表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第二章・七人の侍編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/92

43・縄張り

この話の前に、ep.42・先バレ投稿『一二三特訓編』が入ります。

読み直し、どうぞ。



 卜伝の遣いとして、千葉衆作が浅川の河川敷まで便りを届けに来た。受けとったのは、ちょうど買い出しへ向かうためテントを出ていた香月だった。


「卜伝殿からだ――」


 若侍は不機嫌に横を向くと、古めかしい書状を彼女へ手渡した。


「シュルケンさんに頼めばよかったのに。でもわざわざ、ありがとうございます。よかったら、お茶でも飲んでいきませんか? それとも電車の時間がありますか?」

「俺は別に――」

「いえ、実はガンリュウさんに日本のお茶の淹れ方を教わったばかりで。誰かに味わってもらえたらと思っただけなんですが。やっぱり、忙しいですか?」


 香月の誘いに、7人の侍たち最年少の千葉が頭を掻く。


「なんだそれは。毒見でもしろというのか」

「そんな。でも、確かにちょっと自信はなくて――」

「毒見ではないか。まあ、ただの茶葉が毒になるなら物の試し。飲んでもみたいものだ。つき合ってやろう。ただし、早くな」


 いそいそとテントへ急ぐ香月の背中を見ながら、千葉はいつもの鋭い目つきを取り戻す。


(こんな小娘どもと(たわむ)れて――あのガンリュウという男、本当に俺より腕が立つというのか)


 テントの前に据えられたアウトドアテーブルのそば。椅子はあったが、千葉は芝生に腰を下ろして待った。

 やがて、香月が表へ出てくる。


「じゃあ、ご用意ができましたので――あら、椅子に座っていいんですよ」

「構わん。武士の茶は地に腰をつけ、胡座をかいて(たしな)むものだ」

「そうなんですね。じゃあ、私も同じように――」


 芝へ茶器を置いて座り込んだ香月に、千葉がたじろいだ。彼女が短い裾のナース服のまま、ひざを組もうとしたからだ。


「貴様、女だてらに胡座など……少しは(つつし)みがないのか」

「え? でもガンリュウさんがいつも、仲間なら同じように振舞えって」


(またガンリュウ。やはり女子(おなご)遊びに呆けている腑抜けた浪人ではないか)


「仲間ではない。俺は客人として参っている。それを弁えろと言っておるのだ」

「はあ。だったら正座というのが……でも私、あれはちょっと苦手で。すぐしびれちゃうんですよね」


 その素直な笑みに、千葉が目を外す。


「我慢しろ。茶を()てるというのは、型が大切なのだ。それで、肝心の茶はまだ出んのか」

「あ、はい。40秒待ってからって聞いてるんで、もうすぐです」


 粗末なヤカンで湧かした湯に、これもまたユルエが100均で買ってきた湯飲み。素朴といえば聞こえもいい茶器で、香月が湯飲みにお茶を注いだ。


「どうぞ」


 距離1メートルほどの対座で、千葉は湯飲みを手にした。そして無表情にひと口。


「娘――。お前はこれを、どのような湯で淹れた」

「え? どのようって、湧いたお湯を――」

「すぐに注いだだろう。熱い。せっかくの良い茶葉が台無しだ。一度、別の湯飲みに移して、冷ましたものを入れろ。あの男、そんなことも教えなかったのか」


 そう言うと、千葉はやにわに立ち上がり、


「帰る――」


 ひと口のお茶で背を向けた。


「あの! すみません! もっと勉強しますんで、また来てください!」

「来ん! 馴れ合いはいらぬ!」


 言い残したあとは、秋風と共に去っていった。



「ほう。それで、この書状か」


 戻ってきた巌流へ便りを渡すと、目を通した彼はニヤリと口元をゆがめた。


「何て書いてあるんですか?」

「ああ。これからの戦場は、縄張りを決めようということらしい。共闘はしないとな」

「そんな……。あの人たち抜きで、今の私たちじゃ……」

「勝てん。だからだ。だから急いでいる」


 そんな巌流の視線の先には、河原へ向かってくる一二三の姿があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ