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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第四章・上陸、ワンダンズグル大陸編

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87・因縁の宿敵

今年最初の投稿になりますね。

本年もよろしくお願いします。


 斥候(せっこう)――単独の偵察へ出ていたシュルケンが、全身をずぶ濡れにして戻ってきたのは3時間も経った頃だった。その口から、上陸を断念せよという台詞が息も絶え絶えに吐かれた。



「まず落ち着け。それから簡潔に話せ。お前が上陸をあきらめた方がいいと感じた根拠はなんだ」


 巌流は、酒瓶を前に腰を据えたままだ。

 興奮の冷めないシュルケンが言葉を整理し始める


「10人ほどの集団に追われたでござる」


 あまりにも大雑把で伝わらない。だが巌流は、その短い言葉から重要な事実を引き出した。


「お前は今、『10人』と言った。それは魔物ではなく『人間が10人だった』ということだな。それをどうやって確かめた」


 シュルケンは黒い覆面のまま、まるで遠い過去でも思い出す目を巌流に向けた。


「見知った顔が、ありました。拙者とは因縁の深い、寒氷(さむごおり)の里出身の『ヒゼン』という忍びの男の顔が見えたのでござる。我が(あるじ)謀略(ぼうりゃく)によって死に追いやり、里を裏切った抜け忍でござる。どういう経緯(いきさつ)か、あやつもきっと、拙者たちと同じように転生したものと思われ……」


 その時を思い出したのか、彼の眉間に(しわ)が強く刻まれた。無念という目の色と共に。


「なるほど。それで、お前の取り乱している理由はつかめた。ただしだ。だからといって俺たちが上陸できないことにはならない。その男、そこまで強いのか。俺たちの総力を挙げても勝ち目がないと?」


 話に入りそびれていたベルモットが、船の丸い舵を背に口を出す。


「ヒゼン、か。名前はどうでもいい――テメエの個人的な因縁がどうあれ、その男はこの世界でもテメエの敵だってことでいいんだな。でも、お前は追われつつも逃げのびて戻ってこれた。その程度の相手なら考えるまでもねえだろう。お前の敵ならオレたちの敵も同然だ。潰せばいいだけの話だ。そうじゃねえのか」


 ベルモットは情けなく片膝をつくシュルケンに近づいて、左手に構えていた木製のジョッキを渡した。


「まあ、帰還祝いだ。飲め」


 シュルケンは差し出された酒を受け取ると、ひと息に飲み干した。普段の彼には見られない、やけ酒のような飲み方だった。

 それでも、ひと息はつけたのだろう。巌流と同じように床へ座り込むと、ようやくで詳しい話を始めた。その目を操舵室の壁へと向けたまま。


「今は拙者も皆と行動を同じくする仲間。そこに私情を持ち出すこともないでござろう。それは忘れていただきたい。拙者が恐れたのはヒゼンの存在よりも、拙者の周囲を囲んだ者たちが、やはり寒氷の忍び装束だったことでござる」

「忍者10人が相手か。お前の忍術を見たあとでは、確かに面倒そうだ。ところで、10人というのはすべてが別人ということで間違いないのか? お前と同じ影分身を使っていたんじゃないのか」


 黙ったまま舵にもたれるベルモットも、無言で同じことを考えていた。


「それはないでござる。恥ずかしながら申せば、ヒゼンは実力も拙者より上でござるが、それぞれに別の気配を持った影を作り出せるとは思いませぬ。そ奴らは各々、違う技で攻撃を繰り出していたのでござるからにして」


 そこへ、「オレならできるがな」と言ってのけたのはベルモットだ。


「オレは家系としては生粋の炎系の錬金術師だが、時間さえ練れれば同時に超低温の練成もできる。そういうことは、ニンジャにはできないのか」


 ベルモットは、左手に小さな炎を灯してみせる。


「できる者がいない、とは申せませぬが。しかしそれは用意周到に待ち構えられていた場合で、拙者たちの動向を知らねば無理かと。拙者はあの時、自分の意思でそれを決めて動いたのでござるから」

「はあ、誰か密告者でもいるっつうのか。あの毒キノコが怪しいがな――」


 それは個人的な怨恨だった。小型キノコモンスター・どくっぴのせいで醜態をさらした彼女の逆恨みだ。彼女の性格からして生涯根に持つのだろう、それをペットにしているユルエも含めて。



 操舵室には4人。その中で完全に存在を忘れられているのが一二三だ。彼はシュルケンの報告内容よりも、耳元で囁く妖精シースにことごとく邪魔をされていた。


(なんか頼りない話ばっかりねえ。ねえヒフミ、ちゃんとワンダンズグルには向かってよね? じゃなきゃ、ついてきた意味がないんだから)

(ちょっと黙っててよ。今はそれどころじゃないんだ)


 その気の抜けたやり取りに気付いたのか、第二層からの階段前に立ったままの彼へとベルモットが声をかけた。


「おいヒフミ。さっきからブツブツ、なんの独り言だ。妹が心配なら戻ってていいんだぜ。これからのことは、シュルケンの報告を聞いたうえでオレとガンリュウで決めるから」


 7人パーティーの一番手と二番手に逆らうことはできない。一二三は怪しまれるのも困るので、深々と頭を下げて操舵室から下りていった――。





「言ったろ? 人のいる前で話しかけないでって」

『大丈夫だってば。アタシの姿はヒフミにしか見せてないんだから』

「だから、それが余計に困るんだよ。ベルさんにもヘンな独り言って思われたし」


 船の第二層。居住区のメインでもあるテーブル室で、一二三は壁のソファーに座っていた。話し相手はもちろん、気まぐれなルーン・フェアリーのシースだ。彼女は自分の意思で決めた相手にしか姿を見せないという。


「シースの目的はちゃんと僕が理解してるって。でも聞いてたろ? 今はまだ上陸自体が難しいんだ。それを決めるのは船長たち。僕にできることはないんだよ」

『はぁ。やっぱり頼りないなあ。そんなのワームホールを使えば簡単じゃない。ヒフミの妹? あの子、それができるんでしょ?』


 一二三には驚愕のセリフだった。


「なんでカノンが――それよりワームホールのこと知ってるの? あれってどういう仕組みになってるの? ワームの作った穴からじゃないと通れないんじゃないの? キミはこの世界で、どこまでのことを知ってるの?」

『わー、質問が多すぎて耳がハナトガリダコになるってば』

「何でもいいんだ! ねえ、知ってることがあるなら何でも教えてよ!」


 つい声が大きくなった一二三に、シースが彼の肩先から飛び立ってベッド室に続く廊下へ目を向けた。


『誰か来るよ? また独り言が大きいって言われたら困るんだろうから、アタシは上の怖そうなオジさんと怖そうなお姉さんのとこに行ってる。じゃあね』


 言い残すと、シースはスッと姿を消した。入れ替わりにやってきたのはユルエだった。平成女子高生のユルい姿で。


挿絵(By みてみん)


「おやヒフミン、1人でどうしたの? ノンノン起きたから、何か食べるの作ろうと思って。ヒフミンもついでに食べる?」

「いや、僕はお腹減ってないですから。それよりもカノンはどんな感じなんです? まだダックスのこととか口にしてるんですか」

「んー。それがね、ダックスのこと聞いたら、今度はなんにも話さなくなっちゃった。だから以降、ノンノンにダックスの話はしないこと。これはフォーミュらんと決めたから。脳みその記憶領域に負担がどうとかこうとか、頭が疲れるんだって。で、なーに作ろうかなあ」


 そう言うと、彼女はいつもの鼻歌混じりでキッチンへ向かった。どこから用意したものか、すでにフライパンを手にして。


 一二三は肩から力が抜けてゆく理由も分からず、ソファーに大きく身を沈めた。


(何から考えればいい――。やっぱりカノンを連れてきたのは間違いだったのか)


 そう思うも、これは花音自身の選択だった。しかしもう、今ではそれを誤った選択だと一二三も後悔し始めている。侍たちには意味も分からない『パスワード』などと呼ばれ、その命ごと狙われた。今は動きを潜めてはいるが、いつ何時、また侍たちの襲撃があるかもしれない。

 それを思えば、ひたすらに自分の力の無さを憂うだけの彼だった。


 ソファーに身体を任せていた一二三の耳に、足音が聞こえる。キッチンへ向かっていたユルエが戻ってきたのだ。その両手には二つの丸い皿が乗っている。


「ででーん。炒飯は、二人分を作るのがデフォなのである。あ、私は太るからダメ。兄妹仲良く、同じものを食べるのです。今から持ってって。私はベルモっちに用事があるから。あと、フォーミュらんが羨ましそうに(よだれ)を垂らしてたら、ヒフミンが『あーん』してあげてね? んじゃあ、行ってくるでござる!」


 つくづく、底の見えない彼女の明るさがなければ続かないパーティーだ。


 大陸への上陸。

 花音の変調。

 気まぐれな海の妖精。


 頭を悩ませることはいくらでもあるが、銀のスプーンを口に運ぶと、出来立ての炒飯を胃が歓迎した。悪いがこれは香月に譲れなさそうだと感じた。


(さて。カノンの胃袋も、歓迎してくれればいいな)


 皿を両手に、一二三はベッド室への廊下へ向かった。



 ――続く――


しばらく間が開いたので、この世界での関係性をしつこく繰り返すかもしれませんがご了承ください。

ちょっと待っていただければ、また壮大なバトルシーンが構えています。

準備をお願いします!

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