41・数と力とその技と――
シュルケンを残して、巌流たちは河原へ戻っていた。圧巻の布陣で化け物どもを一掃した卜伝らの戦いぶりに脱帽していた。自分の刃が届かないところで、全てが終結したのだ。己の力の無さを感じた訳ではなく、一糸乱れぬその連携に圧倒されたのだ。
(俺が一人吠えたところで、あの数は倒せなかった。しかも、見たこともない新手の敵の急所を確実に刺し、切り捨てていた――)
巌流は、魔物が消え、色と形と平穏を取り戻してゆく渋谷の街中で、卜伝に訊ねてしまっていた。
――「あの化け物ども、一つひとつに違った倒し方があるのでござろうか……」
敵の弱みを知ろうと願い乞う――侍としては、屈辱でもあった。それは闘いの中で見極めなければいけないと、彼は思うからだ。
――「見極めはなあ、簡単なことです。あらゆる攻撃を一瞬のうちに集中させればよい。斬る、薙ぐ、突く、叩く――それで見えてくるものですわ」
俺にはできない――巌流は奥歯を噛む。それは、圧倒的な力を持った7人の強者が揃ってこその結果。香月が言うところの、てんでバラバラな『導かれし7人』の力では、手に負えないことだった。
ベルモットのような異次元の力が揃えばまだしも、彼らにはまだ、闘える力のある者が少なすぎた。
河原では、ユルエが夕飯準備の煙を立てている。珍しくベルモットも揃っていた。
「あー、皆、帰ってきたー? フォーミュらん、ご飯の水用意してー! 今日は辛くない麻婆豆腐だからー!」
「はい、ユルエさん。今すぐ用意します」
「で、ユルエ。『マーボードーフ』ってのは、どこの国の料理なんだ? オレはもう、カレーに飽きてるからよ」
毎度の気の抜けた光景は巌流の目に、それでもある意味の連帯性として映っていた。もうすでに3週間は共に過ごしてきた、いわば友――。
ならば、その個性的な能力を以てして、あの7人の侍たちと肩を並べなければならない。そう思えば一人目は決まった。まずは剣士を育てなければと――。
そんな巌流の決意に満ちた視線も知らず、一二三は4人で火を囲んでいた。最近では、夕食までテントにつき合って帰るようになっている。花音も、ダックスの散歩には朝夕で現れる。
「ユルエ、マーボードーフか? まあまあだな。さっき辛くねえとか言ってたが、次は辛くしてくれてもいいぞ」
「えー、でもそれだとフォーミュらんが食べらんないからあ」
「ああそうか、お子様だったな」
和やかな場。しかし気がつけば、巌流の隣にはシュルケンが立っていた。
「相変わらずの殺気の無さだな。俺に気配を気づかせないとは」
「いやはや、それが忍びでござるから。それより巌流殿、お耳に入れておきたいことが。あの魔物たち、消え去ったあと、時に美しい宝玉のようなモノを落としてゆくようですぞ」
「宝玉――?」
「卜伝殿らは、気づいておりませぬでしたが。拙者たちにとっては、その……」
金か――と、巌流もありきたりの事実に気づく。自分一人ならば貧乏侍で過ごせていたが、この大所帯には必要なものだと。
「それで、宝玉とやらはどこにある」
「それがその――すでに『買取ショップ』なるところで両替を済ませてきたところでござって」
言うと、彼は手のひらに500円玉を乗せてみせた。
巌流は珍しく可笑しそうに笑い、
「それもまた知恵と能力か。なら、毎日3匹は倒さなければな。ユルエも大変だろう」
と、麻婆豆腐の待つ鍋のもとへ歩いていった。




