します。


ところで、ユルエの一人称が初期の「アタシ」から「私」に移行しているのは、海の妖精シースの登場により、混乱が起こらないためです。

それでも文脈で「香月・花音=私」「ベルモット=オレ」の中で、ユルエが「私」と名乗っても区別はつくと思っています。

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