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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第二章・七人の侍編

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39・問い、問われ

 

『香月・ユーカスティス』――目の前の老人は、確かにその名前を口にした。彼女の父の名を。


 香月は目がくらんで倒れそうになる。それを支えたのは、いちばんそばに座っていた伊東一刀斎だった。


「おいおい。そういうのは夜の河辺で二人きりの時にしてくれねえか」


 飄々(ひょうひょう)と笑う彼に、香月はすぐに身体を起こして頬を染めた。


「ありがとうございます……」


 彼女はそれから言葉を繋いだ。


「どうして父の名を、私の父の名を知っているんですか!? 一度目の転生先が、『惑星・ユーカスティス』だったんですか!?」

「やはり、(ゆかり)の者でありましたか。ワシらをマルズ星へ送った方がユーカスティス殿でありました。いや、そのことを(うら)んではおらなんだ。あの御仁(ごじん)には、大変に世話になり申した。右も左も分からぬワシに、様々と教えてくださったよ。その礼として、ワシは自らマルズ星へ行くことに決めたのでございますよ」


 香月はまだ信じられない顔だ。


「惑星移住計画のことを知っていて、それでも自分の意思で向かったというんですか? あの星は事前調査ですでに、危険な惑星だと分かっていたはずなのに」

「そう聞いてはおりました。しかし、我らは転生地の方々から集い、そして決めたのです。この生まれ変わりは、そのためのものであったのだと。誰も迷いはございませぬでした。戦場があるならば、そこがワシらの生きる場所と信じて――」


 やはり香月には信じられない。わざわざ死に向かう意味が分からない。


「でも……。皆さんは……結局はそこでも……」

「その通りでござります。返り討ちに会いました。侍というのは、時に馬鹿でしてな」


 卜伝は快活に笑った。

 が、巌流は笑えない。


「そなたらが大転生者に会ったというのは、その後のことでございますか?」


 卜伝は笑いを静かな笑みに変えて、


「そういうことじゃ。誰も皆、一度目の転生の意味は分からぬまま。しかし、二度目の転生では確かな意味をもらったのでござる。『武士ならば、鮮やかに散ることこそが本望であろう』と――」

「それが……この世界への転生だったんですか。また魔物の住むこの世界への転生が」と、香月。

「その通りですな。我らは剣の道を極める手段があれば、何でもやり申す。そこが修羅場と聞けば、尚のこと」


 香月には、全く理解ができなかった。もしや巌流もそうであるのかと勘繰りもしていた。彼が暇を見つけては、近くの剣道場へ顔を出しているのを聞き知っていたからだ。


 その話へ割り込むのは、千葉衆作(ちば しゅうさく)。やがて北辰(ほくしん)一刀流(いっとうりゅう)の開祖となる、幕末に生きた若侍だ。それが、巌流へと台詞を吐いた。


「卜伝様。巌流なるその者、本気で魔物に太刀打ちできると申せますか。今、ここで問いたくござりまする」


 そうじゃのお――と、卜伝が長いあご(ひげ)を撫でながら、


「流派不明。が、剣の太刀筋(たちすじ)は独自で優れておる。ワシの見立てでは、場合によっては、お主より強いかものお」

「な……」


 そこから言葉を失くした千葉は、芝から立ち上がって、どこかへと歩き去った。侍という者は、十割をプライドで生きている。



 香月の話に戻る――。

 香月には、父がどこまでのことを話していたのかだけが気になっていた。この侍たちに世界のことを、宇宙のことを、まさかその先までは話していないだろうかと。


 彼女は思う。何に対しても興味を押さえられなかった父が『異世界転生』などという事象を耳にすれば、飛びつかないはずがなかった。人の生と死、その永遠の課題に到達できるかもしれない現実なのだ。根掘り葉掘り、この侍たちから話を聞きだしたかったろう。そして、その代償は何だったのかと。

『不老不死』。その能力の開花を身に託された香月としては、出会ってはいけない者たちに出会った気がしてならなかった。


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