56・バカ班
「主殿! ご無事で何よりでござった!!」
「おほほ。くるしゅうない、くるしゅうないぞよ」
一二三班、巌流班から遥か遠く、黒い砂塵の舞う砂丘地帯に飛ばされたのはユルエとシュルケンだった。広大な大陸の端から端までの距離だった。
「して、主殿。どこかお傷などありませぬか。痛むところなど」
「おほほほほ、くるしゅうないぞよ」
「それは何よりでござった。拙者、皆とはぐれた時にはどうなることかと」
「おほほほほ。それでケンケン。ここ、どこ?」
砂丘だ。低い灰色の空の下に、砂鉄のような真っ黒な砂山だけが続いていた。ただ一つ、小さな岩がそこにあるだけ。
「はあ。それが皆目見当もつかぬでござる。誰がどこにいるのやら、果たして皆は無事なのか。しかし主殿、心配召さるなでござる。必ずや拙者がお護り通し、晴れて他の者たちとの再会にいたると約束申す!」
とは言ってみるものの、まったく当てはない。当然だ、どこを見回しても砂の山。それを越えたとして、またその先に何があるやらだ。
2時間後――。
「ねーえ、ケンケン。のど乾いたしぃ。コンビニ探してきて」
「はあ、コンビニでござるか。かなり歩いたでござるが、それらしきものは」
また延々と1時間、ひたすらに真っ直ぐに歩くだけだった。その道中、何か見えればそこへ向かう。それ以外に手立てがなかったのだ。
「あれえ。私、『たまごっぴ』どこかで落としてるんですけどお。ちょっと取りに戻る」
「主殿、今はまず目先の目的を見失わないことでござるよ。砂漠というモノは恐ろしいのでござる。真っ直ぐに歩いていたつもりが、いつの間にやら元の場所へ戻っていたりと、奇怪な現象が起こる場所でして。『たまごっぴ』は必ずや、この手裏剣寿助が取り戻しますので。この世界に日暮れがあるかは分かりませぬが、砂漠の夜は冷えるでござる。先をいそぎましょう」
3時間後――。
「ねえケンケン。なんかすごく暑い感じするんだけどぉ」
どうやら朝がきたようだ。となると、その前の数時間は砂漠の夜。気温はこれから上昇を続ける。
「ダメぇ! のど乾いた! 疲れた! 動きたくなぁい!」
ようやく見つけた岩陰で座り込むと、ユルエが駄々をこね始めた。
「不憫でござる……。しかしこの剣寿助、扇子の先から水を出すほどの術はまだ会得しておらぬでござる。面目ない」
「もういい。ペットの水飲むから」
シュルケンが耳を疑っていると、次は目を疑った。ユルエが首から下げたペットボトルで水を飲んでいる。
「あ、主殿? それは……」
「ごくっ。ブクロの駅んとこで買ってたんだけどぉ。ごくごく」
「そ、その……。よろしければ拙者にもひと口……」
「えー。間接キス、キモイ」
挫けた。
「あ、でもねえ。これだったらいいかも。ケンケン、そこに座って上向いて口開けて。あーん、って」
「え? こ、こうでござるか? あーん」
ここで空想しましょう。
(女子高生が立っています。その目の前に跪いて顔を上げ、間抜けに口を開いている間抜け面の忍者がいます。女子高生は手にしたペットボトルを少しずつ傾けて、慎重に、一滴ずつ水を垂らしています。)
「ほおら。お飲みなさぁい。美味しいでしょぉ、美味しいでしょーお」
「あ、あるじどの! お、おいひいでございまう! おいひいでございまする!」
「おほほほほ。くるしゅうない。くるしゅうないぞえ」
そしてまた2時間――。
「はあ、はあ。主殿、この世界は1日が短いように思われます。今日のところはこのくらいで。おお、そこにちょうど岩場があります。そこで野宿といたしましょう」
「だねー。結局なんもなかったし」
シュルケンは背中から大きな風呂敷を取り出し、ユルエの寝床を作っていた。そこへ。
「あれ?」
「主殿、何かございましたか」
「うん。『たまごっぴ』見つかった」
「……」
砂漠の恐ろしさは、その幕を開けたばかりだった。
明日より12:00更新です。
21:00からは激戦区なので。。




