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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第三章・異世界突入編

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74・レアメタルを探せ


 昨夜の賑わいを堪能した者たちが、順に目覚めていった。



「ヒフミンだ! おはもーにん!」


 亜空間が消えると、ユルエが声をかけてきた。

 寝るのが遅かった一二三は、砂地に敷いた薄布の上で目を覚ましたところだった。


「おはようございます。ユルエさん、早いですね」

『どくっぴ! 食べたら朝から死ぬよ!』


 コイツばかりは、いつ寝ているのか分からない。それがベルモットの不眠症の原因だ。


「ヒフミンが遅いだけなんだけど。もう皆、朝のランニングに出ちゃってるよ?」


 ユルエはキッチンカーで鍋をかき混ぜてみせる。


「ランニング? そんなの、やってましたっけ?」

『どくっぴ! 食後に食べても死ぬよ!』

「ガンガンがね、あ、ヤバ。ガンリュウさんがね、ノンノンとかフォーミュらんにも基礎体力つけろってさぁ。ヒフミンも早く、皆が戻ってくる前に頭から水被って『素振り500回で汗だくですよ!』って顔してなきゃ」

「しませんよ。見え見えのズルは。じゃあ僕、素振りしてますんで」


 一二三の背中を見送るユルエが、弟を見るかのように目を細めた。



 ランニングから帰った5人。香月と花音は両脚を投げ出してへたり込んでいた。


「おいフォーミュラ。飲み水がねえぞ。へたってないで、仕事はこなせよ」

「は……はい。今から……」


 花音はといえば、ハードなランニング中もランドセルを背負っていた。いつダックスの声が聞けるかと、手放せなかったからだ。たまに一人で呟いたかと思えば、「ダックス――」その名前しか口にしない。



 朝食は軽く、シュルケンが調達してくる『闇青麦(やみあおむぎ)(本人命名』の中華粥(ちゅうかがゆ)で済ませた。異世界での食事は、その場その場での食料調達から始まる。その調達にあえてユルエを伴わせる理由は一つだった。彼女の選んだモノは絶対に食べられないことがお墨付きなのだ。


 食事のあとは香月が亜空間を再展開するのが普通だったが、今日は違った。

「必要ない」と言ったのは巌流だ。


「今日から、別大陸に移動する準備に入る。セドールが言うには、ここから一番近いのは『ワンダンズグル』という大陸らしい。言っておくが、魔物の強さはレベルが違う。獣人型のモンスターは、陣形を作って襲ってきたりもする。いいな、ヒフミ」

「はい」


 そんな個別の指示がなされる中、香月の質問は妥当なものだったろう。


「別大陸といえば、海を渡るんですよね。船がいると思うんですが。もしかして、えーっと、今から作るんですか?」


 彼女なりの、苦笑いを混ぜたジョークだったが、


「理解が早くて助かる」


 まさかの返答だった。ベルモットが、これもまた当然の顔で言い放った。


「設計図はオレの頭の中だ。お前らは一日がかりで資材調達だからな」


 そうは言うが、一同は辺りを見回して困惑する。それに値するものが見当たらない。見渡す限り、砂の荒野なのだから。


「とにかく、ここに砂の山を作れ。この付近の砂の30センチメートルほど下は、鉱物が多く混じっている地層がある。だからこそ、昨夜からここにキャンプを張ってるんだ」


 いま一度、一同が周囲を見渡す。


「さすれば拙者に名案があるでござるよ。セドール殿の大きな足で掘り起こしていただければ――」


 昨夜からスフィンクスの彫像のごとく動かなかったセドールが首を動かして、大きな赤い目をシュルケンへと好戦的に向けた。


「我ハ戦士ガ()()ル馬。野良仕事ナド誇リガ許サヌ」


 ひと睨みで、シュルケンが黙った。


「分かったな。今からベルの指示で、鉱物性の砂を掘り出してここに集めろ。いくらベルとはいえ、その量の資材を一か所に集めるのは至難の(わざ)だ。コイツを死にかけにしたくなかったら、お前らが必死になって励め。そのための仲間じゃないのか」


 一同が黙った。



「そこにシャベルを用意しといたからよ。オレにも、少し楽させてくれ」

「だよねぇ。でも船作るとか、どんだけオッパイでっかくなるんだろ。チョー楽しみなんだけど」


 まずはユルエがシャベルを握って歩き出した。他も続くしかない。


「おい妹。お前はムリしなくていいんだぞ」


 ベルモットの言葉に、しかし花音はランドセルへ向かい、小さなスコップを手にして戻った。



 まず初めのつまづき――。掘っては崩れ、掘っては崩れるアリジゴク状態に手こずる3人だった。花音は小さなスコップで、穴は小さいが地道に掘り進めている。


 なかなか作業の進まない一二三、シュルケン、香月、ユルエへ、ベルモットの声が飛ぶ。


「おい能無しども。ちったあ頭使えよ。妹を見てみろ」


 額に汗する4人が花音を見ると、彼女は砂地に水を撒き、しっかりと地を固めてから着実に掘り進めている。


 能無し4人は顔を見合わせて、その手法を真似る。

 やがてシュルケンが、


「ベル殿。どうやらこの辺りがそのようですな」

「あー、そうだな。じゃあその辺。バケツ300杯な」


 軽く言った。


「ベルさん。50センチくらい掘ったんですけど、それっぽいの見つからないですよ」

「そういう時はあきらめて、場所移動だ」

「はあ……」


 気温が上がってゆく中、誰もが汗にまみれ始めた。掘り出した砂山は、まだバケツ200杯分ほどだ。しかもベルモットが言うには、その半分し使えないという。


「ダメです、ベルモットさん。なんかこれ以上は見つかる気がしません」

「あのなあ。これは一つの訓練なんだ。得意分野以外でも勘を研ぎ澄ませて鉱脈を探すんだ。文句言わずに続けてろ。少しずつ要領が分かってくる」

「要領ですか。分かんないなあ――」


 悩みつつも穴を掘り進めるしかない一二三の横へ、不意に花音がやってきた。


「兄ちゃん、そこじゃない。私の掘ったとこ、もっと広げて」

「あそこか?」

「うん」


 それを告げると、花音はランドセルに戻ってゴソゴソと始めた。そして手に何かをぶら下げて一帯を歩き回り始める。


「カヅキさんはここ」

「はあ――」

「ユルエさん、こっち」

「そなの?」


 次々に指示を出し始めた。花音が手にしているのは、タコ糸でぶら下げられたU字磁石だ。

 ベルモットが静かに感心する。


(ほお。なるほど、ダウジングか)


 花音の指示は的確で、それからは鉱物純度の高い砂山が次々と積まれていった。

 また2時間が過ぎた。


「ベルモットさん――」


 何かを見つけたのか、小さな声で彼女を呼んだのは花音だ。


「どうした妹」


 ベルモットが覗きにゆくと、花音は掘っていた穴を指差した。ベルモットの顔つきが変わる。そしてすぐに右手をかざした。


「マテリアル――」


 5秒もしただろうか。急にベルモットが4人へ招集をかけた。


「オメエら! 今からここに一極集中だ! でかしたな妹、すげえレアメタルだ」



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