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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第三章・異世界突入編

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71・花音のタカラ


「ヒフミさん。地図では、ここから先の詳しいことは分かりません」


 いかにも怪しげな洞窟の前に、5人で立ちつくしていた。ラルシステムでも調査不能領域らしい。


「進むしかありません! 僕が先頭を歩きます! 皆ついてきてください!」


 何らかの火がついた一二三は止められない。リーダーが進むと言えば、従うのみだ。


 しかし――。


「真っ暗闇でござるな。拙者は多少、夜目が利きますが」

「そうですね……。手探りだけじゃ、ちょっと怖いです」

「そんな時はコレ! チャララチャッチャラー♪♪」


 最後尾のユルエが何か取り出した。


「ユルエ殿? 何でござるか?」

「特性濃縮・ツキヨタケスプレー!」


 言うが早いか、まき散らし始めた。ぼんやりとした明かりが洞窟を照らす。


「ユルエさん、いつの間にそんなモノを!? なんだかゾクゾクします!」

「カヅキ殿! 感心している場合じゃないでござる! 毒キノコの毒霧でござるよ! 早く前へ!」

「やだやだ! 死んじゃう!」花音も必死だ。

「ツキヨタケー!」ユルエのスプレーが止まらない。


 猛毒から命からがら逃れて行き止まり。洞窟の奥では、ツキヨタケよりも明るく光るものが見えた。


「あれが、宝物――」


 実はその場のノリだけ、眉唾でやってきた一二三もゴクリと息を飲んだ。

 香月も同じくだったが、観察角度は違った。


「何か、動いてませんか?」


 花音も続く。


「あの小さいお爺さん、言ってなかった? 怖い魔物が出るって……」


 花音の言葉は静かな予言だった。確かにそこへ、すべてを恐怖のどん底へ突き落す恐ろしい声が響き渡ったのだ。



『僕、どくっぴ! 食べたら死ぬよ!』



 踊るキノコに、まずはユルエが飛びついた。


「どくっぴー! 会いたかったよぉー!」

『どくっぴ! どくっぴ!』


 ユルエと『どくっぴ』、感動の再会だった。だがもちろん、キノコ狩りの恐怖がよみがえった面々が後ずさりを始める。


「前方も、猛毒! 後方も猛毒! もはや逃れられぬ!」

「ユルエさん! キノコに抱きつかないでください! なんだか胞子みたいなのが飛んでます!」

「ダメだあ。この人たちダメだあ」

「え? なに? これ何なの?」


 一二三だけが混乱している。決して、毒にやられた訳ではなかったが。


 しかし、余興はそこまでだった。次なる声に、今度こそ5人が黙った。



『主、カノン――』



 誰にも忘れられない、深く力強い声はダックスのものだった。

 もちろん、慌てんばかりの花音が四方を見回す。


「ダックス!? ダックスなの!? どこ!?」


 しかし、声は聞こえるが姿はない。

 必死に洞窟をはい回る花音へ、香月が声をかけた。


「カノンさん! そのランドセル!」


 声の主は、花音の背負ったランドセルだった。


『主、カノン。そなたの無事を喜ぶ――』

 急いでランドセルを下した花音が、その箱を開けた。眩しい、緑色の輝きが洞窟を照らす。


「ダックス……」


 信じられないものを見る顔で、彼女はランドセルを覗きこむ。その影が、洞窟の壁にくっきりと映し出された。


『主、カノン。第1のパスワードを唱えよ――』


 パスワード? と反応したのは4人。そして花音だけが黙り込んだ。黙り込んだあと、ランドセルを抱いたまま、何かに取り憑かれたようにブツブツと呟き始めた。


「……מן נפלא, יקום נפלא, פתחו את הדלת עכשיו.  זמן נפלא, יקום נפלא, פתחו את הדלת עכשיו. …………」


「ど……どうしたカノン? ダックスと話してるのか?」


 花音の目は大きく開かれたまま、呪文のような声が終わらない。緑の光は花音の瞳、そのものの色まで染めてゆく。


「אלו השבים לגן עדן ואלו המחפשים כוח נכנסים דרך שער גדול זה.」


 奇妙だった。その意味の分からない言葉はもちろんのこと、それは何かを逆再生させたような響きに聞こえていた。


 身動きも問いかけも忘れていた4人が気づけば、いつの間にか洞窟は広さを増し、荘厳な石造りの巨大な門が建っていた。


 花音がガクリと、その細い身体を倒した。


「カノンさん!」


「ダックス……ダックス…………」


 すんでのところで香月の腕に抱えられて、花音はうわ言のようにダックスの名前を呼ぶ。

 香月が、見えないダックスに向かって呼びかける。


「ダックスなの!? いるのなら、出てきてあげてください! カノンさん、ずっとあなたのこと心配してたんですよ!?」


 しかし、ダックスの声は香月に答えない。その代わりに、こう答えた。


『門は開いた。前世への転生を求める者よ。ゲートを前から(くぐ)れ――』


 衝撃が走る。前世への転生――ダックスの声は、そう告げた。しかしその直後に、こうも告げた。


『力を求める者よ。ゲートを逆に潜れ――』と。


 誰もの理解が及ばない。及ぶはずもない。緑の輝きの中で、巨大な石造りの門に刻まれた複雑な模様が、くっきりと影を見せている。

 一二三も堪らず、


「ダックス! どういうことだよ! これを潜れば、元の世界に戻れるのか!?」


『前世への転生を求める者よ、ゲートを前から潜れ。力を求める者よ、ゲートを逆に潜れ――』


 ダックスは繰り返すだけだった。

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