38・カヅキ・ユーカスティス
河原の芝生で7人の侍が野宿。朝からそういった光景が通勤通学の人々に晒されている。
最近では警官の見回りで、何度か職務質問があった。それを上手くやり過ごすのは、ユルエの出まかせだった。
「伝説のチョーデカい魚がこの河にいるって聞いてぇ。ウチら、それ狙ってんだよねえ。SNSでバズったらヤバいじゃん? ちょっと長期戦になるけど、ここってBBQとかやっていいんでしょ? それのチョー長いバージョン」
ただし警官は、その裏付けを取りたい。身分証の確認だ。
そこは、シュルケンが拾ってきた落とし物の中にあった免許やパスポートを、香月の正確なデータトレースと、ベルモットの偽造練成によって完成していた。
ベルモットはこの世界で、プラスチック素材や合成樹脂における構成要素の把握によって、練成が可能なレベルに達したのだ。その練成の度に胸を大きくしながら。
「ユルエ殿。もう一杯汁をくださらぬか――」
侍たちに専らウケがいいのは、ユルエだった。胃袋をつかまれた男どもは、いつの世界でもそんなものなのだ。世間話に花が咲いていた。
しかし、会話の手綱を誰かが握り始めると、様相が変わっていった。
「この世界は恐らく、地球がまるごと転移しておるのです。魔物の住む星を、すっぽりと包み込むように」
とんでもなく重大な事実をさらっと告げたのは、朝食後のお茶を飲んでいた卜伝だ。侍たちにも緊張が走る。
お茶を振舞っていた香月が、真っ先に話へ飛びつく。なぜなら彼女もまた、その思いつきを胸に隠していたからだ。言いだせなかったのは、仲間の心を乱さないためだった。そして彼女自身もどこかで、これ以上何も起こらない平穏を望んでいた。
「詳しく! そのお話、詳しく教えてください!」
彼女の心の揺れを見抜いたか、卜伝は逆に焦らし始める。
「ワシも、そこで知ったのですわ。星々というものは無限に存在すると。星というのは丸い球のようなモノだと。ワシらの住むこの『地球』という星も、宇宙という無限の世界でたった一つの塵芥の星に過ぎないのだということを、あの方――あの御方は教えてくださりました」
香月が、卜伝へ叫びに近い声で問う。責め寄る勢いだ。
「あの御方――その御方というのは、どなたなんですか!!」
見かねた巌流が諫める。
「香月、落ち着け。まだ卜伝殿の話は終わっておらぬ」
そうですなあ――と、卜伝がお茶を啜った。
「お嬢さん。そなた、名を香月と申しましたな。もしや、『香月・ユーカスティス』殿の縁者ではありませんかな――」




