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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第二章・七人の侍編

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『回想・ベルケン(ベルモットとシュルケン)』


「ニンジャってのは、どうやってなるんだ」


 9月の浅川の河川敷。遠くでは、夕闇の中で一二三が竹刀を振り続けていた。ユルエの夕食支度中、河に向かって小石を投げていたシュルケンに、ベルモットが声をかけた。

 シュルケンは、手にした小石を水面に何度も滑らせながら答える。


「生まれ落ちたその日から、ただ日々の鍛錬(たんれん)を繰り返すのみでござる」


 何度も川面(かわも)を跳ねる小石は右へ曲がりながらも、50メートルもある向こう岸へ届く。その跡が消えない間に、彼は答えた。


「ははっ。赤ん坊が鍛錬するのか」


 笑い飛ばしたはずのベルモットが、次の言葉で身を震わせた。なぜなら、



「まずは生まれてすぐに10日の間、山に捨てられるでござる――」



 シュルケンが、ゴミの日でも口にするように平然と答えたからだ。


「すぐって、お前。赤ん坊をか!?」

「そうでござるよ。母の乳を吸うより先に、自然のすべてを身体に吸収させ、教え込むためでござる」

「し……死ぬだろう、普通に」

「ござるな。拙者は運良く残った一人でござる。同じ頃に、赤ん坊8人が生まれたばかりで死に申した」


 飄々(ひょうひょう)としたいつもの語り口で、彼は壮絶な話を聞かせた。


「そう思えば、拙者はその時に死んでよかったのかもしれぬでござる」

「なに言ってんだ。生きててナンボの人生だろ」

「そうでござるかなあ……」


 少し寂しそうにしゃがみこんだ彼に、ベルモットもつき合う。


「まあオレも、似たようなモンだったかもしれねえ」

「錬金術師というのは、如何(いか)にしてなれるのでござるか?」


 当然の質問が投げられた。


「家系だな。血筋っつうか。錬金術師は、女にしかなれねえんだ」

「左様でござるか。ベル殿は忍術で言う火遁(かとん)土遁(どとん)金遁(きんとん)の術を操れるようでござるが。それも血筋によるモノでござるか?」

「ああ。オレの家系は炎に特化した正統な錬金術師だ。この世界には、『火』『土』『水』『木』『金』のエーテルが存在する。自然の法則だ」

「それは『木火土金水(もっかどごんすい)』の在り方でござるな。西洋とて、自然というものは等しく平等でござろうからにして」


 シュルケンは、握っていた小石をすべて河に投げ入れた。


「そうだ。この世に存在するすべての物質は、その構成で成り立っている。その成り立ちを理解し、操り、全ての錬金術師は古くから『純金の練成』を目指した。様々な金属を合成して、金を生み出そうとしてきた」

「純金、黄金(こがね)を生み出すでござるか! それはひと財産築けましょうぞ!」


 シュルケンにしてみれば、ジョークのつもりだった。金や銀というものは、混じりけの無い一つの存在。何を掛け合わせて作れる物ではない。でなければ、通貨として珍重される事もないのだから。


「そうだ。だから錬金術師ってのは、欲に目の眩んだ一族の末路なんだ。数百年も失敗を続けた歴史の中で、気が狂ったようにそれでも失敗を続けて引き返せなくなってる。プラチナムなんていう究極の金属まで妄想してな。そのうち古代の怪しげな儀式まで取り込んで、悪魔と契約するヤツまで出始めた」

「悪魔、魔の使いでござるな。忍びの中にも『魔』を呼び出す高等忍術があるでござるが」

「へえ。おもしれえな、ニンジャ。呼び出してほしいもんだ」


 すっかりと笑い話に移った二人は、しばらく世間話の(てい)になった。背中では、ユルエの炊く米の匂いが立っていた。


「ってことはニンジャってヤツも、錬金術師と同じようなことやってるって訳だ」

「ござるかな。忍びにとって自然とは調和するもの。その力を変えようとはせず、その大いなる力をひたすら恐れ、借りるのみのもの。自然は、人の手に余るものでござるからにして」

謙虚(けんきょ)だな。その精神がスプーン一杯でもオレの国にもあれば、私財を空にして路頭に迷う連中もいなかったろう」


 ベルモットが、そばにあった小石を川に投げた。

 そこに、シュルケンが立ち上がって見せる。


「お恥ずかしい限りではござるが、ベル殿にだけ見せたいものがあるでござるよ」


 言うと彼は、河の(ふち)まで進み、両手で水をすくい上げた。


「なんだ、飲むのか? フォーミュラの真似でもしてくれるってのか」

「いえ、滅相(めっそう)もござらぬ。拙者にできるのは、この程度でござるよ」


 そして空中に水飛沫(みずしぶき)を飛ばすと、両手の指を(から)め合わせた。すると、飛沫はそれぞれが小さな玉に変わり、空中で静止した。さすがにベルモットも驚いた。


「すげえじゃねえか。それがニンジュツか。水性錬金術者でも、なかなか真似できねえぜ」


 シュルケンが指を解くと、水玉は草むらへと落ちた。


「ベル殿に比べればお粗末な術。この鍛錬の成果、何の役に立った試しはなかったでござる」

「もったいねえな。その鍛錬ってヤツ、アイツと同じくらいやってみたらどうだ。小雨くらいなら降らせるんじゃねえのか」


 ベルモットは、竹刀を振るう一二三を振り返った。


「ござるな。しかし拙者にはもう、あのような若さと心の熱さがなくなったでござるよ」

「そんなことか。オレより若いんだろ? もうちょっと無茶してみてもいいじゃねえか。バカってのは、そういうのが得意なんだからよ。オレも含めてな」

「ござるな」


 そんな小さな笑いの中、ユルエの声が響く。


「ベルモっちー。カレーのお皿作ってー」

「また辛くねえカレーかよ。シュルケン、テメエもそろそろヒフミに声かけてきてやってくれ」

「仕った」


 夕陽が落ちれば焚火の周りに6人が輪を作る。それぞれが、なぜ出会ったのかも、まだ分からないまま。


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