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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第三章・異世界突入編

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73・寄生惑星


 巌流の帰還は、ベルモットに遅れること1時間ほどだった。カエルの湖から数えること、実に22日間ぶりの再会だ。


「ヒフミ、よく凌いでくれた。(たくま)しくなったな」


 巌流は日に焼けたような肌の黒さで快活に笑うと、一二三の肩を両手で叩いた。


「お久しぶりです――っていうか。そのオオカミですけどやっぱり――」

「忘れたか。俺の馬だ。セドールだ」

「それもまたちょっと――。いや、いいんです。お帰りなさい、師匠」


(今さらツッコむところじゃないよな……)


 落ち着き始めた顔ぶれを、真のリーダーが見回す。


「お前らも、ヒフミを支えてくれて感謝する。シュルケン、ゲートの逆さ(くぐ)りをしたそうだな。何か変わったか」

「いやあ、特に実感はないでござるが」

「そうか。しかし実践では何かとてつもないことが起こるかもしれない。その時を楽しみにしよう」


 そんな彼へ、香月が少し涙ぐみながら前へ出る。


「無事で何よりでした――」

「ああ、お前もな」


 さながら、戦場から帰った父を迎える娘の顔だった。



 それから何か大きな報告でもあるかと思わせて、しかし、ただの夕食会が始まっただけだった。

 巌流が抱えてきた大きな樽は酒だと聞いたが、3人ほどが(未成年でよかった)と、ホッとため息をついていた。彼が手にした木製のジョッキからは、絶えず謎の煙が立っていた。


「ユルエ、そのリザードは塩抜きしておいた。適当に(あぶ)ってくれ」

「はい! よろこんで!」


 久しぶりに勢揃いの食事を作るユルエは、心の底から嬉しそうだった。キッチンカーが大型化したのは、ゲートの効果なのかもしれない。

 リザードの塩漬け肉は誰もに好評だったが、やはり香月が口にしない。


「なるほど。亜空間へ消える茶か――」

「はい。私が展開できるモノとは少し違って、その個人だけを包むような不思議なモノでした」

「でね、フォーミュらんが暴走して、『気をつけ! 全体斜め後ろへ! そこ! 気合が足らん! おいテメエふざけてんのか廊下に立ってなさい!』とか仕切り始めて」

「言ってません!」


 思い出したくなかったのか、香月が顔を赤くした。


「んで、挙句にモンスター治療か。博愛主義もここに極まれりだな」


 ベルモットの軽口にユルエが助け舟を出したかったのか、刺客を差し向けた。


『僕、どくっぴ! お酒がだいすき!』

「うっわ! ユルエ、放し飼いにすんな! ガンリュウ、バカやめろ! 酒なんか飲ますな!!」


 浅川でのテント生活が戻ったような賑やかさだったが、花音だけは場を離れて、抱えたランドセルを覗きこんでいた。


「カノン、少し食べろよ。お前が食べたかった肉だぞ。ちょっと硬いけど、牛肉みたいで美味しいから」

「うん。あとで」


 一二三が声をかければ返事は返してくれるが、あとは取りつく島がない。


「妹も潜ったつったな――裏から」


 ベルモットが生焼けの肉に指先で炎を吹きつけながら、こっそりでもなく呟いた。


「でも、ただの伝説なんでしょう。それよりも――」


 一二三は、花音がまくし立てるように発していた謎の言葉――ダックスが言うところの『パスワード』の話を打ち明けたかった。が、さすがにその場では口にできなかった。


「ガンリュウさん、あとで話があるんですけど」

「ああ。俺もある」

「じゃあ、あんまり酔わないでくださいね」

「心配するな、酒では酔わない。俺が酔うのは、戦場で刀がぶつかり合う時の音だけだ」


 侍という人種は、時にとんでもなく恥ずかしい台詞を平気で口にする。それだけは一二三にも真似ができない。




 誰もが寝静まり、空に星でも浮かべば最高の夜だった。


「パスワード。それをカノンが口にしたと」

「カノンが喋ってる感じじゃなかったんです。カノンの口から別の誰かの声が聞こえてくるような。意味は、ぜんぜん分かりませんでした」


 一二三と巌流は亜空間の外。見晴らしのいい丘陵地帯で、コーヒーにゆっくりとミルクを垂らしてゆくような、渦巻く空の下に立っていた。褐色の砂地に、真っ赤な草が生えている。背中では、巌流への忠誠を誓ったセドールが大きな身体でピクリともせず座り込んでいた。


 巌流は一二三の言葉を動じることなく聞いたあと、


「俺からはカヅキの故郷・惑星ユーカスティスと、このマルズ星の話をしたい」

「惑星移住計画が、あったんですよね。でも、あきらめたって。仕方ないですよ、こんな物騒な星ですから」

「いや。カヅキの巻き込まれた大規模戦争でも、惑星ユーカスティスは滅んだ訳ではなかった。そして、汚染されて住めなくなった惑星ユーカスティスよりも、このマルズ星の方がマシだと考えた者たちがいたらしい」


 巌流は刀を傍らに置いて座り込んだ。一二三もそれに(なら)う。


「カヅキさんの暮らしてた惑星人たちが、マルズ星に移り住んだってことですか?」

「400年以上前のことだったらしい。そして今、俺たちはその400年後のマルズ星にいる。過去や未来の時間のもつれというのは、大方(おおかた)ベルから教わった。理解はできたつもりだ。身をもって信じたということだな」

「待ってください。その移住したユーカスティスの人たちって、今も――」

「生きている。この星のどこかにな」


 香月の生まれ故郷の子孫が、この星にいる。それが彼女にとって喜ばしいことなのか、一二三には測りかねた。


「教えるんですか、香月さんに」

「先に教えて失望させるか、あとから自分で知って絶望するか。ユーカスティスの人々は、新天地としたこの地にあっても戦を繰り返した。魔物の討伐勢力が、二つに割れたらしい。よその星を奪っておいて、さらに内輪で、また領土の奪い合いを始めたというのだ」


 巌流の目は、遠い地平の先に何かを見据えている。すぐそこに、何かの終わりと始まりが見えているかのように。


「ユーカスティス二つの勢力は、やがて戦乱を終えて一つの国家を成した。この魔物の国を本格的に住みよい場所へと変えてゆこうとした。そしてもちろん、先に住んでいた魔物の抵抗も止まないままだ」

「それが、400年も続いてるってことですか?」

「そうだ。そして、それを終わらせようとしている連中がいる。ユーカスティス人はな、地球規模の転移という途方もない現実に恐れを見せるよりも、そこに希望を見つけたのだ。400年で劇的なまでに進歩した知恵と技術で、大規模な時空移転の方法を得ようとしている」


 巌流は、着物の(ふところ)から何かを取り出して口へ放った。ガリっと噛むと、一二三にも一粒を手渡す。


「なんですか、これ」

「キショウゲツという花の種だ。美味くはないが、気分が安らぐ」

「はあ――」


 一二三はカリカリに乾いた梅干しの種のようなものを口へ入れて噛んだ。苦みと酸味があり、言われた通りで美味くもない。


「寄生生物というのを知っているか」

「え? えっと、他の生物にくっついて……。なんていうか、賢く生きてる虫とか、そういうのですか?」


 そんな言葉が巌流の口から出てくるとは思っていなかった一二三が、頭の中で昔の教科書を開いてみる。


「共生という、和をもってして共存する生物もいる。が、マルズ星に生き残るユーカスティスの人々は、それを望んでいない。結果、選択として、このマルズ星丸ごとを他の星に転移させて寄生しようと企んでいる」

「星ごとですか?」

「驚かなくてもいいだろう。俺たちの地球という星がすでにそうなっている。そしてまた、ミカンの皮を剥かれたままの地球の芯は、丸裸でどこかに浮かんでいる」


 口の中に広がる苦みを飲み込んだ一二三に、恐ろしい未来が浮かぶ。


「もしかして……ユーカスティスの人たちは……」


 身震いもできない一二三へ、巌流が答える。


「マルズ星を星ごと転移させて、そこへ寄生させようと考えている。今度は地球が乗っ取られる番だ。まあ、すべてベルモットの言葉だからな。詳しくは俺にもよく分からない。ただ事実はひとつ、俺たちが帰る場所がなくなるのだ。指をくわえて眺めていられる現実じゃないだろう」


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