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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第三章・異世界突入編

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72・苦渋の選択


「おい! ダックス!」


 一二三の問いかけも虚しく、ダックスはそれ以上、何も答えなかった。



 そこで、うわ言を口走っていた花音が、か細く声を漏らした。


「ダックス……。私、帰れるの……? お家に、学校に、帰れるの? そこに、あなたはいるの?」


(あるじ)、カノン。(おもむ)くままに選べばよい――』


「でも……。でも、そこにいるのは、あなたじゃないダックスなんでしょ?」


『主、カノン。我が身は今この世界にあり――。我は主を守護する者なり――』



 そんな重大事実の中、やはりどうしても黙っていられない人物がいた。


「強くなるの? じゃあ私、裏口入学!」


 ユルエが門をくぐってしまった。『たまごっぴ』がレベルアップ的な音を立てた。


「ユルエさん! 勝手に何してるんですか! ダックスは花音さんのために言ったんですよ!」


 しかし、どうやらそうではなかった。


『前世への転生を求める者よ、ゲートを前から潜れ。力を求める者よ、ゲートを逆に潜れ――』


 その声は止まない。


「どうやら、拙者どもは試されているらしいでござるな」

「試されてるって――」

「ヒフミ殿。これは千載一遇(せんざいいちぐう)の好機ではござらぬか。拙者もとより、戻るつもりなど毛頭(もうとう)なし! ならば力を授け給え!」


 シュルケンが、ユルエと同じく門を後ろから潜った。


「ちょっと、シュルケンさんまで!!」


 香月が止める間もなかった。そして、香月に抱かれていた花音がおもむろに立ち上がる。


「カノンさん?」


 花音がゆっくりと門柱へ向かう。一歩ずつ、よろめきながらも。


「私……帰らない。ダックスと一緒じゃなきゃ帰らない……」


 その動きは緩慢(かんまん)だったが、花音の意志が誰もの手出しを拒んだ。やがて花音が門を裏から潜ると同時に光が消えた。石造りの門と共に。


「カノン……」


 どうにか動き出せた一二三が、今にも倒れそうな花音へ駆け寄る。


「お前は帰っても……。帰ってもよかったのに……」


 座り込んだ一二三の肩に、花音がもたれかかる。


「兄ちゃん、シャバいって。それは『帰る』って言わない。『逃げる』って言うの――」


 そして安らかな笑みと共に、兄の肩で眠り始めた。



 ツキヨタケゾーンは極力息を止めて、全員が洞窟の外へ脱出した。暗黒のはずの魔界の空が、眩しく思えるほどだった。


「どくっぴぃ! 元気してたぁ!?」

『僕、どくっぴ! 食べたら死ぬよ!』


 その激しい抱擁には目を向けず、憔悴(しょうすい)していたのは一二三と香月だった。


「私、なんだかもう。ダックスのことが分からなくなってきました」

「ですよ。主なんて呼びながら、なんで出てこないんだよ。花音はこんなに待ってるのに――」


 その(かたわ)ら、シュルケンは自分の身体を撫でまわしている。


「んー。何が変わったという雰囲気はないでござるが――」


 いい加減に、といった、香月の雷が落ちる。


「ユルエさんもシュルケンさんも、軽率過ぎです! なんで、あんな勝手なことするんですか! 何かの罠だって、思わなかったんですか!」


 その通りだった。それでも、リーダーのひと言は必要な空気だ。


「フォーミュラさん。終わったことは、終わったことですよ。カノンは無事みたいなんで」

「そんなベルモットさんみたいな理屈は通りません!! なんですかヒフミさん! ガンリュウさんとかベルモットさんとかの、あのヘンなところだけ意識して真似なんかして!」

「ヘンってなんですか! それに真似なんてしてません!」

「そうだな。オレの物真似だったら、もうちょっとカッコよく決めてくれねえと――」


 見るに()えない夫婦喧嘩のようなやり取りに、乱入者があった。


「べ――ベルさん!?」

「よお。ちったぁ強くなったか。巌流のオッサンも、ボチボチ来るそうだ」


 フードを上げてブロンドの髪をなびかせるのは間違えようもない、ベルモット・オルウェーズその人だった。いつも以上の皮肉っぽい笑顔が輝いている。感動の再会というのはなかなか上手くいかないもので、まずは恥をさらしただけの一二三と香月だった。


「うわああい! ベルモっちぃぃぃっ!」


 ボディプレスよろしく飛び込んでくるユルエに、ベルモットが応える。


「おおユルエ。なんか女らしさが増したんじゃねえか? 男どもにこき使われてなかったか?」

『うん! 僕、どくっぴ! 食べたら死ぬよ!』


 ベルモットの目が真っ赤に光り、13メートルほど飛びのいた。


「おままままま――お前! なななななななん! なんでいやがる! おいユルエ! どういうことだあっ!! 説明しろぉっ!!」

「んー。私、ゆるっぴ。ゆるしてくれっぴ」

「許すかあっ! ダメだ、オレもう帰る。おいヒフミ、あとはよろしくな」


 いろいろと台無しだ。


「ベルさん落ち着いてください。こんなキノコなんかどうでもいいくらいの大事件なんですよ」

「はあっ!? どうでもよかねえだろ! 毒キノコだぞ! 猛毒だぞ! オメエら、あの時のこと――ああっ! 思い出したくねえっ! ユルエ、お前すぐ捨ててこい。じゃなきゃ、オレが焼き尽くす」

『僕、どくっぴ! 焼いても食べられるよ! 死ぬよ!』

「……」



 とりあえずユルエと『どくっぴ』を亜空間へ押しやって、ようやく話が始まる。


「はあ、ゲートか。ここにもあったんだな」


 ベルモットは、涼しい顔で言い放った。


「知ってたんですか! どうして教えてくれなかったんですか!」

「待て待て。オレたちは、そいつを確かめるための別行動だったんだ。セドールの話じゃ1000年も前の記憶だって、それが胡散臭(うさんく)くってよお。そんな不正確な情報じゃ、伝えられねえだろ。第一に、傍には必ず強力なゲートキーパーがいるってウワサで――ちくしょう、アイツだったか」


 亜空間からユルエが顔を出す。


「ボクゆるっぴ! よろしくね、べるもっぴ!」

「うるせえ! 出てくんな!」


 うっかり聞き逃してしまいそうだった彼女のセリフに、香月が問いただす顔になった。


「ベルモットさん。『ここにも』って言いましたよね? 他にもあったってことですか?」

「あー、そういうこった」

「その上でベルモットさんもガンリュウさんもいるってことは、裏から潜ったんですか?」


 ベルモットはつまらない話をする時の顔で、


「ああ、とりあえずは試しにな。オッサンは、どっちも断ったが。侍ってのは面倒臭えな。強くなりたいくせに、そういう時に見栄(みえ)を張る」


 一二三が質問を追いかける。


「じゃあベルモットさん、何か新しい錬金術とか手に入れたんですか?」

「いや、別に何もねえ。古い口伝(くでん)ってのは、尾ひれがついて大げさな話になるんだろう。もっとも『現世に帰る』ってのは証明できなかったが。ゲートってのは、ある程度の時間で消えちまうみたいだ。本物だったとして、一度に裏から表から何回も行き来できる代物じゃないだろ。できるなら、とんだイカサマだ」


 バカバカしそうに吐き捨てると、次に声色を変えた。


「妹は。様子はどうなんだ」

「眠ってます。苦しそうとか、そういうのはないです。よく寝てる、って感じです」

「それならいい。ただし、あの犬コロも信用できなくなったって訳だな」



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