88・妖精の宝物
ワンダンズグルへの上陸へ、大きな敵が立ちはだかった。
それはシュルケンの前世における宿敵、ヒゼン率いる忍者の群れだった。
成すすべなく帰り着いたシュルケンは上陸をあきらめるように話し始めたが――。
ベッド室の花音へ、ユルエの作った炒飯を運んでいった一二三だった。
「カノン、起きたか? ユルエさんが作ってくれたから。『食欲あるなら食べて』って」
一二三に呼びかけられた花音は、ボンヤリとしている。上の空という言葉そのままだった。
「まあ、置いとくから。それと――今は何も考えるな。食べたくなったら食べて、眠くなったら寝て。話したいことがあるなら、まず俺に言えよ」
何も答えない花音をしばらく見つめて、一二三はベッド室をあとにした。キィ、と鳴るドアの音だけを残して。
それよりも、と一二三は頭の上をクルクル飛び回る妖精に弱っていた。
「ねえシース。マルズ星っていったいどんな星なの? 妖精っていうのは、この星でどんな役割とか――そういうのって、ないの?」
シースは一二三の右肩へ降りると、赤い蝶の羽を閉じた。
「ん? アタシは海の妖精なんだから海を守ってるに決まってるじゃない」
「だから。何をどう守ってるの? 守ってるんだったら、せめてモンスターの出ない穏やかな海にしてほしいんだけど」
「モンスターか。そういう言い方はよくないわね。彼らは彼らで、この海で生活するしかないんだし。そこによそ者が急に現れたら、縄張りは守ろうとするわよ」
(モンスターにも理屈がある訳か。それを理解したところで何も変わらないんだろうけど)
「それでシース。キミが会いたいって言う山の妖精っていうのは? どこにいるかくらい分かってるんだよね」
が、彼女は一二三へと軽く言い放った。
「分かんない。だってアタシ、海しか知らないんだもん」
「そんな無責任な……。じゃあもしかして、その山の妖精が見つかるまで、キミはずっとついてくるの?」
「何よ、その嫌な顔。命の恩人に向かって言う言葉じゃないわね? もう少し感謝しながら尋ねてよね」
これは手に負えない時の花音と一緒だと、一二三は頭を掻いて合わせるしかない。
「じゃあ――『妖精の宝物』って言ってたのは、何なんでしょうか……」
「んー。アタシもお婆ちゃんのお婆ちゃんの代からしか聞いてないんだけど。この星で、海には青が、山には緑がよみがえるんだって」
「よみがえる? てことはマルズ星って昔は砂とか岩とか、こんな真っ暗な星じゃなかったっていうの?」
「だった、って聞いてるわ。だからワクワクしない?」
(ワクワクはしないけど興味はあるかな。そしたら雰囲気的にはモンスターも大人しくなるかもしれないし)
「もしそれが本当だったら、僕としては全面的に協力するよ。ただ、協力はしたいんだけど、その話を誰に聞かせればいいか……。『僕にしか見えない海の妖精が教えてくれた』なんて、信じてくれないと思うし。ねえシース、皆にも姿を見せてくれない? そしたら手伝えることもあると思うし」
が、シースは考え込んだあとに答えた。
「ちょっとイヤかなあ。あの怖そうなオジさんと真っ黒のヘンな人? どっちも苦手だし。あとは可愛い女の子たちでしょ? 妖精って独占欲強いから、やっぱりヒフミの他には見せてあげない」
「そんな。なら、皆で協力なんてできないじゃないか」
「ゴメン、ウソついた。ホントはアタシもこうやってヒフミと話ができてるのが不思議なの。普通、妖精の姿を見ることのできる人っていないから。あ、昔一人だけいたっけ。とにかくさ、アタシが知ってることは教えてあげるから。まずは頑張ってワンダンズグル大陸に上陸して。ね?」
ね? と言われても、いまだ船長である巌流からの指示はない。
(ここまで来たのに上陸できないなんて。けれど目下の敵はシュルケンさんも恐れる忍者の軍団――。このまま爪を噛んで待ってろっていうのか)
一二三がやり場もない悔しさに包まれていると、船内に号令が流れた。
――『動ける者は操舵室に集まれ! 上陸作戦会議だ!』
巌流の野太い声が響き渡ったのだ。
――続く――
更新、大変に遅くなり、しかも分量は少なめです。
それでも上げておこうと思ったので、仕上げた分だけは投稿しておきます。
次回は『船上での戦い』に向かう予定です。
今は別の作品にかかりっきりで、筆が遅くて本当に申し訳ありません!




