64・対策会議
「ウソを吐いているようには、見えなかったでござるな」
亜空間へ戻ると、ユルエと花音は安らかに眠っていた。その寝顔を守れたことが、一二三には何よりだった。
「でも襲撃予告なんて、そっちの方がウソであってほしいですよ。何のつもりなんだろ」
それには3人で黙り込む。打ち寄せる漆黒の波の音。怪しく渦を巻く空。外の景色が丸見えなだけに、マルズ星の夜が3人の不安を駆り立てる。
戦闘指揮は一二三が取らなければならない。確かなことは、それだけだった。
「こちらから出ましょう。ガンリュウさんなら、そう言うはずです」
「仕掛けるでござるか? しかし、敵の数は7人。真っ向勝負では敗色しか見えぬでござるが」
「だからですよ。まずは、その7人を少しでも減らすことです。フォーミュラさん、さっきの一時拘束は複数同時でも対応できるんですか?」
香月が自信なさげに答える。
「あれは本来、戦闘用ではないんです。あくまで、取り乱した患者さんを一時的に拘束するだけのモノなので」
「それでもいいです。できる限り、数を制圧してください。そしてシュルケンさん」
「はっ。いかがしましょう」
彼が見つめ返すが、一二三には言い出しにくいことだった。
「何も、しないでください」
「な、何もしないのでござるか!?」
「はい。多勢に無勢で挑む中に何もしない、というのが肝心なんです。先鋒、次鋒が闘う中で、大将はじっと静かに構えている。それが敵に戸惑いを生みます。何かを隠しているんじゃないかと、思い込ませるんです」
なるほど、と頷くには難しいものがあった。
「しかし、窮地の時にも黙っていろと言うでござるか? それは拙者も耐えられませぬ」
「ええ。ですから形勢を見て、影分身で数を増やしてください。シュルケンさんって、影分身が手裏剣を投げることはできますか?」
「それは――拙者が投げれば影も投げるでござるが、それもまた消える影でござる。その上に拙者の手裏剣は悲しいかな、的に当たり申さぬ」
一二三はそこから、一気に作戦を話し始める。
「いいんです。とにかくシュルケンさんは敵をかく乱してください。『バカにしているのか』って思わせるくらいに。それからユルエさんにも手伝ってもらいます」
「ゆ、ユルエさんにですか!?」
思わず香月が声を上げた。ユルエがムニャムニャと寝返りを打つ。
「戦う訳じゃありません。後ろの方でお湯でも沸かしててもらいます」
「「はあ……」」
そこから話す一二三の作戦は、2人をますます困惑させるものだった。
「明日1日、時間はあります。皆で何度もシミュレーションしましょう」
翌日から、襲撃への対抗策に向けて、特訓が始まった。
「まずはユルエさん。海から汲み上げた水をフォーミュラさんに浄化してもらったあと、水1リットルに対して食塩を小さじ10杯入れて煮立ててください」
「えー、美味しくなさそー」
それから一二三はメモを読み上げる。
「カノン。お前は向こうの方で穴掘ってろ」
「何それ、すごく嫌なんだけど」
「学校で栽培係やってんだろ。ヒマワリの種を植えるくらいの気分でいいから。直径1メートルの穴で、間隔を空けて10か所くらい。深く掘らなくていいから」
「すっごい嫌なんだけど」
言いつつ、手にスコップを持って歩いていった。スコップはランドセルの中に入っていた。
「それからシュルケンさんは、ひたすら海に向かって手裏剣の練習しててください。影分身のままですよ」
「仕った!」
それで――と繋ぎ、
「フォーミュラさん。こればかりは失敗できませんけど。大丈夫ですか」
「大丈夫というか、そういう使い方はやったことがないので……」
「だから特訓なんですよ」
「そう、ですね。やってみなきゃ分からないですからね。私、頑張ります!」
いつか巌流は一二三に言った。「戦とは壮大な騙し合い」だと。一二三はその言葉を信じて、策を練り上げるだけだった。持てる限りの『兵法』で。
次回の展開は、ぜひとも読んでほしい1話です。
一二三の『兵法』がさく裂します。
よろしくです!




