表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/73

62・若きリーダーの決意


 煙る地平線の先。見る間に遠くなっらオオカミの姿に、ヒフミは絶望しかなかった。この魔物が住む世界で、最強の両翼(りょうよく)を失ったパーティーのリーダーを務めなければならなくなったのだから。しかも、何をどうするべきかが分からない。まったく思い浮かばない。


 巌流は「(しの)ぐだけでいい」と告げた。このモンスターの跋扈(ばっこ)する世界で、その「凌ぐだけ」がどれほど困難であるかを思えば、ひざをついて力が抜けてゆくばかりだ。途方もない絶望だった。


「ヒフミ殿――」


 背後にシュルケンが立った。


「これはきっと、ガンリュウ殿の最適の選択。間違ってはいないと思うでござるよ」

「そんなこと言われても僕……」

「仲間ではござらぬか。何もすべてをヒフミ殿に任せるつもりはないでござる。拙者のことは信用できぬでござるか?」


 そんな明らかな慰めに、香月も責任を感じて続く。


「ヒフミさん。私のラルシステムも同期した世界です。危険はすばやく察知して移動すれば、きっと大丈夫です。2人が帰るまで、皆で力を合わせましょう!」


 そう励ますしかなかった。それほどまでに一二三は自信を失っている。


「ヒフミン。特訓、特訓。サボんなかったら木も倒れる!」


 ユルエまでもが気を遣った。


「兄ちゃん……」


 隠さない不安が、花音の声からも伝わる。守ると決意した自分の心が、結局は巌流たちの力を頼ったものだったのだと知った今、どれほどの強気な言葉も出てこない。


 動き出さない一二三の前に立ったのは、花音だ。次の瞬間、ヒフミの左頬が弾かれた。


「兄ちゃん! 頼まれたんだよ? あんなすごい人たちに任されたんだよ? 逃げるの? それでいいの? そんな弱い兄ちゃんならいらない! 私は一人でもダックスを探しに行く!」


 そう激しく怒りをあらわにすると、花音は本当に背を向けて岬を離れ始めた。


「ダメですノンさん! 戻ってください! お願いですヒフミさん、私だって力になります。立ち上がってください。あなたが私たちの、新しいリーダーなんですから」


 一人歩き出す花音へ、そして一二三へ、ユルエがゆるく声をかける。


「ノンノン。お弁当作ってあげるから、ちょっと待っててぇ。あと3日くらいで、美味しいの作ってあげるからさぁ。タコさんウィンナー作るし? だからヒフミン、タコ釣りよろしく」


 あれ以来、何度となく(くじ)けてきた一二三が、持ちこたえるために立ち上がる。この苦境(くきょう)の中で、自分が負けるころは許されないのだと。リーダーなどという、恐れ多いものになれる自信はない。それでも誰かが、このパーティーをまとめ上げなければならない。「一人でもダックスを探しにゆく」と言う妹の決意に負けていていいのかと、言葉だけで自分を奮い立たせるしかなかった。


 緩々(ゆるゆる)とではあったが、一二三は立ち上がる。


「僕が、リーダーを(つと)めます。シュルケンさん、僕に力を貸してください。カヅキさん、知恵を貸してください。カノン、兄ちゃんは負けない。だから、ダックスは皆で探そう。皆、集まってください」


 決意した一二三のもとへ、まずシュルケンが近づいた。ユルエも加わり花音へ手招きをする。間があり、こちらも何かを決意した顔で花音が戻ってくる。


「僕は誓います。巌流さんたちが戻るまで、僕はもっと強くなります。だから、この手に皆の手を重ねてください」


 一二三は場の中央に右手を差し出した。香月がその手に右手を重ね、花音の手を取り自分の手へ重ねた。その上に、包み込むようにしてユルエが手を置く。最後に、


「さて、頼もしくなってきたでござる。拙者、命を()して闘い抜きましょう」

 シュルケンが手のひらを重ねる。5人の手が重なれば一二三が左手を乗せて、すべてをまとめた。


「5人もいるんです。僕たちは、負けません!」


 5人分の手のひらが大きく跳ねると、誰もが頭上で拳を握りしめた――。



 再生成された香月の亜空間は10時間後に消える。その中で誰もがそれぞれの思惑(おもわく)を抱いて、ひと時の眠りに就こうとした、その時だ。警戒していた香月が叫んだ。


「ヒフミさん! 何か近づいてきます。エネルギー反応は一つ!」


 一二三は横たえたばかりの身体を素早く起こした。


「カヅキさんとユルエさん、カノンはここにいてください。シュルケンさん、僕らで打って出ましょう」

「仕った」


 が、開いたラルシステムをそのまま、香月が立ち上がった。


「いえ、私もいきます。戦力にはなりませんが、何かの役には立ってみせますから」


 3人が目くばせを交わす。。


「分かりました。行きましょう」


 亜空間の外へ出ると、確かに目に見えてこちらへ近づく者がいた。



「よーお、探したぜ。亜空間なんか作ったのが裏目に出たなあ。お陰で楽に補足できた」



 忘れもしない、伊藤一刀斎(いっとうさい)が長い刀を腰に差して足音も隠さず現れた。


ストックを放出しましたので、明日からは時刻不定で投稿します。

でもなんとか1日1話を目標で!

よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ