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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第三章・異世界突入編

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75・進水式


「黒の練成008――『設計図ブループリント再構築リビルド』――『マイスターズ・オブジェクト』!!」


 7時間の作業後――。ベルモットが両手をかざした先で、山ほどの砂山が大きく隆起し始めた。彼女が船の練成に入ったのだ。


「オメエら、お疲れだったな! ここからは時間がかかる! 先に晩メシでも食ってろ! ああユルエ、そのペットボトルもくれ」



 夕食も終わり、誰もが亜空間に入ったあともベルモットの練成は続いていた。


「もう2時間もあの状態ですよ。ベルモットさん、大丈夫でしょうか」


 香月は心配を顔に浮かべて、巌流と共にその様子を眺めていた。


「ベルは仕事に手を抜かない。任せておけ」



 始まってから4時間が過ぎた。力を使い果たしたのか。ベルモットは砂地に倒れ込むと弱々しく声を上げた。


「おい――。たぶん、完成だ――」


 その胸元は、ユルエの期待を上回るレベルで膨らんでいた。


 巌流を先頭に亜空間の外へ出ると、周囲30メートルの高い砂山が今にも崩れそうにそびえている。


「あの、ガンリュウさん。これが船なんですか」


 どうにも不審顔の一二三が巌流の顔色を伺いながら訊ねた。


「だろうな。ヒフミ、あれを思いきり、竹刀でぶっ叩いてこい」

「叩くんですか? 壊れないんですか? 平気なんですか?」

「鋳物の鋳造というのは、こういうものだ。やってこい」


 一二三は倒れ込んだベルモットを何度か振り返りつつ、巨大な砂山を前にした。


「じゃあ、いきます。えっと、こういう時は――面一本!!」


 一二三の竹刀が砂山を叩くと、固体化した砂山がガラガラと崩れてゆく。崩れ落ちた岩石のその中に白光りする何かが見えてくると、シュルケンが小さく感動の声を上げた。


「これは……なんでござるか」


 巌流が自分の手柄のように答える。目の前に現れた純白の船を見上げて。


「クルーザー、というらしい」


 全長25メートルはあるだろう。光り輝く船首から緩やかな曲線が横腹へと続く美しいフォルムは近代的で、この魔界にあって異質な存在だった。6人が、その華麗な佇まいに圧倒されていた。



ベルモットを休ませるため、完全8時間の待機時間があった。刀を磨く巌流、竹刀の手入れをする一二三、状況確認を続ける香月、飛びクナイを並べるシュルケン、ランドセルを抱える花音、『たまごっぴ』を見つめるユルエ。そして『どくっぴ! どくっぴ!』。



 体力を回復したベルモットが身体を起こした。フードを上げて目を細めると、満足そうに船を見上げた。


「上手くいったみたいだな」

「はい! まずはお茶にしましょう!」


 香月が安堵の笑顔を見せる――。




 船は、ゆっくりと砂地を()かれてゆく。曳いているのはセドールだ。一二三は一歩ずつ砂を踏み、その胸は静かに興奮していた。その横で、シュルケンが耳打ちをする。


(こういう時は馬役を引き受けるのでござるな)

(ガンリュウさんの命令ですからね)


「海~海~♪ それは人を果てしなき冒険へと誘う広大な世界。数多(あまた)の旅人は希望を抱き、荒れ狂う波を越え、嵐を抜けて、新たなる大地を求めて夢に向かうのであった。それはまた、新たなる戦いも予感させる――」


 ユルエは隣に花音を乗せて、キッチンカーを走らせる。呑気なものだった。


「カヅキ。海岸までは、あとどれくらいだ」

「4.5キロといったところです」


 巌流と香月の会話に、ベルモットが身を跳ねてクルーザーへ駆けあがってゆく。それから船首に立った。


「見えたな。ちょっと白波はあるが、たいしたこたあない。絶好の進水式日和(びより)だ」

『どくっぴ!』

「ユルエ。頼むからソイツは置いていけよ」

「んー。イヤでござるっぴ」



 船を曳いていたセドールが足を止めた。延々と続いていた砂地を進んだ船は、どこまでも伸びる海岸線までたどり着いた。押しては引く波に両足で立ち、何の影も見えない海の果てに、七人が真っすぐに目を向けていた。


「紅い――大海でござるな」

「そうだ。この星の海は、海域で色が変わる。最も危険とされる海は乳白色(乳白色)で、大陸は大型の魔物がウヨウヨらしい。しかし、いつかは通らなければならない場所だ。いま一度、覚悟を持って乗り込め」


 まずは気の引き締まる思いで、一二三が船尾から伸びたタラップに足をかけて一歩進む。重く厚い扉を二度開けると、いよいよ胸が大きく鳴り始めた。


 傾斜の強い階段は甲板(かんぱん)ではなく、船の中ほどに設けられた丸窓の脇へと続いている。三層構造の、居住性の高い船だ。

 上り切った一二三が、砂浜に立つ花音へ声をかけた。


「カノン、上れるか?」


 下手をすれば一人で残って「ダックスを探す」と言いだしそうな目に、兄の目線がしっかりと重なる。


「ん……」


 決意めいた顔もなく、彼女はユルエと共にキッチンカーに乗り込んだ。船尾の中央が大きく口を開け、鎖の音を立てるとスロープをゆっくりと砂浜へ下ろす。それが船底へと飲み込まれてゆく。

 それからシュルケン、そして最後に巌流が階段を上る。巌流は一度だけ後ろを振り返り、重いハッチを閉めると厳重にロックした。7人がそれぞれの思いを胸に大陸へ別れを告げれば、乗船は終わった。


「どうやって海に浮かべるんですか?」


 一二三の問いかけには、「心配ない。セドールがいる」と巌流が答える。

 彼が言うと、セドールが額を船尾に押しつけ、ジワジワと船を海へと押し出した。船首が紅い波を受け始める。

 いよいよと海へ浮かんだ船からセドールが後方へ下がった。それから勢いよく跳ぶと、後方デッキへ着地した。大きく揺れるかと思われた船はたいした衝撃も受けず、その軽業(かるわざ)にシュルケンが目を見張る。それはまるで体術を極限まで高めた忍びのようだと。


 すべてが乗り込んだ船で、パーティーメンバーが前方の甲板に集合した。

 巌流が、なぜか大きな木製の樽を抱えている。


「という訳で、進水式だ。この酒は船を護り、航海の無事を祈るものだ」


 そう言うと逞しい腕で背を向けて歩き出し、身を乗り出して船首へ思いきり酒樽を叩きつけた。酒樽は木っ端微塵に割れ飛んで、薄っすらとセピア色の酒を撒き散らした。


「いざ、出航だ!!」




うっかり、連続投稿してしまいました。

まあ、ちょうどキリがいい話なので明日の分も込めて。

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